強気も曇るプーチン恒例「ボリショイ記者会見」

1月25日(金)6時8分 JBpress

出典:www.vedomosti.ruより作成

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モスクワで行われたロシア国防省の会合に出席したウラジーミル・プーチン大統領(2018年12月18日撮影)。(c)Mikhail KLIMENTYEV / SPUTNIK / AFP〔AFPBB News〕

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による年末恒例の大記者会見が2018年12月20日に行われた。

 国内外のジャーナリストを集めて1年に1度開催する「ボリショイ記者会見」として知られる大規模記者会見も14回目を迎えた。今回プーチン大統領は3時間43分をかけて、70近くに上る数の質問に答えた。

 プーチン氏は、この「ボリショイ記者会見」とは別に、ロシア国民からの質問に長時間にわたって直接対話形式で答える「ダイレクト・ライン」と呼ばれるイベントも年1回行っている。

(これについては筆者の6月のコラムを参考にしていただきたい「黒からグレー、そして白へ向かう縞模様のロシア経済」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53371)

 今回、大統領の発言そのものについては全般的に強気な展望を示した内容が目立ったが、大統領の口調ないしトーンについては、総じて高揚感が比較的抑制気味であった。

 その背景を解明するヒントとなり得るプーチン氏の発言を、以下の2つのテーマに絞って注目してみたい。


対ロ経済制裁とルソフォビア(ロシア嫌い)

 ウクライナ危機を契機に2014年から欧米諸国によって科されている経済制裁の効果については様々な議論がなされている。

 今回の会見ではプーチン氏自身も、制裁がもつ負の面を認識しつつも、国内での生産拡大など制裁によってもたらされたポジティブな側面について、欧米の専門家からもそのような指摘があるとしながら強調した。

 制裁解除の兆しが薄いなか、今回記者会見でみえてきたのは、プーチン政権が抱く制裁状態継続に対する覚悟というか諦め感のようなものが滲んでいる様子である。

 背景にあるのは、プーチン氏の言う欧米諸国の「ルソフォビア(ロシア嫌い)」であろう。

 ルソフォビアが根底にあるかぎり、ロシアが欧米諸国に対していかなる融和的アプローチをしようと、何らかの形でロシアに対する圧力をかけてくる状態からは逃れられないだろう、といった半ばお手上げモードが見え隠れする。

 象徴的なのは、英国でスクリパリ元ロシア情報機関員暗殺未遂事件を巡って科された制裁に言及した次の発言である。

 「これは政治主導のルソフォビア的なアプローチである。それは再びロシアを攻撃する口実としてのみ役に立つ」

 「スクリパリ事件がなければ、他の何かを思いついただろう。私にはそれが明らかだ。目的はたった1つ」

 「ロシアを封じ込め、潜在的な競争相手として台頭するのを防ぐことだ。それ以外の目的は私には考えられない」


経済発展政策の理想と現実

 例年通り、記者質問を受ける前に、冒頭でプーチン氏による2018年1年間のロシア経済の成果発表からスタートした。

 2018年第1〜第3四半期のGDP(国内総生産)成長率が1.7%であり、同年の鉱工業生産が前年2.1%から3%に上昇見通しであること、そして失業率が、2017年の5.2%の記録を塗り替え4.7%となる見込みであること、など数々のデータを淡々と列挙した。

 そして質疑応答が開始され、トップバッターとして、優先的に指名された大統領府担当記者が質問をした。

 内容は、第3期プーチン政権の経済政策のキーワードといえる「ナショナル・プロジェクト」の意義についてであった。

 プーチン大統領は、2018年の就任時に「5月指令」として知られる「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」を発表した。

 そこで、ロシアを世界トップ5の経済大国の一員とし、マクロ経済安定を維持しながら世界の平均を上回る経済成長を達成するという目標を定めた。

 5月指令では12の優先的な政策分野が示されている。

(1)人口動態
(2)保健
(3)教育

(4)住宅および都市環境
(5)エコロジー
(6)安全で良質な自動車道路

(7)労働生産性と雇用支援
(8)科学
(9)デジタルエコノミー

(10)文化
(11)中小企業・個人ビジネスのイニシアチブ支援
(12)国際的協力および輸出

 これらの分野において、ナショナル・プロジェクトが実施されることになった。

 ナショナル・プロジェクトについては、その実行可能性と経済効果への疑問符が拭えず、それが大統領府担当記者からの質問に反映された。

 プーチン氏は、幾度となく発言してきたと述べながら、ナショナル・プロジェクトの重要性と、ロシア経済が必要としている経済発展のブレークスルー(突破口)について説明した。

 突破口なしにロシアの未来はない、と。

 発展政策の説得性に欠けたからなのか、2番目に質問者として指名されたロシアを代表するテレビ局の記者もロシア経済のブレークスルーについての質問を続けた。

 さらに、経済政策を具体的に実行に移す役割のドミトリー・メドベージェフ首相のチームのパフォーマンスに満足かといった問いをつけ加えた。

 質問の内容も影響しているのだろうが、進行役のペスコフ大統領報道官から「質問は1つに」と釘をさされていた。

 大統領にとって顔なじみの他のベテラン記者が、大記者会見の終了間際に質問する機会が与えられた。

 「経済指標は美しいが、現実の一般国民の生活は苦しい」といったコメントをしつつ、ロシアにおける貧富の格差に関する問いを投げかけた。

 それに対し大統領は、格差は存在するが、ロシアだけでなく西側にも存在する、とかわした。

 ロシア国内でどのように対処していくかといった、質問者がおそらく期待していた答えではなかっただろう。

 ほかにも国内経済関連の質問は多くあったが、政策については強気でも、目標とする発展への道筋がいまひとつクリアでないという後味が残った。


プラカード対決?

 質問者を指名するのは進行役の大統領報道官のペスコフ氏であるが、プーチン氏も直接質問者を選ぶことがある。

 選ばれる側は、両氏の目を引こうと、毎年プラカードや衣装に工夫を凝らす。

 プラカードを駆使した目立ち対決がエスカレートしたためか、今年はプラカードの大きさに関して、A3(297ミリ×420ミリ)のサイズ以下にすること、というルールが敷かれたという。

 例年外国プレスの代表者数名も指名される。

 昨年は指名を受けなかったが、今年は日本の記者が流暢なロシア語でプーチン氏に質問する機会を得た。

 領土問題と平和条約締結問題についての問いに対し、プーチン氏は、沖縄県の米軍基地問題に言及し、県民や県知事が反対している事実を述べながら、日本の主権について疑問を呈す発言をした。

 その他、核の脅威、ウクライナ問題、シリア問題、年金問題など、多岐にわたった。

 ゴシップ的な質問では、現在シングルのプーチン氏に結婚の意思があるか問われ、「いつかは結婚しなければならないね、たぶん」と答え会場の笑いを誘っていた。

 ちなみに、ロシアのメディア調査会社の情報によると、記者会見当日の12月20日から22日まで3日間にSNSユーザーが残した大記者会見に関するメッセージは58万4000に上り、そのうち最も多かったのが、大統領の結婚に関する質疑応答についてだったという。


大記者会見にまつわるその他のデータ

 毎度注目されるのが、大統領が、会見にどれだけの時間を割いたか、およびいくつの質問に答えたかである。

 今年は3時間43分をかけて、69の質問に答えた。

 経済紙ヴェードモスチがこれまでの「ボリショイ記者会見」について数字を出しているので参考までに表にしてみたのが以下である。

プーチン大統領のボリショイ記者会見:長さと質問数

 今回は登録記者数がこれまでで最も多く1700人を超えた。長時間記録は2008年の270時間。4時間40分もの間、100を超える質問に答えた。

 最近は、先に述べた「ダイレクト・ライン」と「ボリショイ記者会見」の2つのイベントの違いが鮮明ではなくなってきた。

 理由として、プーチン大統領との直接的な質疑応答から成り立っていることや、長時間にわたる点、そして最近では、大記者会見において、ジャーナリストが単に質問をするだけでなく、具体的な陳情や日常の不平不満を吐露する場面が多くなっていることが挙げられる。

 さらに、各イベントが15回ほどになり、新鮮味が薄れつつあることも正直否めない。

 とはいえ、一つひとつの質問に真摯に答えようとする姿をみせながら、トリッキーな質問もうまくかわせる術を備え、これだけの対応ができるのはプーチン大統領の強みといえよう。

 3期目に入り、求心力を維持したいプーチン政権にとってこのようなイベントの意義は大きいことは確かであろう。

筆者:安達 祐子

JBpress

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