深刻すぎる北朝鮮の電力不足で有数の銅鉱山が水没の危機

2025年2月7日(金)9時14分 デイリーNKジャパン

北朝鮮経済の構造的問題を数えたら両手でも足りない。中でも最も深刻なのはインフラ整備の遅れだろう。


日本の統治下にあった時代に作られたものや、朝鮮戦争後に旧ソ連などの援助で作られたものが未だに使われており、老朽化が著しい。また、水力に偏重した電力体系にも問題がある。


北朝鮮で最も前途有望な分野であるはずの鉱業も、電力不足が足かせとなり円滑な操業ができずにいる。


北朝鮮最大の銅鉱山である恵山(ヘサン)青年鉱山が、深刻な電力難に苦しめられていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


両江道(リャンガンド)の幹部によると、朝鮮労働党の恵山青年鉱山委員会の初級党書記は新年早々、首都・平壌へと旅立った。内閣の採取工業省、金属工業省、電力工業省の幹部と面会して、電力問題の解決を掛け合うためだ。


一方、鉱山の支配人は、朝鮮労働党両江道委員会(道党)の幹部との面会を繰り返すなど、電力問題の解決を訴え続けている。


2人が問題解決に奔走している背景には、電力不足で操業ができない以上に深刻な問題が横たわっている。


「恵山青年鉱山の電力問題が解決できなければ、操業以前に、坑道が浸水するリスクがある」(情報筋)


鉱山には青年坑、合営坑、第1坑、第2坑の4本の坑道があるが、正常に稼働できているのは合営坑だけだ。中国との合弁企業の恵中鉱業合営会社の所属で、中国から電気の供給を受けているからだ。


同社は2007年11月に設立され、掘り出された亜鉛と銅はすべて中国に輸出されていた。国連安全保障理事会の制裁決議で、北朝鮮からの鉱物資源の輸出ができなくなったが、一時中断を挟んで、現在は輸出が密かに続けられているようだ。


一方、残りの3本の坑道は、三水(サムス)発電所で発電された電力の供給を受けているが、この発電所、冬季には1万キロワットの発電もできずにいる。雨や雪がほとんど降らないからだ。


3本の坑道の正常稼働には6万キロワット、坑道の維持には少なくとも3万キロワットの電力が必要だ。具体的には、坑道から湧き出す地下水の排水、空気の循環だが、これには5つのポンプ場を稼働させなければならない。しかし電力が足りず、中国から供給されたものを、契約違反と知りつつも、ポンプ場に横流ししている。


そのせいで、合営坑の操業が止まってしまった。これがもし中国側にバレれば、電力供給を止められてしまうかもしれない。


鉱山の幹部によると、冬季は三水発電所に加え、虚川江(ホチョンガン)発電所からの6万キロワットの一部、白頭山(ペクトゥサン)英雄青年発電所から3万キロワットの一部でなんとか耐えしのいでいる。


しかし白頭山発電所は三池淵(サムジヨン)市の電力供給を、虚川江発電所は道内の他の鉱山や医療施設の電力供給も担っている。恵山青年鉱山の幹部は、道党幹部に、これら2カ所の発電所からの電力供給を増やすように要求している。しかし、道党はこれを黙殺している。


道内には、金(ゴールド)を採掘している大鳳(テボン)鉱山、モリブデンを採掘している龍河(リョンハ)鉱山など、電力を大量に消費する鉱山が数多く存在する。これらは両江道直属だが、一方で恵山青年鉱山は、内閣の採取工業省に所属している。つまり、電力供給の責任を追うべきは中央であり、両江道当局は関心を持っていないのだ。


だからといって、採取工業省などの省庁に掛け合ったところで、無駄足だ。全国の銅生産の7割を担い、プライオリティの高い恵山青年鉱山にすら、電力をまともに供給できないのに、それを増やす余裕などどこにもないということだ。


水力発電所がまともに稼働できない冬季には、北倉(プクチャン)、東平壌の火力発電所からの電力に頼らざるを得ないが、いずれも施設の老朽化により、石炭を無駄に使うばかりで、電力需要に追いつかない。


唯一の解決方法は、中国から電力を供給してもらうことだ。しかし横流しがバレれば、それどころではないだろう。


そんな窮状にもかかわらず、北朝鮮は電力を無駄に使いまくっている。


故金日成主席、故金正日総書記の銅像を煌々と照らし続けている照明、金正恩総書記お気に入りの平壌市内のタワマン団地のライティングなど、他の国の価値基準では「どうでもいい」ところで、電力を浪費しているのだ。


しかし、最高指導者に関する事案は神聖不可侵だ。「銅像の照明を消せ」などと訴えた瞬間に、首が物理的に飛ばされてしまうだろう。また、タワマン団地のライティングが消えるとなれば、「北朝鮮終了」の憶測が世界中を駆け巡ることになる。


石炭の埋蔵量は豊富だが、発電設備を更新しようにも、制裁で輸入できない。結局は、雪解け水が増える春を待つしかないだろう。

デイリーNKジャパン

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