「兵士がカネのために死んでいる」北朝鮮国民、ロシア派兵で国家に怒り

2025年2月9日(日)5時6分 デイリーNKジャパン

北朝鮮が自国の兵士をロシアに派兵し、多くの戦死者を出しているとの情報は、同国内でもかなりの範囲に広がっているようだ。息子を軍隊に送り出した親たちは、その安否を確かめようと必死になり、兵役を控えた息子を持つ親たちは、何としてでも軍隊に送るまいと関係各所に働きかけている。


全国に不安や不満が広がる中、当局が対策に乗り出した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、徳川(トクチョン)自動車工場で先月13日、全従業員を集めての会議が開かれた。徳川市保衛部(秘密警察)の幹部は、次のように命じた。


「11軍団(暴風軍団)と関連する流言飛語(デマ)を流す者がいれば、必ず通報せよ」
「さもなくば、反体制勢力と結託した分子として処罰する」



現地では昨年末から、各地域の朝鮮労働党委員会が、戦死した兵士の遺族に「戦死証」を授与する行事を開いている。これは国家表彰の一種で、受け取った遺族は様々な特典が得られる。


党委員会は、当人が「ロシアの戦場でウクライナ軍と戦って戦死した」ということにはいっさい言及せず、ただ「党と首領のために名誉の戦死を遂げた」とのみ伝えたが、通常の事故死や病死なら補償はおろか、遺骨すら受け取れない場合もある。しかし、今回は特別な扱いをされたことから、遺族がロシアでの戦死に勘付き、それを周りの人々に話した。その話が、口コミネットワークに乗って広がった模様だ。


咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋は、旧正月(先月29日)の前の週に、新浦(シンポ)市内の人民班長(町内会長)が、ロシアに派兵された兵士について、憶測で物を言う者がいれば、自分や保衛部に通報せよと住民に伝達したと伝えた。


現地では、このような噂が広がり、市民は怒りに震えている。


「ロシアでの戦争でわが国(北朝鮮)の軍人が死んでいるのに、当局は遺体を回収する措置を取っていない」


これは決して根も葉もない噂ではないと情報筋は述べた。


「昨年末に続いて、朝鮮労働党咸鏡南道委員会が先月9日にも、暴風軍団所属の兵士の遺族に戦死証を授与したが、遺族は遺体がどこに葬られたかわからず、このような話が広がった」


朝鮮民族の死生観では、遺体を非常に大切にする。亡くなれば土葬で手厚く葬り、子孫の未来に影響を与えるとして、墓の場所も慎重に選ぶ。逆に、火葬は亡き家族を「二度殺すもの」だとして、激しい嫌悪感を抱き、家族の同意なしに行われる改葬にも、激しい怒りを持つ。


当人の死因、日時、場所、墓の場所など一切知らされないとなると、遺族は非常に激しい不信感を持つ。それを友人や親戚に漏らすと、同情した人々が次から次へと噂を広げていくのである。


話に尾ヒレがついて、「ロシアから、戦死者の数だけ外貨をもらっている」ということになり、さらに怒りに油を注いだ。


北朝鮮の人びとは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)のことを「自国と民族を守る名誉ある任務についている」と考えているだけあって、「外国でカネのために死に追いやられた」となれば、派兵を命じた金正恩総書記に対する怒りや不信感として跳ね返ってくる。


当局はそれを最も恐れているはずだが、「ロシアでの戦死」という原因が存在し続ける以上、情報を完全にコントロールするのは不可能だろう。

デイリーNKジャパン

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