米トランプ政権の国連離れ、次の標的は人権理事会だ

1月30日(火)19時0分 ニューズウィーク日本版

<離脱をちらつかせて国連を変えさせようというトランプのやり方がいかに有害か、その理由>

ドナルド・トランプ米政権は今年1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する拠出金を半分以上凍結すると発表し、国際機関にまたもや打撃を与えた。

UNRWAは完璧な機関ではないが、1950年の活動開始以来、パレスチナ難民向けに医療や教育などの人道支援を提供してきた。次はどの国連機関がトランプ政権の標的になるのか。国連人権理事会ではないか、と筆者は懸念する。

ニッキー・ヘイリー米国連大使は就任以来、人権理事会を痛烈に非難し、国連改革を掲げる米政府の国連批判の矛先にしてきた。トランプ政権下でアメリカは国連教育科学文化機関(ユネスコ、本部パリ)から脱退し、国連の難民・移民の保護強化をめざす交渉から離脱し、UNRWAへの援助凍結を決定した。

トランプ政権はそれ以前から、アメリカの求める人権保護の基準を満たさなければ人権理事会を離脱する、と脅していた。理事国選出の基準をより厳格にして人権侵害国の参加を困難にするほか、イスラエル批判への偏向をやめるよう要求した。

トランプ政権が掲げる目標自体に問題がある、というわけではない(筆者は前述のどちらの訴えも支持する立場だ)。問題は、離脱をちらつかせて国連を改革させようというやり方だ。

その戦略は失敗するだろうし、人権理事会と人権問題に対する政策両方にとって有害だ。それには5つの理由がある。

1)独裁者や絶対権力者を利する

アメリカが離脱して喜ぶのは世界中の独裁政権だ。2006年の人権理事会設立から、アメリカが人権理事会に初出馬して選出される2009年までの間、人権理事会を牛耳っていたのは中国やキューバ、パキスタンのような人権抑圧国家だった。

だがバラク・オバマ前政権のときにアメリカが理事会に名を連ねると、その強力な外交力のおかげで独裁政権に監視の目が行き届くようになった。もしアメリカが離脱すれば、また独裁者たちが息を吹き返すだろう。

2)人権理事会がうまく機能しなくなる

思い通りにならなければ離脱する、というトランプ政権の戦略は、人権理事会の価値ある取り組みを軽んじることだ。もし人権理事会への参加と支援を中止すれば、そうした取り組みを継続するのは今よりずっと困難になる。

人権理事会の貢献の一例として、北朝鮮の最高指導者・金正恩による自国民に対する人権侵害を非難し、イランの人権状況を調査する国連特別報告者を任命したことなどが挙げられる。

国連安全保障理事会が昨年、シリア政府軍の化学兵器使用に対する制裁決議案を採決したとき、ロシアと中国が拒否権を行使して廃案になった時も、人権理事会は国際調査委員会を設置し、シリアのバシャル・アサド大統領が化学兵器を使用したと、国連機関として初めて認定した。



ミャンマーやリビア、アフリカ中部ブルンジでも同様に、政府による人権侵害の責任を追及するための調査委員会を設置した。自国の政府に虐げられてきたLGBTQ(性的少数者)の人権保護を訴える歴史的な決議でも重要な役割を果たした。

これらの取り組みにどれほどの意味があるのか。極めて重要な意味がある、というのが世界の人権機関の評価だ。人権理事会は彼らに希望と正当性を与え、独裁者や殺人者の犯罪行為を白日の下にさらし、抑圧的な政権に政治的な代償を払わせている。人権理事会に批判されると独裁者が猛反発するのはそのためだ。

3)人権理事会に代わる機関はない

人権理事会からの離脱を示唆しているトランプ政権は、もし離脱してもアメリカが世界の人権状況を改善できる国際的な枠組みはいくらでもある、と思い込んでいるようだ。ヘイリーは昨年6月の人権理事会での演説で、アメリカは「人権理事会以外に議論の場を移すかもしれない」と言った。

だが国連の中で、人権理事会に代わる場所を見つけるのは難しい。国連安保理では、ロシアと中国が拒否権を行使する。多数決で議決をする国連総会では票が割れるため、むしろ人権問題への取り組みを妨害することの方が多い。人権理事会はどこよりも環境が整っているのだ。

4)友好国を擁護したければ、その場にいる必要がある

アメリカは2009年に理事国に選出されてからの方が、友好国を擁護するのに成功している。オバマ政権が人権理事会に参加するまでは、イスラエルの人権侵害を非難する特別審議が3年半の間に6回も行われた。だが2009年以降の7年間で、それがわずか1回に減った。

5)人権問題をめぐるアメリカの信用は地に堕ちている

アメリカは人権問題に真剣に取り組む、というメッセージを国際社会に届けるには、人権理事会が絶対に必要だ。人権問題に対するトランプ政権のやり方は脅し一本槍で、むしろアメリカの信用を傷つけてきた。

声高な国連改革も本気とは思えない。人権理事会のことは、米国内で国連に対する不満が抑えきれなくなったときに捧げる生贄ぐらいに思っている節さえある。それでも、希望を捨てることはできない。昨年末からイランで燃え広がった反政府デモを見てもわかる通り、人々の人権を無視する国や世界の末路は不幸なものだ。

From Foreign Policy Magazine


キース・ハーパー(米オバマ前政権の人権担当大使)他

ニューズウィーク日本版

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