総統選で見た「親日・台湾で日本退潮」の寂しい現実

1月16日(木)6時0分 JBpress

2020年1月11日、台湾の総統選挙で勝利した蔡英文氏(写真:AP/アフロ)

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「台湾の国民が四年に一度自らの運命を決める選挙が、無事行われました。

 我々がもっとも大切にしているのは、一個人や政党の勝ち負けではなく、民主主義の勝利です。今日も、すべての台湾人と一緒に民主主義を享受できることが、私にとって最大の誇りです。

 再び総統としての重責を託されたのは、国民が私にこれまで以上にリーダーシップを発揮し、未来を見据えた政策を実践することで、台湾をさらに邁進させたいからだとおもいます。

 そのため、国民の声に謙虚に向き合い、不動の心で困難を乗り越え、そして、同様に台日の絆を深めていきたいです!」

 蔡英文総統は、817万票という前代未聞の得票数で再選を決めた1月11日夜、ツイッター上で日本人に向け、日本語でこのようなメッセージを送った。これを日本では、「蔡英文政権の日本重視の表れ」と報じられた。

 だが、本当にそうだろうか? 台北で取材していると、むしろ台湾における日本の地位が、急速に弱まってきていることを感じた。


記者会見で日本人記者を指名するつもりナシ

 例えば、1月11日夜9時から9時40分まで、再選を決めた蔡英文総統の記者会見が、民進党本部前に作られた仮設テント内で開かれた。集まったのは、台湾内外の記者やカメラマン100人ほどで、台湾メディアの記者を除けば、日本人記者が圧倒的に多かった。

 だが、われわれ日本人記者がいくら挙手しても、司会役の民進党本部職員は指名してくれない。外国人記者で指名されたのは、米ニューヨークタイムズ記者と、英BBC記者の二人だった。あとは台湾メディアばかりである。

 民進党は会見を打ち切ろうとしたので、われわれ日本人記者たちがブーイングのように手を振った。するとようやく最後に、NHKの台北支局長を指名したのだった。民進党関係者に確認すると、こう答えた。

「NHKのT支局長は、台湾人と日本人とのハーフで、台湾語もペラペラだから、台湾人と思って指名したのですよ」

 つまり、ハナから日本のことなど考えていないということだ。そう言えば、翌12日に台湾のテレビで見たが、蔡英文総統がアメリカ在台協会(AIT)のブレント・クリステンセン台北事務所所長(アメリカ大使に相当)と会見した時は、満面の笑みを浮かべていた。ところが、続いて日本台湾交流協会の大橋光夫会長と会見した時の表情は、ぎこちないものだった。これは、日本が4月に中国の習近平主席を国賓として招待しようとしていることに対する警戒感もあるのかもしれないが。


米国代表団を厚遇するも日本には・・・

 その前日の10日午前、民進党本部1階の選挙対策本部で取材していると、20人ほどのアメリカ人が入ってきた。民進党の職員たちが、恭しく頭を下げ、蔡英文民進党の選挙政策について説明している。私はその光景を見ていて、日本の戦後のGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のようだと思った。

 やはり民進党本部で取材していた、台湾生活が長い旧知の元日本大手紙台北支局長は、次のように語った。

「彼らは、選挙をアピールするためにアメリカから招待されたデリゲーション(代表団)です。台湾政府は、親台派のアメリカ人を増やそうと、議員・学者・ジャーナリストなどを、費用全額を台湾政府持ちで招待しているのです。

 昔は日本に対しても同様のことをやっていて、私も参加したことがあります。まさに大名旅行ですよ。しかし、もう日本は価値がなくなったと判断したのか、最近はやっていないと思います」

 アメリカ人たちの会話を聞いていて、その日の夕刻に、盛大な祝宴が開かれることを知った。場所は、広東料理の「頤宮」(いきゅう)。2018年と2019年の台湾ミシュランで、唯一の3つ星を獲得した「台北で最も予約が取りにくい最高級店」だ。

 そこで夕刻に、頤宮へ行ってみると、午前中のアメリカ人たちが続々と、吸い込まれていった。店の人に彼らが接待を受けている料理を聞いたが、教えてもらえなかった(当たり前か)。ただ、「多くのお客様が注文されるミシュラン3つ星コース」を教えてもらった。メニューは以下の通りだ。

<特製前菜、ネギと生姜のロブスター焼き、ユリ根と鰾(ふえ)のスープ、日本産三十頭アワビとガチョウ爪の煮込み、和牛のニンニク炒め、鱈(たら)の梅菜巻き、トウガンのカニ身とエビ詰め、チーズの包み揚げ、棗(なつめ)と燕の巣のスイートスープ>

 これで一人当たり2万1880台湾ドル(約8万円)で、10%のサービス料が加わる。20人のアメリカ人に、台湾人が5人同伴したとして、また高級ワインなども開けたに違いないから、この日の晩だけで300万円くらいかかったものと思われる。

 飛行機代やホテル代なども加えれば、まさに莫大な額だ。だが台湾政府からすれば、それに見合うだけの価値があるということだろう。


「世界一親日的」とされた台湾だったが

 ところで、この「頤宮」の帰りに近くの台北駅を通ったが、そこでもかつての「日本の栄光」は地に堕ちていた。前回の総統選挙の頃は、駅に入っている店舗の3分の2くらいが、日本の食品店などだった。この台北駅というのは、日本植民地時代に日本人が建設したもので、いまでも当時の蒸気機関車を展示している。前回来たときは、日本植民地時代がいまだ続いているような印象を持ったものだ。

 だが今回は、セブンイレブンとファミリーマートくらいしか「日本」は残っていなかった。代わりに増えていたのは、地元台湾の店舗だった。

 ある台湾メディアの編集長と、台北市の中心街、衡陽路を歩いていた時のこと。彼女がポツリと言った。

「この通りの店舗は、以前はほとんどが日本の食べ物屋さんだったんですよ。だけど最近は、地元の台湾系の食べ物屋が増えてきました」

 たしかに、台湾最大のタピオカミルクティのチェーン店『50嵐』(ウーシーラン)、『MR.FOXX』(狐狸先生)などが並んでいた。『50嵐』は東京・広島・沖縄にも上陸し、大きな話題を呼んだ。

 思えば、いまやシャープが台湾企業となり(2016年に鴻海が買収)、台湾最大の誠品書店が日本橋に進出する時代である(昨年9月オープン)。「日本⇒台湾」という一方通行の時代は、確実に終わりを告げている。

 それでも、台北の林森北路の歓楽街には、30年ひと昔のように、日本人駐在員向けのバーが広がっていた。日本人に連れられて、1980年代からあるというバーに行くと、立錐の余地もないほど日本人男性で溢れていた。見たところ、彼らの平均年齢は、軽く60歳を超えている。「台湾駐在員時代の栄光が忘れられなくて、定年後に半ば移住してしまう人も多いんですよ」と言われた。

「世界一親日的」と言われる台湾でも、日本の存在感は確実に弱まっている。

筆者:近藤 大介

JBpress

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