経済制裁なんのその、好調ロシア株式市場

1月16日(木)6時0分 JBpress

写真はFSB本部銃撃事件翌日の現場周辺の夜景。雪は全くない。

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 今年の冬は日本も含め世界中が暖冬傾向にあるという。ロシアも例外ではない。

 地方の動物園では冬眠中のヒグマが春と勘違いして冬眠から目覚めたと報じられている。首都モスクワの昨年12月の平均気温はなんと摂氏5.6度。帝政期まで遡る133年ぶりの暖冬となった。

 新年に雪がなく、1月7日のロシア正教のクリスマスにも雪がないというのはモスクワ市民にとっては拍子抜けの冬休みであったに違いない。

 さて、この冬ロシアで気温同様にヒートアップしているものがもう一つある。

 それはロシア株式市場である。2019年中のルーブル建てMOEX指数の上昇率は+28.6%で史上最高値を更新、ドル建てRTS指数は年率で+45.0%の大幅上昇となった。

 もっともRTS指数は2014年12月のルーブル大幅切り下げ(ほぼ半分)の影響で最高値の更新には至っていない(下のグラフ参照)。

 日頃、日本の報道に接しているとロシア経済は「原油価格の下落、経済制裁の影響で長期低迷している」はずなのだが、株式市場に関しては様相が全く異なっている。

 ロシア株式市場好況の背景は何であろうか?

ロシアMOEX指数の推移

ロシア RTS指数の推移


ロシア経済ファンダメンタルズへの評価

 まず、ロシア経済にとってこの10年間、厳密には2008年のリーマンショックから足許までを振り返ってみたい。

 2008年以前のロシア経済は今では考えられないような原油価格の高騰に支えられてその全盛期を謳歌していた。

 その原油価格がピーク比3分の1、4分の1のまで急落、財政収入、輸出収入の大きな割合を原油中心とする資源に依存していたロシアが苦境に陥るのは明らかであった。

 さらに2014年にはロシアのクリミア併合に対する欧米諸国の経済制裁が加わることになった。これらのニュースのトップラインをつなげれば、既述のように足許のロシア経済が長期低迷に陥ったとしても何ら不自然ではない。

 しかし、ロシア政府・中銀がこの間、どのような対応策をとってきたかについては、市場関係者以外は十分な注意を払っていなかったように思う。

 我々が気づかぬ間にロシア経済は着々と基礎体力を蓄えていたのである。

 景気低迷が長引くと政府・中銀は教科書的には金融緩和、財政出動に走るものである。しかしロシア中銀は2014年末にルーブル防衛のために政策金利を17%まで引き上げ、その後5年もかけて足許6.25%までこまめに段階的に引き下げを行ってきた。

 市中の貸出金利もこれに連動する形で着実に低下している。しかも2019年のインフレ率は3%と中銀のターゲットに着地させることに成功した。

 見事な金融政策の手綱さばきである。

 財政についても極めて抑制的な運営を行ってきた。2019年初にはVAT(付加価値税)税率の2%引き上げをこともなげに行っている。

 また足許の原油価格の水準であればロシアは国民福祉基金への余剰資金積み立てが可能となる。

 ロシア政府はこれらの資金(約4000億ドル)をウラジーミル・プーチン大統領が主導する「ナショナル・プロジェクト」に5年計画で支出する計画であり、この財政出動は各年のGDP(国内総生産)を0.6〜1.0%引き上げに寄与すると見ている。

 それでも目先数年間のロシア経済の成長率は1%台半ばから後半にとどまるとの見通しが多数意見である。

 他の新興国に比較すると見劣り感は拭い難い。しかしロシア経済のファンダメンタル改善への評価がロシア株式市場への資金流入を促していることは間違いあるまい。


経済制裁のインパクト

 ロシア株式市場にとって目先一番気になるリスク要因は米国による対ロ経済制裁である。

 2014年のクリミア併合以来、欧米諸国はロシアに対して40本近い制裁を科しているが、そのインパクトは西側が期待するほどには大きくなく、ロシア側が制裁慣れ(?)することもあり、その効果は時間とともに減じている。

 米国議会は2016年大統領選挙へのロシアによる干渉も加わり、現在ロシアに対し6つの制裁議案を提出している。

 特に昨年末から注目されているのはロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン(Nord Stream 2)に対する制裁案であるが、ドイツからの強い反発もありこれまでのところ発効可能性は低いと見られている。

 米国議会の強硬案としてはロシア国債への投資制限なども浮上するが、ルーブル建て国債(OFZ)の30%以上が足許外国投資家によって保有されており、その中には米国の投資家も少なからず含まれている。

 余談だが、昨年夏にUNCTAD(国連貿易開発会議)がロシアへの国別直接投資のランキングを調査、公表した。

 ロシア中銀が発表する対内国別直接投資ではキプロスが首位であるが、これは必ずしも実態を表していない。

 キプロスからの投資の多くはSPC(特別目的会社)を経由したものであり、その背後には真の最終投資家が存在する。

 この調査の結果、驚くべき事実が判明した。

 ロシアに対する最大の直接投資国はなんと米国だったのである。

 米国政府は米国企業のロシアにおけるビジネス権益保護も重要な使命である。対ロシア経済制裁には微妙な采配が要求されよう。

 今年は米大統領選挙の年でもあり、イランの例を見るまでもなく米国の対ロシア政策が急展開する可能性は排除できない。

 しかし、多くの投資家にとって経済制裁のリスクウエイトは小さくなっているようだ。


ロシア企業そのものの魅力

 ロシア株式市場好況の背景にはこうした外部要件がプラスに寄与していることは間違いないのだが、何よりもロシア企業そのものの魅力が高まっていることに注目したい。

 まず大前提としてロシア企業の業績が絶好調である。もちろん、エネルギー・資源関連企業は原油・資源価格に連動した業績変動は避けがたいのだが、それでもルーブル安、企業自身の合理化、効率化によって収益の改善を図ってきた。

 国内需要関連企業も2〜3年前までは国内消費の低迷で収益伸び悩みの先が多かったが、昨年あたりから大手消費関連企業で積極的な設備投資、テクノロジー導入で業績回復が顕著である。

 こうした好業績に加えて、第一の魅力はバリュエーションである。

 企業業績が好調であれば、そのバリュエーションも相応に上昇して不思議はない。しかし、年明け後も史上最高値を更新し続けるMOEX指数をみると、そのPER(株価収益率)は6.6倍、RTS指数でも7.1倍にとどまっている。

 先進国の指標(S&P500 21.8倍、TOPIX 15.8倍)はもちろん、他のエマージング市場と比べても半分程度のバリュエーションである。

 第2の魅力は配当である。ロシア株式(MOEX指数)の足許の配当利回りは7%を上回っており、高金利で人気の5年物ロシア国債(ルーブル建て)を上回っている。

 これはロシア企業、特にガスプロムはじめ政府系企業に対してはロシア政府が配当率の引き上げを強く求めていることが背景にある。

 また民間企業においてもコーポレートガバナンスの改善が進んでおり、かつてのようにオリガルヒのオーナーが意のままに利益配分を行うことが難しくなっていることがある。

 こうした割安かつ高配当の株式を欧米のプロフェッショナルなエマージング投資家が見逃すことはない。

 個人投資家もETFなどを通じてロシア株式への投資を積極化している。欧米に比べるとロシア株式のアナリストが皆無に等しい日本ではタイムリーな情報を得ることが難しいのが残念である。

(日本でロシア株投信残高がピークだったのは2008年春、RTS指数が最高値圏の時期であった)

 このロシア株式ブームが今年も続くのか、期待とともに注目を続けたい。

筆者:大坪 祐介

JBpress

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