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ナチス再来を危ぶみ世界中で売れるヒトラー本

JBpress2月17日(金)6時14分
画像:Hitler: The Evolution of Evil(悪の進化) Newsweek Special Edition, 2017
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Hitler: The Evolution of Evil(悪の進化) Newsweek Special Edition, 2017
画像:Hitler: Can his evil legacy ever be defeated?(悪のレガシーを打ち負かせるか) Newsweek Special Edition, 2016
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Hitler: Can his evil legacy ever be defeated?(悪のレガシーを打ち負かせるか) Newsweek Special Edition, 2016

ドイツ南部ミュンヘンの記者会見に先立ち公開された、注釈付きで再版されたアドルフ・ヒトラーの著書「わが闘争」〔AFPBB News〕


欧米でヒトラー本が売れる理由

 昨年1月に再出版されたナチス・ドイツの独裁者ヒトラーの自叙伝的著書「Mein Kampf」(わが闘争)が1年間で8万5000部売れ、ベストセラーの仲間入りをしている。

 なぜ、こんなに売れるのか。ヒトラー本はドイツでは発禁本ではなかったのか。

 ドイツの識者は、「極右が台頭する今こそ、ドイツ人はヒトラーが引き起こした歴史を再検証し、全体主義の誤りを見つめ直しているのだろう」とポジティブなコメントをしている。

 果たしてそうなのだろうか。この本を秘かに「経典」にしている輩は皆無なのだろうか。カギ十字の旗を誇らしげに掲げている「極右」の若者の映像を見るとそんな疑問が沸いてくる。

 今年初め、スーパーの雑誌スタンドに料理やスポーツの雑誌に混じってヒトラーの本があるのに気づき愕然とした。米国はヒトラーには厳しかったのではなかったのか。

 1995年、ホロコーストを否定する記事を掲載した日本の雑誌「マルコポーロ」が米ユダヤ人団体「サイモン・ウィーゼンタール」から激しい抗議を受け、自主廃刊に追い込まれたことがあった。

 ロサンゼルスに本部を置くこの団体は、世界中に網を張り巡らして監視の目を光らせ、ホロコースト否定の動きを探知すると、最高幹部が自ら乗り込んでいく。法的措置をちらつかせながら徹底的に否定論者を追い込めるのだ。

 その米国でヒトラー本が売られていることに違和感を覚えた。

 問題の本は、ニューズウィーク誌の「スペシャル・エディション」と銘打った、96ページのモック本だ。タイトルはずばり、「Hitler: The Evolution of Evil」(ヒトラー:悪の進化)。

 ニューズウィークは2016年にもヒトラー本を出版していた。タイトルは「Hitler: Can his evil legacy ever be defeated」(ヒトラー:悪のレガシーは打ち負かすことができるか)。

 ナチスの栄華盛衰を描きながら、ナチスに立ち向かった人たちの記録を描いている。欧州で吹き荒れている極右現象への警鐘を打ち鳴らした内容になっている。


トランプを取り巻く側近の中に「極右」

 ニューズウィークがなぜ、昨年、そして今年とヒトラーものを立て続けに出しているのだろう。

 なぜ、この時期にヒトラー本が密かなブームを呼んでいるのだろう。社会宗教学者のディクソン・ヤギ神学博士はこう分析している。

 「欧州での右翼政党の躍進、極右団体の政治活動、そして米国では極右に囲まれたドナルド・トランプが大統領になった。こうした政治状況とヒトラー本が出版されていることとは無関係ではない」

 「トランプの周りにはスティーブ・バノン(上級顧問兼首席戦略官)やステファン・ミラー(政策担当上級顧問)といった『アルト・ライト』(極右)と深い関わり合いを持つ人物が蠢いている。彼らの主義主張は白人優越主義、反ユダヤ、反有色人種。その行きつく先はネオナチになるかもしれない」

 歴史を振り返えれば明らかなように、ヒトラーを生み出したのはポピュリズム(大衆迎合主義)だった。ナチス党は選挙で堂々と選ばれて政権の座についた。

 ヤギ博士はさらに続ける。

 「第1次世界大戦で負けたドイツの国民はドイツのアイディンティを取り戻す指導者を求めていた。そこにヒトラーが現れたのだ」

 「反エスタブリッシュメント(反既成勢力)を掲げる一般大衆の期待を一身に集めてあれよあれよという間に大統領に選ばれたトランプは、ヒトラーが総統になってしまったプロセスと似通っている」

 「トランプに警戒心を抱いているリベラル派はヒトラーがどんな人物だったのか、改めて知りたくなっているのではないだろうか」


標的は1930年代は反ユダヤ、現在は反イスラム

 興味深いのは、本書に出てくるナチス研究者のガブリエル・ローゼンフィエルド教授(フェアフィールド大学)が1930年代の状況と現在の状況との間に類似性があると分析している点だ。

 同教授は、以下のように指摘している。

 「1930年代、第1次世界大戦後、欧州に吹き荒れた経済不況下でスケープゴート(生贄のヤギ)にされたのはユダヤ人だった。ユダヤ人は群を抜いて目立つ唯一のマイノリティだった。数ではなく登場感として目立ったのだ」

 「反ユダヤ主義は国境を越えてやって来る経済的脅威に対抗する象徴になっていった。ナチスはそこに目をつけた」

 「現在、欧米で起きている反イスラム現象は、その意味では1930年代の反ユダヤに類似したところがある。イスラム教徒は自分たちの安全を脅かす社会的、経済的な脅威になっている」

 「イスラム教徒たちはスケープゴートにされているのだ。ネオナチは、反イスラムを前面に押し出しながら実際には白人優越主義という究極の目標を達成しようとしている」


「アルト・ライト」と「ナチス」の共通性

 本書は、第1次世界大戦までは全くの無名な一青年だったヒトラーが戦後には、バイエルン州で、国家社会主義ドイツ労働党(ナチス)指導者としてアーリア民族を中心に据えた人種主義を掲げて進出していく過程を写真をふんだんに使いながら解説している。

 ところが「Evil on the Rise Again」(悪、再び舞い上がる)の章では、米国内で活発化している米白人優越主義者団体「アルト・ライト」のリーダーが2016年12月、テキサス州で演説する写真を掲載。写真にはこんな説明文がついている。

 「アルト・ライトは我々はナチスとは異なると主張している。だが主張するファシズム、反ユダヤ、反非キリスト教徒、右翼ポピュリズムはナチスとほぼ同じである。我々はイスラム過激派から祖国を守るのだというスローガンを掲げたネオナチ以外の何者でもない」

 ネオナチの活動は、ノースカロライナ、イリノイ、サウスカロライナ、ジョージア各州とトランプ氏がヒラリー・クリントン民主党大統領を破った南部、中西部で目立っている。

 そして本書は、こうした動きがフランス、ドイツ、スロバキア、スペイン、ノルウェーなど欧州各地でも出ていることを指摘、「世界各地でヒトラーのレガシーは抱擁されている。我々は自由を守るためにこれら極右と戦わねばならない」と訴えている。


日本の「Zaitokukai」は「日独伊枢軸国の亡霊」?

 興味深いのは日本の「極右」にも言及している点だ。

 在日韓国人・朝鮮人に対する入管特例法を廃止し、在日をほかの外国人と平等に扱うことを目指す「Zaitokukai」(在日特権を許さない市民の会=在特会)を「Ghost of the Axis Powers」(日独伊枢軸国の亡霊)として紹介している。

 その根拠がどこにあるのか。特定の民族を排斥しようとする点にあるのか、どうか。詳細な説明はない。「在特会」関係者に世界規模での「アルト・ライト」の一員であるとの認識があるかどうか、はなはだ疑問である。

 本書が結論的にヒトラーのレガシーを受け継いでいるグループとして「認定」しているのは、以下の4つである。

(1)ホロコースト否定論者
(2)スキンヘッド人種差別主義者
(3)白人優越主義者
(4)ネオ・ナチ


ホロコースト記念日に「ユダヤ人」と明記しなかったトランプ

 1月27日はホロコーストの犠牲者を記念する国際デーだった。600万人以上のユダヤ人、200万人のロマ人、1万5000人の同性愛者がナチスに迫害され殺害されたことを思い起こし、憎悪や人種差別を世界から一掃することを誓い合う日である。

 1945年1月27日はアウシュヴィッツ強制収容所からユダヤ人が解放された日である。

 トランプ大統領はこの日、声明文を発表した。だがその文面には「犠牲者、生存者、ホロコーストと戦った英雄たち」とあるだけで、特段、「ユダヤ人」とは書かれていないかった。

 ユダヤ系団体は直ちに抗議している。ホワイトハウスの報道官は「特に他意はない。ユダヤ人以外にも多くの人がナチの暴挙による犠牲者になっている」と弁明している。

 特に深い意味はないのかもしれない。だが、トランプ氏とヒトラーとを二重写しにしようとする一部米国人、とくにユダヤ系にはどうも引っかかるようである。

 以下、トランプ大統領の声明文をご参考までにリンクしておく。

筆者:高濱 賛

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