世界に50年遅れた日本のIR論議

2月6日(木)6時0分 JBpress

米国最大のIR、ラスベガスの夜景

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 日本におけるIRを巡る議論はあえて言わせていただくと、世界の情勢から40〜50年程度遅れているのではないか。

 1980年代、ラスベガスにカジノを含む巨大テーマホテル群が誕生する前夜行われていた議論を21世紀の今、日本は再現しているように感じてならない。

 筆者がそのように感じてしまう要因のうち、最大のものは自民党秋元司議員と中国企業「500ドットコム」を巡る贈収賄事件である。

 摘発されてからもうかなりの時間が経過しているが、本稿を執筆している2月1日の時点でも、IRを検索すると、IR汚職という項目にぶつかる。

 云々される金額やその用途が旅費だったり、カジノでのチップ代だったり、非常にせせこましく、世界の規模から遅れていることが一目瞭然だ。

 そして、その登場企業の矮小さは、世界のIRオペレーターとは比較の対象にもならない。

 しかし、本件が日本社会に与えるIRへのマイナスイメージは極めて大きく、IR=カジノと考える人たちには、反対論の実証のように使われてしまう。

 IRの主目的が地域開発と税収アップという遠大な目的を持つとき、数人の議員に数百万円の賄賂を贈ることで、物事が望む方向に動くと考える関係者が存在すること自体、日本のIR議論の浅薄さを感じさせる。

 それ以上に、その原資を提供したという中国企業が日本をそのようなレベルの国だと認識したことが悔しい。

 結局のところ、日本人は統合的リゾート、そしてカジノというものの本質をほとんど知らずに議論を始めてしまったと思う。

 その良い例が、1月29日、30日の両日、パシフィコ横浜で開催された「第1回横浜統合型リゾート産業展」である。

「統合型リゾートに特化した産業見本市、待望の首都圏開催」という展示会が首都圏でも1、2を争う規模の国際展示会場であるパシフィコ横浜で開催されるというので、早速出かけてみた。

 今回の展示会には、世界的なIRオペレーターとして、

1)Galaxy Entertainment GEG
2)GENTING Singapore
3)Las Vegas Sands
4)MELCO Resorts & Entertainment
5)Wynn Resorts

 といった米国、アジアの巨人たちに混じって、

6)セガサミーホールディングス

 が我が国から出展していた。全体での出展者は45社という少数にもかかわらず、上述した海外巨大IRオペレーターが出展したことで、展示会としてのレベルは保たれた。

 しかし、会場を一巡して、筆者は大きな失望を感じた。

 それは、横浜におけるIR誘致反対派への刺激をさけるためか、肝心のカジノに関する展示が全くなく、また、同時に行われた講演にも、直接カジノをテーマにしたものはなかった。

 筆者は講演全てを聞いていないので、話の中でカジノに触れた講演があったであろうことは想像に難くないが・・・。

 最近の海外のカジノで驚くのは、ゲームマシンの進歩であろう。

 スロットマシンを見ても、今やビデオスロットと言われるCGを多用した最新型の展示を期待していたが、カジノに設置されるようなマシンの展示は一切なかった。

 IR=カジノという図式は、カジノ反対派にIRそのものを否定する理由を与えてしまう一方で、IRからカジノを切り離すのも大きな間違いだと言える。

 2018年7月、我が国で初めての「IR整備法」が成立したが、この法律は別名「カジノ法案」と言われるように、まさにIRの中核にあるのがカジノであることを示している。

 世界的に見ても、IR全体の床面積におけるカジノ部分の面積は通常5%未満だが、売上高の比率は80%以上を占めると言われている。

 我が国が「IR整備法」で想定する全国3カ所のIR市場規模は1兆5000億円。ギャンブル産業世界一ともいわれる日本のパチンコ産業の2018年度の市場規模20兆円を考えると、日本におけるカジノの実現可能性がこの数字には感じられる。

 世界のIR先進国とは、米国、マカオ、シンガポールである。米国最大のIR集積地はラスベガスだ。ここの売り上げ高が1兆3000億円で、日本で予定する3カ所のIR市場規模とほぼ同じである。

 これだけの規模、いやラスベガス以上の売り上げ規模を期待できるIRが日本に誕生するということで、海外IRオペレーターが今回の展示会にも大挙参加したということは明白だ。

 WynnResortsの展示ブースにあるステージでは、ラスベガスのショーダンサーがアクロバットダンスを披露していた。

 それに負けじとばかり、国産オペレーターのセガサミーブースでは、2日間の展示会とは思えない本格的な和室の中で吉兆の和食を提供するなど、豪華な展示会ではあった。

 筆者が専務理事を務める一般社団法人湘南ロシア倶楽部では、昨年2回にわたりウラジオストク近郊にあるIR施設「Tigre de Cristal(TDC)」を訪問した。

 マネージメントからTDC開場までの経緯、経営状況などを詳しく聞くとともに、施設の視察を通して、最新のカジノを体験した。

 我々のTDC訪問の最大の目的は、「日本に本当にIR、そしてカジノは必要なのか」を考えることにあった。

 まず、TDCという施設だが、ロシア政府の認可を受けたロシア全土で4カ所あるIRゾーンの一つが沿海地方で、その中にあるのがTDCである(4カ所とは、カリーニングラード、クラスノダール、アルタイ、沿海地方)。

 経営母体は、香港市場上場中のSummit Ascent Holdings。この会社の子会社であるOriental RegentがTDCのオペレーターとなっている。

 Summit Ascentには、マカオのカジノ王スタンリー・ホーが創設したMELCO Resorts & Entertainmentも資本参加していた。

 彼らは日本への本格的進出のため、ロシアオペレーションからの離脱を決定したというニュースが最近流れていた。

 横浜のIR展示会でMELCOの出展を見て、確かに彼らは日本を本気で考えていることが分かった。

 TDCは、ウラジオストク市内からは1時間ほどの山中にある施設で、5星クラスのホテルとともに2015年に開業、「Tigre de Cristal Hotel & Resort」を形成している。

 交通の便は悪いが、予約客の到着時間に合わせて、片道30分ほどのウラジオストク空港にシャトルバスを出しているので、空港からTDCに直行するには何ら不便はない。

 この山中のロケーションは、TDCが当初から、利用客がウラジオストク空港を利用して来訪する遠距離客を想定せざるを得ないことを暗示している。

 事実、TDCでの「カジノセミナー」で、現地法人のCEO(最高経営責任者)を務めるTsifetakis総支配人に依ると、来客者の国籍別ランキングでの1位中国と2位韓国が全体の30%を占め、ロシアが残り70%だという。

 ただし、売上高で比較すると全体収入の70%が中国人来客者からだ。

 特に中国東北部からの来客が多く、彼らはバスを仕立てて国境を越え、直接TDCまで乗り入れるとのこと。

 さらにTsifetakis支配人は、ここTDCだけではなく、MELCOが巨大なカジノを有するマカオにおいても、中国人客がその主客であり、中国人なくしてアジアのカジノは存在し得なと言う。

 TDCホテルのチェックインカウンターに並ぶロシア人スタッフは英語だけでなく、中国語にも堪能で、到着した我々を中国語で迎えてくれた。

 ホテルは5スターだけあって世界レベル、滞在は快適であった。

 このホテルからカジノまで「Tigre de Cristal」のマネージャーたちは、全員がギリシャ人。

 皆、ヨーロッパでの同業態での勤務ののち、ウラジオストクにやって来たプロである。だからこそ、ウラジオストクにおける世界レベルの維持が可能なのだと思うが、ロシアの山中で奮闘する彼らの本音を聞くことはできなかった。

 今回の新型肺炎防止のため、ロシア政府は中国との陸上国境を1月末に閉鎖し、中国東北部からのTDC訪問は不可能となった。

 TDCは一夜にして売り上げの70%を失うという事態に直面したわけである。

 カジノは、賭客がギャンブルを楽しむところではあるが、経営側においてもギャンブル要素の大きいことを明白に物語っている。 

 目を再度、横浜に向けると、カジノを中核としたIRは、中国人客がいかに来訪するかで、その成否が問われることになる。

 しかし、議論は日本人の来訪頻度を制限するとか、1回の入場料を6000円にするのは高すぎるとか、枝葉末節な話ばかりであり、議論のレベルは世界的な巨大カジノの誕生前夜の1970年代を思わせる。

 世界最大のカジノタウンであるマカオ、そして米国のラスベガスやアトランティックシティなど、そこにはIRに特化した街が形成されている。

 日本でのIR候補地となっている横浜、大阪のように、すでに政治・経済を束ねる複合的で巨大な都市機能を持つ場所にカジノはない。

 ロシアでさえ(失礼!)カジノを含むIRは、都市とは言えない辺境の地をわざわざ選定している。

 このような事実を今後の議論においては十分勘案し、日本がIR法案を成立させた理由に合理性があるのか、ここで十分見直す必要があると考える。

 そして、何よりも大事なのは、議論の前に自らがIRを体験し、自分なりのIR、そしてカジノについての理解を持つことである。

 湘南ロシア倶楽部では、来月を皮切に本年も数回の現地でのカジノセミナーを計画している。

筆者:菅原 信夫

JBpress

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