着実にロシア離れ進めるウクライナ

1月23日(木)6時0分 JBpress

ウクライナの首都キエフ

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 2019年12月末、ウクライナ・ロシア両国のガス公社は天然ガス輸送契約に調印した。

 これにより、2009年ガス輸送・売買契約の失効〜ウクライナを経由するロシア・天然ガスのヨーロッパ輸送停止が回避され、2020年からの5年間、天然ガス輸送が継続されることになる。


ロシアからのガス輸入に依存せず

 今回の調印劇は、既報(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58728)の通りノルド・ストリーム2の稼働遅れでロシア側が譲歩せざるを得なくなったことが大きく影響している。

 ロシア側の弱味を冷静に見極めたウクライナ側の交渉術が光るが、ウクライナ側の耐性が強くなったことも交渉を左右した一因として挙げられよう。「ロシアのガス輸出に脆弱なウクライナ」はもはや過去のものとなっている。

 ウクライナは一定の国内天然ガス生産量があるが、さらに2014年の危機以降、政策的に天然ガス消費を減らしている。

 独立直後には年1200億m3、ウクライナ危機前も年500億〜600億m3を消費したが、今や年300億m3台に落ちており、必要な輸入量も年100億〜150億m3にとどまっている。

 そして、その輸入はロシア・ガスプロムを避けてもっぱらヨーロッパ側から輸入されている。

 すなわち、EU市場で調達された天然ガスを、パイプラインを逆方向に利用し、所謂「リバース輸入」体制で購入しているのである。リバース輸入の輸送力は増強されており年250億m3に達している。

 したがって、ロシアから輸入せずとも、国内ガス生産とリバース輸入で国内消費量を完全にカバーすることができる(グラフ1参照)。

 本稿執筆時点(2020年1月20日)では、ウクライナ・ロシア間売買契約は締結されておらず、交渉入りも伝えられていない。

(グラフ1) ウクライナの天然ガス供給源、単位:億m3

 実際、2015年11月25日以降、ウクライナはロシアからの天然ガス輸入を停止しており、それを記念したカウントアップ・サイト(http://utg.ua/still-alive/)まで作られている。

 さらに、ウクライナ領内の地下ガス備蓄庫(総容量310億m3)が巨大なバッファーとして機能しているため、ガス供給面における脱ロシアは盤石と言っていい。

 なお、リバース輸入価格は、EU市場価格に「ウクライナ国境までの輸送料」と「取り扱い企業の儲け」が付加されるため、理論的にはロシア・ウクライナ国境での直接購入より高くなる。

 ロシア側は「リバース輸入は20〜25%割高」と指摘するが、ウクライナに対し新たな売買契約(価格フォーミュラ)を提示していないため、価格の比較は机上の議論に留まっている。

 そもそもリバース輸入は、2009年契約でガスプロム社からの直接購入価格が高騰したため、これを避けるために開始されたものなのである(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37038)。

 ウクライナが脆弱なのは実はガス輸送の方である。

 国有ガス・パイプラインによるガス輸送は、ウクライナ最大のサービス輸出品であり、年300億ドルの外貨収入をもたらしていた。これが減少すれば国民経済に影響が出る。

 問題はこれだけではない。

 ロシア・ガスの輸送量がゼロになると、パイプライン内のガス圧がなくなるため、リバース輸入そのものが困難になる。パイプラインの圧力を保つには、60億m3の天然ガスを自前で確保する必要が出ている。


「エネルギー輸送国」おわりのはじまり

 新たな輸送契約締結で今後5年間(2020〜24年)の輸送が保証されたとはいえ、ウクライナ・パイプラインの輸送量は以前に比べ大幅に減ることになる。

 ノルド・ストリーム1、2だけでなく、新年早々稼働を開始したトルコ・ストリームが、ウクライナ迂回ルートとして機能するからだ。

 トルコ・ストリームは、既に南欧諸国に天然ガスを供給するルートとなっており、この部分だけでもウクライナ側の機会損失は年4.5億ドル(輸送量にして年150億m3)に達すると見込まれている。

 そのため、ウクライナは、かつてのようなロシア天然ガス輸送の独占的立場を保てなくなりつつある(グラフ2参照)。

トルコ・ストリーム

 ウクライナ政府はこのことを認識しており、例えば2019年11月にウクライナ中銀が出した経済成長予測においては、2020年の天然ガス輸送量は500億m3、2021年は300億m3に低下し、その機会損失額はそれぞれGDP比0.6%、0.9%に相当すると試算されている。

 また、ガス・パイプライン当局は、年400億m3レベルの輸送量を想定して今後は余剰箇所を改修対象から外すとの計画も発表している。

 ソ連崩壊から見られた「ロシアはウクライナ・パイプライン輸送に依存し、ウクライナはロシア・ガス供給に依存する」という相互依存関係は、まず後者が2015年に終わり、それから5年を経過していよいよ前者の終わりが見え始めた。

(グラフ2)ウクライナ経由のロシア天然ガス輸送量

筆者:藤森 信吉

JBpress

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