「耳から血が出そう」北朝鮮人民がウンザリする政治宣伝部隊
2025年1月16日(木)6時35分 デイリーNKジャパン
北朝鮮の建設現場などには、スピーカーを積んだワゴン車の前でアコーディオンを演奏し、旗を振り、歌を歌い、けたたましく演説をする女性らの一団がいる。これは「機動芸術宣伝隊」と呼ばれるもので、労働意識を高めるのが仕事だ。「扇動隊」「宣伝隊」などとも呼ばれる。
「もっと働け」「ノルマを達成せよ」とがなり立てるばかり彼女らは、現場の人びとにとって煙たい存在だ。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局は、昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会拡大会議の結果に基づき、各組織、機関、企業所に伝え、10日まで目標達成のために「経済扇動」を行うよう指示した。
新義州(シニジュ)市郊外にある楽元(ラグォン)機械連合企業所の党委員会は、大型建設機械と設備の生産拡大という総会の決定に基づき、労働者の士気を向上させるための宣伝扇動事業を行っている。
現場では、平安北道芸術団や企業所内の芸術扇動隊が合同で新年公演を行った。ここまではいいだろうが、扇動隊はそれ以降の毎朝、企業所の正門前で30分間、経済扇動音楽をかけてシュプレヒコールを叫んで踊っている。
党委員会は、扇動隊の役割がいかに重要なを力説しているが、前を通り過ぎる労働者たちのリアクションは冷淡なものだ。
「テレビやラジオでも毎日宣伝扇動が繰り返されているのに、それに飽き足らずに、職場でも随時、宣伝隊を集めて『成果を出せ、立ち上がれ、闘え』と叫ばせるのだから、うるさくてイライラして我慢できない」(情報筋)
中にはこんな人もいるという。
「耳から血が出そうになるほど騒ぎ立てる宣伝扇動は聞くのも嫌だ」
「今の世の中、あんなものを聞いて党の政策を貫徹しようと奮い立つ者がどこにいる」
扇動隊は、1961年12月28日に開催された全国青年起動宣伝隊総合公演を観覧した故金日成主席の指示に基づき、工場や行政機関単位で発足した。
このお手本となったのは、中国の楽隊だろう。中国共産党は日中戦争のころから、音楽が革命の遂行に非常に重要な役割を果たすと考え、人民公社にも楽隊を作らせた。しかし、集団農業の非効率化が明らかになり、改革開放初期の1982年に人民公社が解体されると同時に、生産性向上に全く意味のなかった楽隊も消えていった。
中国が40年以上前にやめたことを、北朝鮮は2025年の今に至るまで続けているのである。