ウクライナ戦闘激化で試されるトランプ──NATOもEUも捨ててロシアにつくのか?

2月2日(木)21時0分 ニューズウィーク日本版

<ウクライナ東部で2年半ぶりに戦闘が激化している。トランプ政権を試すために、ロシアが親ロシア派を煽っている可能性もある。アメリカが見放せば、親欧派の政権はもたない。NATOやEUは今、トランプの出方に警戒を強めている>

ウクライナ東部で週明けから親ロシア派とウクライナ政府軍の戦闘が激化している。2014年9月のミンスク合意による停戦で「凍結された紛争」が再燃し、ドナルド・トランプ米大統領率いる新政権のロシアに対する戦略と力量が初めて本格的に試されている。

ロシアの支援を受けた親ロ派が1月29日の日曜日、ウクライナ政府軍が支配するドネツク州の工業都市アフデエフカに攻勢をかけ、周辺地域で一気に衝突がエスカレートした。政府軍の兵士十数人が死亡した模様だ。前日の土曜には、トランプが大統領就任後初めてロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話会談を行ったばかりだった。

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欧州安保協力機構(OSCE)の停戦監視団によると、日曜だけで少なくとも2300発の砲弾、迫撃砲、ロケット弾による攻撃が行われた。停戦合意後も前線では日常的に小競り合いが続いていたが、これほどの規模の交戦は異例だという。

警戒強めるウクライナとNATO

一方、ウクライナ政府軍も親ロ派支配地域との境界に設置された中立地帯に侵攻中とみられる。ウクライナ政府はこれまでより弱い立場で再び交渉のテーブルに就くことを見越して、わずかでも支配地域を広げようとしているようだ。

ロシア寄りのトランプがプーチンと電話会談を行ったことで、ウクライナ政府とNATOは警戒感を強めている。アメリカがウクライナ政府へのテコ入れを控え、ウクライナ問題の解決をプーチンに任せる可能性があるからだ。

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匿名を条件に取材に応じた米国防総省の高官によれば、トランプ政権下でロシアが「どこまでやれるか」試すために、新政権発足後ロシアがウクライナへの介入を強めることは国防総省内ではかなり以前から予想されていたらしい。

戦闘の激化に加え、水曜にはウクライナの輸送機がロシア軍の対空射撃を受けたという報道があった。こうした情勢から「ロシアは平和的な姿勢を見せる気はない」と、昨年末までNATO事務次長を務めていたアレクザンダー・バーシュボーはみる。

「トランプ政権がウクライナ政府と距離を置き、(ウクライナの大統領)ペトロ・ポロシェンコに自力でロシアと交渉しろと言うかどうか試す気だ」と、バーシュボーはロシアの意図を解説する。アメリカに見放されれば、「もちろんポロシェンコ政権はつぶされるだろう」

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ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官は水曜、ウクライナ東部の戦闘激化はロシアの挑発だと思うかと質問され、「ウクライナ情勢を引き続き見守っている」と答えた。それより前に米国務省はウクライナにおける停戦合意違反を非難する声明を出したが、ロシアに言及することは慎重に避けた。

国連安全保障理事会は火曜、ウクライナ東部の「危険な情勢悪化」に対し「重大な懸念」を表明。政府軍と親ロ派双方に攻撃の中止を呼び掛けた。

ロシアには親ロ派を牽制してミンスク合意を守らせる気はないと、前出の国防総省高官はみる。「すべて緻密に計算し尽くされた動きだ。ウクライナで流血の惨事が続いていれば、(ロシアは)いずれウクライナ情勢と政治に首を突っ込み、自国の衛星国にできる」

ヨーロッパがもっと団結し、アメリカと強固な結びつきがあった時期でさえ、欧米諸国にとってウクライナ問題に立ち向かうのは十分に困難だった。

分断された欧米

元CIA長官のデービッド・ペトレイアスは水曜、米上院軍事委員会の公聴会で証言し、プーチンの思惑についてこう述べた。「軍事行動が上手くいけば、ロシアはわずかでも領土を得られると踏んでいる。だがプーチンが本当に重きを置いているのは、民主主義を掲げる大国に、NATOやEUのような同盟の枠組みを守る政治的な意思があるかどうかを見極めることだ」

だがEUとアメリカにはナショナリズムや分断の波が到来し、足並みを揃えて対応するのが難しくなっている。ウクライナ紛争は、内にも外にも危機を抱えたアメリカと欧州諸国が「いかに協力して問題に対処するかを試すテスト」だと、米シンクタンク戦争研究所のフランクリン・ホーカムは語った。

主な争点は、2014年のウクライナ侵攻とクリミア編入を受けて、アメリカとEUがロシアに課した経済制裁をめぐる対応だ。もしトランプが選挙戦中に示唆した通りにアメリカが対ロ制裁を解除することになれば、EUの制裁決議も崩壊する可能性が高い。その結果、プーチンに外交と経済上の勝利がもたらされる。

トランプ政権の高官は今のところ、従来のアメリカの姿勢を踏襲と発言している。ニッキー・ヘイリー米新国連大使は月曜、国連本部で初の表敬訪問を行い、イスラエル、イギリス、フランスに加え、ウクライナの国連大使とも会談した。国連アメリカ代表部の発表によると、会談でヘイリーは、アメリカが「ウクライナの主権と領土保全を支持する」ことを再確認したという。


 
ロシアの脅威に直面するなか、今後のアメリカの出方を怪しむのは、ウクライナの国民だけではない。アメリカとドイツの戦車は、NATOの数千人規模の大隊とともにバルト3国(いずれもNATO加盟国)に進駐し、ロシアが軍事活動を活発化させる可能性に備え、同盟国の心の拠り所になっている。だがトランプが規模を縮小するのはいつでも可能だ。

トランプは選挙戦中、ヨーロッパ諸国における米軍駐留を激しく非難し、NATO加盟国は自国の防衛に対して相応の費用を負担するべきだと主張した。アメリカが東欧4カ国に展開する4000人規模の兵士と戦車90台は、アメリカが34億ドルを拠出する「ヨーロッパ安心供与イニシアティブ」が負担する。その資金拠出を、トランプとミック・マルバニー次期行政管理予算局局長が停止する可能性もある。マルバニーは、米軍の海外駐留費をカットすることで財政赤字の拡大を抑制したいからだ。

万一そうすれば、「アメリカとヨーロッパとの連帯に重大な亀裂を生じる」とバーシュボウは警告した。

「ロシアにとっては願ってもない話だ。ブルガリアやチェコなどの旧東欧諸国にもうアメリカは頼りにならないからと言って、仲間に引き入れようとするだろう」

From Foreign Policy Magazine
 

 

 

ポール・マクリーリー

ニューズウィーク日本版

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