ロシアで盛り上がる代理出産、欧米からも依頼続々

2月15日(木)6時12分 JBpress

上海の国際医療ツーリズムフェアに出展したノヴァ・クリニック。ロシアで代理出産を希望する中国人は多い(写真提供:ノヴァ・クリニック、以下同じ)

写真を拡大

 ロシアには意外にも、時々非常にリベラルな制度がある。

 日本では原則認められていない代理出産だが、ロシアでは積極的な議論が交わされ、完璧ではないものの法整備もされている。

 ロシアはますます、かつてのタイやインドの代わりとして、代理出産を望む日本人カップルの注目を集めるだろう。


ロシアの代理出産の定義

 最初に断っておくと、ロシアにおける代理出産とは、依頼者カップルの卵子・精子(またはドナーの卵子・精子)を体外受精させてできた受精卵を、第三者の女性の子宮に入れ、出産してもらう方法のことを指す。

 つまり代理母と産まれてくる子供は、遺伝的なつながりを持たない、というのが原則だ。

 出産する第三者の女性が卵子ドナーになる場合(遺伝上の母になる場合)は、ロシアで言うところの「代理出産」とはならない。


モスクワの不妊治療クリニック

 最近、首都モスクワでは特に、不妊治療に通う人が増えている。筆者は最先端の不妊治療専門クリニックの1つ、「ノヴァ・クリニック」を訪れ、マネジャーのアンナ・カランスカヤさんに話を聞いた。

 このクリニックを訪れる人の主な年齢層は35歳以上。ロシア人が最も多いが、欧州、米国、中国、南米、そして日本を含む世界中から外国人が殺到しているという。

 この病院が外国人に人気なのは、高度な治療が手の届く価格で受けられるためだ。自国では禁止されている代理出産を目当てに来る人も多い。

 アンナさんによれば、代理母になりたい女性もそれなりにいるが、代理出産の需要がハイペースで高まっているので、依頼者の数の方が多いという。

 代理母になれるのは、国が定めた条件(20〜35歳未満、自然分娩で最低1回の出産経験があることなど)を満たし、かつ医療検査・面談を経て、問題がなかった人のみだ。

 クリニックは依頼者に、代理母候補のプロフィールと医学的データ、顔写真を見せる。依頼者はそれを見て、OKかどうかを決める。

 代理母の外見が遺伝することはあり得ないが、たわいもない感情的な理由から、依頼者が女性を気に入らない場合もあるという。その場合は別の候補が紹介される。

 このクリニックでは、代理母の写真こそ開示するものの、原則的に、依頼者夫婦と代理母が直接顔を合わせることはない。

 アンナさんは「双方とも、互いの領域に踏み込むのを良しとしないので、面会を希望される方はまずいらっしゃいません」と話す。

 契約書も当事者間ではなく、クリニックと依頼者、クリニックと代理母の間で別々に交わされるため、書類上でも当事者同士が交わることはない。

 依頼者は専任のマネジャーを通して、代理母の妊娠プロセスのきめ細かい報告を受ける。

 胎児のエコー写真も定期的に送られてくるので、リアルタイムで胎児の成長を確認できる。代理母側にも24時間対応の専任スタッフがつき、あらゆる身体的・精神的な異変に対応できるようになっている。

 代理母の出産は提携しているモスクワ市内の産院で行う。この産院の有料棟では、依頼者夫婦は泊まり込みで赤ちゃんの世話をすることができる。子供ができたという実感を得たい依頼者にとって、この家族水入らずのサービスは特に好評だ。

 依頼者が無事、両親の欄に自分たちの名前が入った出生証明書を受け取ったところで、ノヴァ・クリニックのサービスは終了するのである。

 日本語の情報サイトなどを見ると、日本人がロシアで代理出産を行う場合、費用は数百万円から1000万円、と書かれている。

 しかしアンナさんによれば「ケースにもよりますが、当医院の場合、1000万円では全く足りません。それでも、欧米の病院から比べればかなりの低価格です」とのことだ。

 ロシアでもハイクラスの病院で至れり尽くせりのサービスとなれば、それなりの出費が必要ということだろう。


法律は? 右往左往する議論

 ロシア家族法11条は、「婚姻関係にあり、受精卵を第三者の女性に移植することに書面で同意した男女は、子供を出産した女性(代理母)の同意が得られた場合にのみ、両親として登録される」と定めている。

 つまり、形式的には代理母に親権があるが、代理母がそれを放棄することで、依頼者夫婦が正式な両親となるというステップを踏んでいるのである。

 このため依頼者側からすれば、いくら契約書があったとしても、代理母の気が変わったら、「子供を引き渡してもらえないのでは?」という不安がつきまとうことになる。

 そこで2016年6月、代理母の同意の有無にかかわらず、子供の出生と同時に依頼人を正式な両親とみなそう、という法案が国会に提出された。

 しかし、その案の検討が続くなか、「現行法ではすべての当事者の利益を保障できないため、当面は代理出産を全面的に禁止するべきだ」という議員も出てきて、議論は紛糾した。

 結局、どちらの案も採択されなかったため、現行では代理母の親権放棄が必須となっている。

 この議論は現在も続いており、先月もモスクワ州・子供の権利担当オンブズマンが「代理母に親権が残る可能性をゼロにし、法律を完成段階に持っていくべき」と記者会見で述べている。

 婚姻関係にあるカップルだけではなく、男性1人、女性1人でも、代理出産を利用することができる。そのため、法律制定時には予想もしなかったようなケースも生じている。

 サンクトペテルブルグに住むナタリアさんは、自分の息子が不治の病だと分かり、息子に精子を冷凍保存するよう頼んだ。

 息子の死後、ナタリアさんは息子の凍結精子とドナーの卵子を使い、受精卵を作った。それを代理母に移植し、無事に男の子が生まれ、代理母に親権を放棄してもらった。

 こうして、遺伝上の祖母となったナタリアさんだったが、「父も母も存在しない子は登録できない」と、役場で出生登録を拒否されてしまう。

 結局ナタリアさんは裁判を起こし、出生証明書を勝ち取った。苦肉の策として、出生証明書の母親欄にはナタリアさんの名前が記載されることになった。


代理母は本当に儲かる?

 ロシア女性が代理母になりたい動機はやはり、金銭的なメリットだ。代理母には、妊娠期間中の生活費が支給され、出産後に報酬が支払われる。代理母として稼ぐための心構えを指南するサイトまである。

 治療施設の多くがモスクワにあることも、代理母の関心を引いている。代理母が地方住まいなら、通院に便利な場所に住居が提供され、夫がいれば夫と一緒にモスクワで快適に暮らすことができる。

 地域間格差の大きいロシアでは、同じ職業でもモスクワの方が数倍稼げる。

 モスクワの家賃相場は非常に高いため、地方から自力で引っ越してくるのは難しい。わずか1年間でも元手ゼロで出稼ぎできるとなれば、夫にもメリットがあるというわけだ。

 しかし代理母のリスクも大きい。現行法では、依頼人の気が変わって、子供を引き取りたくないと言われたら、自分の子供になってしまう。

 一昨年、政府系新聞「ロシア新聞」は、ヴォルゴグラードに住む代理母の女性が、手元に残された子の養育費を求めて、依頼者を訴えているというニュースを報じた。

 代理母・ニーナさんは、孫が欲しいというモスクワの男性と代理出産契約を交わした。ニーナさんには自分の子供が4人いるため、仕事を見つけるのが難しく、報酬を家計の足しにしたかったという。

 男性は、すでに亡くなった息子の凍結精子を使い、別の女性との代理出産契約で孫を手に入れていた。その子が女児だったため、今度は男児が欲しいという理由でニーナさんに依頼したのである。

 男性は「男の子が欲しいが、男でも女でも引き取る」と約束した。しかしニーナさんのお腹にいるのが女の子だとわかった途端、男性は連絡を絶った。

 2人を仲介したクリニックは、ニーナさんが妊娠30週にもかかわらず、中絶するよう求めてきた。

 心身ともに参ってしまったニーナさんだったが、胎児はとても順調に育っていたため、夫の励ましにより出産を決意。5人目の子供を自分の娘として手元で育てることにし、養育費を求めて戦っている。


ロシア社会の目

 ロシアにおける代理出産は20年以上前から行なわれており、最近10年間だけで少なくとも2300人以上が誕生していると言われている。

 祖母が娘の代わりに孫を出産する例もあれば、親しい友人に直接代理母になってくれるよう頼む場合もある。国民的歌手アーラ・プガチョーワをはじめ、芸能人も続々代理出産を行っている。

 それを冷ややかに見る人も少なくない。

 ロシアはクリミア併合以降、欧米から経済制裁を受け、輸入代替政策を取っている。それをもじって「今やロシアは赤ん坊も生産するのさ」とブラックジョークを飛ばす人もいる。

 政界に大きい影響力を持っているロシア正教会も、代理出産に反対している。

 ロシア正教会は「子供を産んだ女性が、その子を依頼者に渡してしまう。それは不自然で、例え商業的なものだとしても、モラル的に看過できない」と主張している。

 また代理母の中には、「依頼者から、人間として扱われていない気がする」「人の不幸で稼ぎやがって、という目で見られるのが辛い」と訴える人もいる。

 しかしこれらの事情を勘案しても、代理出産がロシアで年々増え、ビジネスとして合法に成立しているのは確かであるし、決して裕福な外国人だけがこの技術の恩恵を享受しているというわけではない。

 むしろ、ソ連時代、表向きには「セックスがない」と言われた時代に育った祖父母世代が、代理出産を積極的に利用している印象すら受ける。

 現代の学校教育においてすら性教育がタブーとされているロシアでこのような現象が起きるのはいささか不思議だが、それだけロシア人の生殖医療に対する意識が劇的に変わっているということかもしれない。

筆者:徳山 あすか

JBpress

「ロシア」をもっと詳しく

「ロシア」のニュース

BIGLOBE
トップへ