中国でテスラの前に現れた意外すぎる強力ライバル

2月1日(月)6時0分 JBpress

(花園 祐:上海在住ジャーナリスト)

 中国汽車工業協会の発表によると、2020年における中国国内の自動車販売台数は、前年比1.9%減の2531万台でした。2018年から3年連続の前年割れとなりましたが、落ち幅は2019年から6.3ポイントもの縮小を見せました。

 2020年は年初から新型コロナウイルスの感染拡大により経済活動が事実上ストップし、自動車販売も3月まで大きく落ち込みました。しかし4月以降は回復し、前年同月比水準を毎月上回るなど、急激な回復ぶりを見せました。直近の2020年12月においても前年同月比6.5%増を記録しており、マスコミなどからは、前年割れながら2020年はコロナの逆風の中で非常に健闘したと評価されています。

 とくに日系車は、市場全体が縮小する中で各社の躍進ぶりが際立ち、シェアも大きく拡大しました。また新エネルギー車市場においては、中国現地生産を開始した米テスラモーターズの独壇場かと思いきや、下半期になって思わぬダークホースが登場するなど、話題の多い1年となりました。

 今回はこうした2020年の中国自動車市場について、各種データとともに解説します。


SUVがついにセダンを逆転

 2020年の車形別販売台数を見ていくと、乗用車は前年比6.0%減の2017.8万台、商用車は同18.7%増の513万台でした。

 特筆すべきは、乗用車のうちスポーツタイプ多目的車(SUV)の販売台数(946.1万台)が、セダンの販売台数(927.5万台)を初めて追い抜いたことです。かねてから中国はSUVの人気が高い市場でしたが、名実ともにSUVが市場の柱となったことを意味します。

 また商用車のうち、トラックの販売台数は同21.7%増の468.5万台と急増しました。その理由として、環境保護規制の施行によって買い替えが進んだことに加え、コロナ下でネットショッピングが増え、運送需要が高まったことなどが指摘されています。


日系のシェアが急拡大

 続いてメーカー別の販売台数を見ていきましょう。1〜3位は独フォルクスワーゲン(VW)および米GMの系列メーカーが不動の座を占め、4位には、中国系メーカーの吉利汽車が入っています。

 日系メーカーは、5位の東風日産が前年比5.7%減でしたが、その他は8位の東風本田(同6.3%増)、10位の広汽本田(同4.0%増)、11位の一汽豊田(同6.8%増)、12位の広汽豊田(同12.2%増)など、市場が縮小する中で揃ってプラス成長を達成しました。

 日系メーカーが好調だった背景については、以前の記事(「コロナ終了? 中国自動車市場が大復活を遂げていた」)でも指摘した通り、日本車の性能に対する認知が広がっていることに加え、消費者の自動車購入金額が上昇し、日本車が自動車購入時の選択肢に入るようになったことが考えられます。

 こうした好調ぶりを受け、中国自動車市場における日系メーカーのシェアも急拡大しています。2020年における日系メーカーのシェアは同2.3ポイント増の24.1%増となり、同0.5ポイント増の25.5%だったドイツ系メーカーとの差を一気に縮めました。その差は1.4ポイントしかなく、外資系シェア・ナンバーワンの座も射程内に収めつつあります。

 このほかセダンの車種別販売台数では、前年に引き続き東風日産の「シルフィ」が同13.9%増の約54万台で首位となりました。毎年首位を争っている上汽大衆の「ラヴィーダ」(同8.5%減の約45万台)との差も2020年は広がっており、首位の座を盤石にしています。


追加投資に慎重な部品サプライヤー

 以上のように、2020年の中国自動車市場は、コロナ禍の中で日系自動車各社が好調な業績を収めました。

 しかし、自動車部品サプライヤーは、生産能力拡大に向けた設備投資に慎重な姿勢を見せています。

 その理由について、あるサプライヤー関係者は「完成車メーカーからの注文は増え続けている。工場は、残業や休日出勤などで稼働時間を増やしており、春節(旧正月)中の稼働も決定済みだ」とする一方で、「コロナはまだ収束してない。設備投資に踏み切るには不確実要素が多すぎる」と述べています。

 また、中国では半導体の供給不足により完成車メーカーの工場が停止するなど、サプライチェーンの混乱もみられます。こうした状況から、その関係者は「2021年も日系メーカーの好調ぶりがこのまま続くかどうかはわからない」としています。


新エネルギー車はテスラ「モデル3」がトップ

 販売台数統計に話を戻すと、中国政府が普及を進めている新エネルギー車は2019年、購入補助金の一部打ち切りなどが相次ぎ、初めてマイナス成長を記録しました。しかし2020年は再びプラス成長に転換し、販売台数は前年比10.9%増の136.7万台となりました。

 プラス成長に転換した理由としては、人気車種の登場が大きいと考えられます。

 中でも2019年末より現地生産を開始し、販売価格が大きく引き下げられた米テスラモーターズの電気自動車(EV)「モデル3」は年間を通して好調な販売が続きました。その結果、通年の販売台数は約13.7万台となり、新エネルギー車の中で堂々のトップとなりました。


超低価格EV「宏光MINI」の登場

 年初以来の好調ぶりから、今年の中国の新エネルギー車市場はテスラの独壇場になると誰もが予想していました。しかし下半期、思わぬダークホースが現れたことで、新エネルギー車市場はさらなる活況を呈しました。

 そのダークホースとは、上汽通用五菱が2020年7月に発売した超低価格EV「宏光MINI」です。注目すべきはその価格で、メーカー希望小売価格はなんと2.88万〜3.88万元(約48万〜68万円)となっています。

「宏光MINI」は発売時に値段の安さが大きく話題になるや、ユーザーに幅広く受け入れられました。市場投入は7月だったにもかかわらず、2020年通年の販売台数は約11.3万台を記録し、新エネルギー車としては「モデル3」に次ぐ2位につけています。

 同車の最大の特徴は言うまでもなく「低価格」です。コストダウンは徹底されており、再安価グレードではエアコンに暖房機能しかなく冷房機能は除外されています。また1回の充電当たり連続航続距離も120〜170kmしかありません。他のEV車種と比べると、著しく短い航続距離となっています。

 一見すると物足りない性能、装備ですが、自動車としてではなく電動バイクの延長線と捉えると見事なポジショニングであるように筆者には見えます。

 というのも、中国では地方を中心に、毎日、電動バイクで通勤する労働者が少なくありません。そうした層からすると、宏光MINIは一般の自動車よりも手が届きやすい価格にあり、かつ屋根もついていてスピードも速く、電動バイクに勝る快適な乗物となり得るわけです。

 新エネルギー車市場は、モデル3の好調ぶりから、性能の優れた高級車クラスでなければもはや生き残れないとする見方が年初には広がっていました。しかし、宏光MINIの登場はこうした見方に一石を投じ、市場やユーザーニーズにマッチしたEVの開発、投入の必要性が改めて見直されてきています。

 年が明けてから、日本同様に中国でもコロナ患者が再び増え始めました。コロナ終息の見通しが立てづらい中、各社がどのような方針で市場に臨み、どんな車種を投入するのか、その動向に今後も注目していきたいと思います。

筆者:花園 祐

JBpress

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