中国に対抗、インドネシアの投資要請は日本の好機

1月16日(木)6時0分 JBpress

インドネシア海軍コルベット

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(北村 淳:軍事社会学者)

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が、同国を訪問した茂木外務大臣に対して、ナトゥナ諸島への投資を拡大してくれるように要請したことをインドネシア外務当局が明らかにした。


中国がナトゥナ諸島北方海域に侵出

 ナトゥナ諸島は南シナ海の最南部に位置し、それ自体を巡っての領土紛争は存在しない。しかしナトゥナ諸島北方海域の排他的経済水域(EEZ)の線引きに関してはインドネシア、マレーシア、そして中国の間で対立が継続中である。

 とりわけ強力な海洋軍事力を手にしている中国は、インドネシアを含む南シナ海周辺諸国との海洋領域紛争で軍事的威圧を露骨に強めている。

 中国は、ナトゥナ諸島の領有権を主張していないものの、ナトゥナ諸島北方のインドネシアEEZ内の一部海域については「九段線」内海域であるとして、漁船群や公船を展開させて軍事的威嚇を強化している(「九段線」は、中国が制定した「中国の主権的海域の境界線」)。

 昨年(2019年)12月中旬から、ナトゥナ諸島北部のインドネシアEEZ内海域、そして中国当局によると「九段線」内海域で多数の中国漁船団が“操業”を開始した。インドネシア政府は「中国漁船の操業はインドネシアの主権を侵害している」として中国政府に抗議した。だが、中国当局は中国の主権的海域での通常の漁業活動であるとして全く取り合おうとしていない。

 その後も現在に至るまで、同海域の30カ所ほどに中国漁船が留まっている。漁船群に加えて中国海警局(中国人民武装警察部隊海警総隊)巡視船も数隻展開しており、少なくとも「海警46303」「海警35111」という2隻の巡視船(ベトナムやフィリピンとの睨み合いなどでも、しばしば派遣される武装巡視船)が確認されている。

 このような紛争海域で“操業”する中国漁船のほとんどに海上民兵が乗り込んでいることは公然の事実である。それらの漁船の多くは武装した艤装漁船であることもまた知られている。

 そして「中国海警局」は、法執行機関としての沿岸警備隊としての任務と共に、アメリカ沿岸警備隊同様に第二海軍としても位置づけられている。


警戒監視を強めるインドネシア政府

 数年前からナトゥナ諸島北方海域への中国の侵出姿勢が強まった状況に対して、インドネシア政府はナトゥナ諸島北方海域を「南シナ海」から「北部ナトゥナ海」と改称し、インドネシアの主権が及ぶ海域であることをアピールしている。

 また、インドネシア海軍艦艇によるパトロールを強化したり、ナトゥナ諸島内にインドネシア海兵隊を配備するなど、「北部ナトゥナ海での国家主権は軍事力を使ってでも守り抜く」という姿勢を維持してきた。

 さらに、昨年12月からの中国漁船群の北部ナトゥナ海への展開に対しても、インドネシア政府は軍艦4隻を同海域に派遣して警戒監視を強めていた。

 中国側が海警局巡視船を送り込み軍事的威嚇の姿勢をちらつかせ始めたのに対抗して、インドネシア空軍は戦闘機を出動させて、中国側に一歩も引かない姿勢を示している。また、高速軍艦4隻を出動させて、同海域での警戒態勢を軍艦8隻態勢へと強化すると共に、大型海洋哨戒機による上空からの常時監視態勢も固めた。それら海洋戦力に加えて、ナトゥナ諸島内には防空能力の高い海兵隊部隊と、陸軍戦闘部隊を派遣した。

 もちろんインドネシア政府は、インドネシアと中国の海洋戦力には比較することができないほど大差があることを百も承知である。しかしながら、強大な軍事力を振りかざして、また経済的関係を“餌”にぶら下げて、海洋侵出政策をごり押ししてくる中国に対して、はじめから軍事的対抗オプションを放棄する姿勢を示していては、中国がますます軍事的圧力を強化して「戦わずして海洋領域を中国のものにしてしまう」ことは火を見るよりも明らかだ。そのため、インドネシア政府は軍艦8隻に戦闘機、海洋哨戒機それに陸上戦闘部隊までナトゥナ諸島方面に出動させ、国家主権を守り抜く姿勢を表明しているのである。

 とはいっても、中国がさらに多くの海上民兵“漁船団”を送り込み、海警局巡視船だけでなく軍艦や航空機まで派遣してきた場合には、インドネシア側の軍事力では対処しきれなくなる。それに、南シナ海でのアメリカによる対中牽制策は、FONOPしか期待できない。FONOPは、実質的には効果が上がらないことが既に明らかとなっている。


インドネシアからの投資要請は大きなチャンス

 そこでインドネシアは、冒頭で触れたように日本に投資を要請した。日本は、国民生活の生命線ともいえる海上輸送航路帯が南シナ海を縦貫している。インドネシア当局としては、その日本から何らかの支援を引き出して中国の海洋侵出圧力に対抗しようと言うのであろう。

 一方、日本側からみると、ジョコ大統領からのナトゥナ諸島に対する投資要請は、自国の安全保障にとって極めて大きなチャンスである。

 すでに日本は、ナトゥナ諸島にインドネシア政府が建設を進めている漁業関連施設への金銭的供与を実施している。インドネシア政府は、さらなる漁業施設への投資やエネルギー関連事業、観光業への投資を求めてきたわけだが、それらの投資要請と共に海洋警備活動での協力も求めている。

 ナトゥナ諸島は、中東方面から日本に原油をもたらす多くのタンカーをはじめ、日本の国民生活を支える海上輸送航路帯に隣接している要衝だ。すでに西沙諸島周辺海域と南沙諸島周辺海域での軍事的優勢を手中に収めつつある中国が、ナトゥナ諸島周辺海域での軍事的優勢までをも手にすると、南シナ海を縦貫する海上輸送航路帯は完全に中国がコントロールするところとなってしまう。

 もちろん、海上輸送航路帯を防衛するために中国海洋戦力を南シナ海から追い払うことなど、日本の防衛力ではとてもできない相談である。そして、インドネシア政府としても、日本による直接的な軍事的支援など全く期待してはいないであろう。

 しかしながら、日本の支援によってナトゥナ諸島に大規模な漁業基地を中心とした施設や、クルーズシップが着岸できる施設を含んだ観光開発などが進めば、搦め手から中国海洋侵出政策に対抗することが可能となる。

 たとえばナトゥナ諸島にそのような港湾施設を誕生させれば、日本の海保大型巡視船やアメリカ沿岸警備隊巡視船などが定期的に寄港することができるようになる。そして南シナ海の海上輸送に危害が加えられる状況が差し迫ったような場合には、海自艦艇をナトゥナ諸島に派遣してインドネシア海軍との協働警戒態勢を固めることも可能になる。

 ナトゥナ諸島開発への投資要請は、日本国防上のチャンスとしての視点から、有効に生かさなければならない。

筆者:北村 淳

JBpress

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