プーチンに足元を見透かされるバイデン政権、激しい威嚇も空砲か

2022年2月14日(月)12時0分 JBpress

 2月11日、米三大ネットワークのCBSが過去3日間に実施した世論調査の結果を発表した。その結果を見ると、「ロシアとウクライナの問題から離れていた方が良い(stay out)」は53%で、「ウクライナを支援せよ」の43%を10ポイント上回った。リベラルメディアのCBSは「少し多い<slight majority>」と表現しているが、米国民の意見として、調査対象者の過半数が「ウクライナ問題からは距離を置け」と言っているのは事実である。

【参考資料】
◎Between Russia and Ukraine, Americans say either stay out or side with Ukraine - CBS News poll(https://www.cbsnews.com/news/ukraine-russia-u-s-involvement-opinion-poll-02-2022/)

 また同じ調査で、バイデン政権のロシア外交に対しては60%が「disapprove」で、対中外交の59%をわずか1ポイントながら上回った。この世論調査は、男女別、イデオロギー別(リベラルか、保守かなど)でも分析可能だが、総論として、米国民の強い支持を得ていないのは確かなようだ。

 ウクライナ支援への支持者の理由も、(1)(東欧における)地域の安定、(2)民主主義を守る、が上位に来ているが、そのために米国民が血を流すことを真剣に考えている米国民がどれほどいるのだろうか。実際には、そこに選択肢があったから選んだという程度のように感じる。

 ちなみに、1カ月前の拙稿「危険水域に達したバイデン政権の支持率とヒラリー待望論のなぜ:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68463」の時と比べて、バイデン大統領自身に対する支持率スプレッド(支持と不支持の差)は20ポイントを下回る小康状態を取り戻してはいる。ただ、時系列のグラフを見れば、悪化トレンドは止まっていない。

【参考資料】
◎President Biden Job Approval(https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/president-biden-job-approval-7320.html)

 この世論調査が示しているのは、米国民の意思として、バイデンの対ウクライナ情勢での行動に制限をかけつつあるということだ。一方、プーチンは米国の世論を見越したような言動を取り始めている。では、どのような変化が生じつつあるのか、具体的に見て行こう。


2月12日の日米首脳電話会談はプーチンに軍配?

 バイデン大統領は2月12日、午前11時04分から午後0時06分まで、約1時間の電話会談を行った。現在の一触即発という緊張状態を意識してか、直後のホワイトハウスの説明は短い要約文だけだったが、そのポイントは要約文の中ほどにある以下の表現だろう。

「バイデン大統領は、ロシアがウクライナへのさらなる侵攻を行った場合、米国は同盟国や友好国とともに断固として対応し、ロシアに迅速かつ厳しい代償を課すと明言した。バイデン大統領は、ロシアのウクライナに対するさらなる侵攻は、広範な人的被害をもたらし、ロシアの地位を低下させるだろうと繰り返した」

 強い警告を発しているのはわかるが、これ自体は、前日に英仏独の首脳とのオンライン会談の後に発したメッセージとあまり変わらない。つまり、新規のメッセージ性がない。

 ただ、12日の首脳会談で、バイデン大統領は既に発表した経済制裁の実施だけではなく、軍事的な行動の可能性について話したのも事実であろう。しかしながら、それはプーチン首相には有効ではなかったようだ。

 既にYouTubeなどでご覧になった読者も多いと思うが、米空軍は戦略爆撃機B52を4機、英国内の基地に派遣した。また、米海軍は2月4日まで北大西洋条約機構(NATO)海軍と地中海で演習をしていた米第6艦隊に駆逐艦を4隻増派した。どちらも、ロシア軍のウクライナ侵攻があれば、ウクライナ領内のロシア軍ではなく、ウクライナ国境のロシア軍基地を爆撃する可能性を示唆している(ウクライナを攻撃するとウクライナ人を死傷させるリスクがあるため)。

 ウクライナ領域のロシア軍基地を爆撃するのは、B52からの様々なミサイル・誘導爆弾攻撃や、駆逐艦から発射されるトマホーク・ミサイルなどの攻撃であれば、陸軍や海兵隊の派遣と比較して米軍の被害は少ないと考えられるからだ。かつての、湾岸戦争やイラク戦争の初戦のようなものである。

 しかし、相手はイラクではなく、米国に次ぐ武器能力を備えたロシアである。ロシア空軍機によるB52迎撃やロシア黒海艦隊による対艦ミサイル攻撃もあり得るため、容易には終わらないだろう。しかも、ウクライナ国境のロシア軍が一斉にウクライナ侵攻した場合、その兵站は破壊できても、ロシア軍自身はウクライナにいるので無傷だ。

 加えて、ロシア領内のロシア軍基地を攻撃するということは、米露戦争の開戦を意味する。プーチン首相は米露首脳電話会談の前段階で、万一の場合の核兵器の使用まで匂わせており、冷戦時代の悪夢を復活させかねない。


米メディアが触れない米軍のクリミア奪還の現実味

 威嚇を発表した米国と、自国の安全保障上の目的(ウクライナのNATO未加盟と旧東欧諸国に配備したミサイルの撤廃)を繰り返したロシアの首脳会談は、プーチンに軍配が上がったとの印象は拭えない。米国が軍事的な行動を簡単に実行に移すとは考えられないからだ。実際、米国内外の軍事専門家にも、プーチンが動かないという見方が増えつつある。動かなければ、米国の威嚇はいずれも発動できない。

 バイデン政権は1月に明日にでもロシア軍を叩きのめすと言っていたが、その時の勢いは既にないようだ。実は、筆者自身も、欧州NATO加盟国の駐米大使館の一人と話している中で、「なぜ米国は経済制裁発動の条件として、ウクライナ国境のロシア軍の撤退(極東軍は極東に戻るなど)の期限を切らないのか」という疑問を呈していた。バイデン大統領が本気で考えていれば、戦争の突入を覚悟してそうするはずだ。

 将棋やチェスで考えれば、バイデン政権はプーチンを詰め切ることができなかったということになるだろう。

 ロシア軍は、黒海艦隊の様子を西側報道陣に公開し始めている。これは地中海にいる米第6艦隊とNATO海軍を意識したものとされるが、時間とともに、それまでのロシア避難やウクライナ危機とは異なる報道をし始めた欧米のメディアへの配慮とも言えるだろう。

 ニューヨーク・タイムズは、ウクライナの首都キエフなどの住民の生活を写真付きで報じた。同記事を見ると、臨戦態勢とは思えず、むしろロシアの侵攻に怯えていない(というか気にしていない)雰囲気を感じさせる。また、ロシアが分離独立を支援しようとしているウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州についても、米軍で働いていた人間が設立した民間の軍事組織がロシア軍との間で小規模の戦闘を始めているという話も出ている。

 両陣営による報道合戦なので、フェイクニュースかどうかもわからないのが現状ながら、リベラルのCNNを含め、米国の威嚇が行き過ぎだとする論調が出ているのも事実のようだ。

 こうした中で、ワシントンにある欧州諸国の複数の大使館は、ホワイトハウスの公表直後から「さらなる侵攻(a further invasion)」という言葉に注目している。
 今のままでは、自ら攻撃を仕掛けなければ負けのない(米軍やNATO軍に反撃されない)プーチン首相を引き下がらせることは難しく、事は長期戦となる。これを回避するために、バイデン政権はウクライナ東部に集結した同国軍とともに、クリミア半島を奪還するシナリオを考えているという懸念からである。懸念というのは、それが現実となれば米露開戦は避けられないからというのが、彼らの見方である。

 確かに、米軍によるクリミア奪還が実現すれば、プーチンはロシア国内で立場を失うことになろう。これに関する報道は全くと言っていいほど出ていないが、あり得ない話とも言えないだろう。


仏独に依存せざるを得ないバイデン政権の弱点

 これからの見通しだが、プーチン首相は2月9日にバイデン大統領のほか、フランスのマクロン大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領とも会談している。マクロン大統領との電話時間は90分でバイデン大統領との60分の1.5倍である。マクロン大統領はモスクワ訪問もしており、NATOの中核国としてバイデン大統領以上の動きを見せている。

 他方、2月15日(火)にはドイツのショルツ首相がプーチン首相と電話会談を行う。世界が注目するガスパイプライン「ノードストリーム2」の今後を決める会談とも言われる。この会談次第で、ウクライナ情勢の緊張度は一時的に下がるかもしれないし、一気にロシアによるウクライナ侵攻が始まるという見方も出ている。

 米国のサリバン補佐官が、2月16日(水)はロシア軍のウクライナ侵攻の日時として可能性が高いと言っている由縁でもある。

 しかし、上述したように、ウクライナ情勢は独仏が交渉の主役の座にある。英国も外務相と国防相が訪露、訪ウクライナをしている。軍事力では圧倒的に優位にある米国だが、究極の兵器としての核兵器はロシアも持っている。ロシアには、超音速ハイパーソニック・ミサイルもある。

 ホワイトハウスが発表した中にある「同盟国と友好国」に日韓も入るのかもしれないが、極東で日米や米韓、日米韓の軍事演習という動きは全くなく、米国の原潜が領海侵犯をしたとロシアが訴えた程度で、ウクライナ危機を乗り切る作戦には参加しているとは言い難い。つまり、極東のロシア軍は自由にウクライナ国境への配備を増やすことができるのだ。

 しかも、キエフではゼレンスキー大統領の政策に反対するデモとて起こっている中、ウクライナ軍がどこまでロシア軍を食い止めるかも未知数との噂もある。そこに米軍を展開して万一にもウクライナ住民の非難を浴びるようなことがあれば、バイデン政権の大失策となるだろう。

 実際、ゼレンスキー大統領は、冷静な対応を米国やNATO、ロシアに呼びかけており、危機に瀕した国のリーダーという感じではない。いずれにしても、米国のワンマン・バンド(「独り舞台」を意味する)の時代は終わりを告げたことを意味する。

筆者:小川 博司

JBpress

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