北朝鮮レストランから消える「二人きりになれる空間」
2025年2月18日(火)10時3分 デイリーNKジャパン
先月27日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第30回書記局拡大会議で槍玉に上げられた南浦(ナムポ)市温泉(オンチョン)郡における「特大事件」。地元の幹部が、工場竣工式の打ち上げで女性をはべらせ、どんちゃん騒ぎをしていたというものだ。
同様に槍玉に上げられた慈江道(チャガンド)の雩時(ウシ)郡の別の事例では、幹部ら10人が公開処刑されたとの情報があり、温泉郡の幹部はもちろん、一般市民らも「自分にも累が及ぶのではないか」と戦々恐々としている。
この影響か、北朝鮮国内のレストランから「VIPルーム」が消えつつある。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
これを伝えたのは、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の羅先(ラソン)の情報筋だ。ほとんどの食堂には、一般客が利用するホールの裏に「ティッコルバン」(奥の間)と呼ばれる小さな個室が設けられている。主に幹部らが利用する、一種の「VIPルーム」だ。
党幹部の友人に連れられて、このVIPルームを利用したことのある情報筋が、その様子を語った。
「テーブルと椅子は一般室より高価なもののように見えた。扇風機とハンガーがあった。料理も量が多く、味もよい。特別待遇を受けてることがよくわかった」
この部屋の廃止は、拡大会議での「飲酒接待事件」への批判の後続措置だと、情報筋は見ている。
咸鏡北道の別の情報筋は、レストランに勤める妹の話として、あまり幹部は歓迎されていないと伝えた。
「幹部や上層部から来たお客様を接待せよとの指示は前日に下されればいいのだけど、ほとんどは当日に伝えられる」
「連絡を受けて、市場に食材を買いに走る。メニューにはない様々な料理を準備しなければならない。通常営業を続けつつ、すべてを準備しなければならないのに、予算と手間ひまかけて準備しても、食事代を払う幹部はいない」(情報筋)
幹部がやってくると、準備に手間がかかるばかりか、儲けは全くなくむしろ損をするのだ。店内での食事に限らず、地元幹部の会議や出張の際の弁当作りまでやらされる。
今回、中央から何らかの指示が下されて、VIPルームを廃止することになったが、ほとぼりがさめればまた復活するだろうと情報筋は見ている。
「過去にもVIPルームをなくせという指示があったが、幹部と結託して、或いはいつかやってくる検閲(監査)や調査に備えて、党幹部、司法幹部との関係をよくしておこうとレストランの責任者は考えて、VIPルームを再び設置した」
「レストランでの無料接待を受ける幹部は当面減るだろうが、そのうち元通りになるだろう。いくらお上の指示があったとは言え、その執行には限界がある」(情報筋)
北朝鮮の施設には元来、「二人きりになれる空間」があまりなかった。
密談や密会をするようなスペースがほとんどなかった。そこに目をつけた各店舗は、「二人きりになれる空間」を先を争って設置した。不倫や売春の温床となったのは言うまでもない。