自ら米朝会談の失敗を予言したトランプ大統領

2月22日(金)6時14分 JBpress

The Threat: How the FBI Protects America in the Age of Terror and Trump by Andrew G. McCabe St. Martin's Press, 2019

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握手を交わすドナルド・トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。初の米朝首脳会談が開かれたシンガポールのセントーサ島にて(2018年6月12日撮影)。(c)SAUL LOEB / AFP〔AFPBB News〕


米メディア、「トランプに頼まれて書いた」に注目

 安倍晋三首相から公式にノーベル平和賞授賞の推薦をしてもらったことを誇らしげに記者会見で公表したドナルド・トランプ大統領の発言が日米間で波紋を広げている。

 ワシントン政界は「!?」である。米メディアは「トランプ大統領ならさもありなん」と驚いてはいない。

 ニューヨーク・タイムズはこう報道している。

 「左寄り(Left-leaning)の朝日新聞も右寄り(Right-leaning)の読売新聞も『日本政府筋がトランプ大統領周辺から頼まれて首相は推薦状を書いたとコメントしている』と報じている」

 「トランプという男はそこまでやる大統領だ」ということを読者に印象づけている。

(https://www.nytimes.com/2019/02/18/world/asia/donald-trump-nobel-prize-shinzo-abe.html)

(トランプ大統領もホワイトハウスも日本の新聞の報道については一切コメントしていない)


米朝首脳会談の成果を自賛したい狡猾さ

 過去30年間ホワイトハウスを担当してきた米主要紙のジャーナリストはため息交じりに筆者にこう語っている。

 「外国首脳からの書簡や発言をべらべら喋る。ノーベル賞推薦者の名前は50年間明かさないという約束事など全く知らない無知さ」

 「『安倍書簡』を明かすことがどれほど相手国で問題になるかなど歯牙にもかけない無神経さ」

 「自分がどれほど日本はもとより世界中で物議をかもす存在(Controversial)であることを意識しない、あるいは意識していも平然と実行に移す愚鈍さ。並外れたスタンドプレイ」

 「あきれ果ててものが言えない。ロナルド・レーガン第40年代大統領からこれまで6人の大統領をつぶさに見てきたが、トランプ大統領の前任者5人の中にはこんな大統領はいなかった」


「ミサイル発射はなくなった」と開き直り

 ところがトランプ大統領がこの時点で「安倍書簡」を披露したのには綿密な計算があるという見方もある。

(公表した2月18日から)9日後に迫った2回目の米朝首脳会談を前に、「予防線」を張るというトランプ流の世論操作だ。

 米朝首脳会談で米国は何を狙ったのか。

 北朝鮮から「完全で検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)ではなかったのか。ところが鳴り物入りで行われた米朝首脳会談後、8か月経っても実現していない。

 2月27日にベトナム・ダナンで開かれる2回目の首脳会談でも「北朝鮮の非核化での進展は望み薄」といった予測が支配的だ。

 また非核化を1ミリでも進めたいために北朝鮮に妥協するのではないのか、といった警戒感も出ている。


コーツ国家情報長官すら「金正恩は核を放棄などしない」

 米主要紙のベテラン外交記者はこう見ている。

 「米情報機関各部門を束ねるダン・コーツ国家情報長官ですら、宣誓した議会証言で『大統領の対北朝鮮に対する働きかけは失敗するだろう。北朝鮮が核兵器を放棄するとは思えない』と公言している」

(https://www.newsmax.com/newsfront/ruddy-dni-coats-change/2019/02/18/id/903243/)

 「そうした中でまた金正恩委員長と会うわけだが、非核化で進展がなければ、トランプ大統領はそれ見たことか、と批判を浴びるのは目に見えている」

 「それを見越して、対北朝鮮交渉ではすでに成果を上げているんだ。それを高く評価してくれている人間がいる。日本の安倍首相だ」

 「非核化はダメでも北朝鮮は核実験やミサイル実験を停止しているではないか、これはノーベル平和賞を受けるにふさわしいと安倍首相は推薦状をノーベル平和賞選考委員会に送ってくれているんだぞ、と言い出したのだ」

 「2回目の米朝首脳会談でもCVIDを実現できない時のことを考えて予防線を張ったんだろう。安倍首相はまんまと利用されたのだ」

 「もっともノーベル賞平和賞について外国首脳が言及したことが初めて公になったのは韓国の文在寅大統領だが、トランプ大統領と文大統領とは対北朝鮮問題ではうまくいっていないし、文氏ではちょっと役不足、メージャー・プレイヤーじゃないしね」


トランプ大統領の北朝鮮・韓国情報は安倍首相?

 その安倍首相とはトランプ大統領は2月20日にも電話会談している。

 大統領就任以後、2人はすでに20回以上も電話会談を行っている。いったい何を話し合っているのだろう。

 米主要シンクタンクの上級研究員が、日本政府の中枢にいる某氏から聞いたという情報を筆者に漏らしている。

 「トランプ大統領は自分を褒めてくれた人間しか好きにならない」

 「例えば、北朝鮮の金正恩委員長や中国の習近平国家主席を気に入ったのは同委員長が大統領に尊敬の念を示した直後からだ」

 「ロシアのウラジミール・プーチン大統領とのつき合いを大切にしている(?)のもプーチン氏がトランプ氏を一国の大統領として受け入れたからだ」

 「大統領になってからも安倍首相には頻繁に電話をかけている。いったい何をそんなに話しているのか」

 「日本政府の中枢にいる人から聞いた話だが、電話会談の中身はほとんど北朝鮮問題らしい。北朝鮮の状況、特に金正恩委員長に関して日本政府が得ている情報や噂話らしい。それと韓国の状況、特に文大統領の動きについてらしい」

 「安倍、金正恩、文在寅はみな東アジア人。白人のトランプには分からない部分を安倍首相から聞き出しているというのだ」

 「その意味では、トランプ大統領は、自らの情報機関や国務省から上がってくる情報よりも安倍からの情報の方を信頼しているというのが某氏の説明だった」


『安倍書簡』には他に何が書いてあったのか

 繰り返しになるが、もう一度、『安倍書簡』についてトランプ大統領が2月18日、ホワイトハウス詰め記者を前に喋ったことを一字一句、直訳してみる。

 「我々はたくさんのいい仕事をしてきた。この政権は驚くほど素晴らしい仕事をしてきたが、そのことを自画自賛などしない」

 「そういえば、日本の安倍首相が私にくれた・・・5ページの素晴らしい手紙だ。ノーベル賞選考委員会にそれを送ったのだ」

 「なぜか分かるかい。それまでロケット・シップやミサイルが日本の上空を飛んでいた。ところがその警戒が解けたんだ」

 「なぜか、分かるだろう。一気に日本人は安心した。安全になったんだ。私がやったんだ」

(https://www.nbcnews.com/politics/donald-trump/you-won-t-believe-what-trump-just-said-6-eye-n972166)

 そこで1つ質問が浮かんでくる。

 安倍首相はこの5ページにも及ぶ手紙でトランプ大統領のノーベル平和賞授賞推薦のほか、何について綴っているのだろうか。

(安倍首相はその内容についてトランプ大統領は絶対に他言しないだろうと思っているだろうが、こればかりは分からない)


トランプ大統領、今度は国家情報長官を解任する構え

 コーツ長官の発言にトランプ大統領は激怒し、同長官を解任する構えを見せている。

(https://thehill.com/policy/national-security/430787-talk-grows-that-trump-will-fire-dan-coats)

 安倍首相の囁く北朝鮮の動きには傾聴し、自国の外交安全保障や情報機関の責任者の意見を聞かないで、金正恩委員長と非核化について協議しようというのだろう。

 耳を傾けているのは安倍首相だけではない。プーチン大統領の話も信用していた、という真実が明らかになっている。

 マケイブ前FBI副長官の新著が2月20日に発売された。

 本のタイトルは、「The Threat: How the FBI Protects America in the Age of terror and Trump」(脅威:FBIはテロとトランプの時代におけるアメリカをいかに守っているか)

 著者のマケイブ氏は、1996年からトランプ大統領から解任されるまで23年間、FBI副長官を務め、FBI一筋に働いてきた法学博士。

 2017年5月、大統領がジェームズ・コミ—FBI長官を解任したことで副長官から一時期長官代行を務めた。

 ロシアゲート疑惑を巡って機密情報を外部に流したという嫌疑で年金の満額支給資格を得られる2日前に解雇されている。

 本書の中で、マケイブ氏は、トランプ政権内部で大統領を解任させる動きがあったことを記している。

 同氏は2月17日のCBSテレビとのインタビューで、具体的にこう述べている。

 「当時のロッド・ローゼンスタイン司法次官がトランプ大統領に憲法修正第25条を適用して解任させるように働きかけた。2人の閣僚が賛同していた」


「北朝鮮にICBM発射能力はない」とプーチン

 もう一つ、ショッキングな話をマケイブ氏は本の中で明かしている。

 「北朝鮮の金正恩委員長は米国本土にも届く大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を独立記念日のための贈り物として打ち上げ実験すると警告していた」

 「しかし大統領はこれは米国を担いでいると信じて疑わなかった。北朝鮮にはICBMを発射させるだけの能力はないと信じていた」

 「その理由として大統領はプーチン大統領が自分に直接言っていたからだと述べた」

 「この時点で米情報機関から上がる情報では北朝鮮がICBM実験を行うことが予想されていた。トランプ大統領はそれを無視し、プーチン大統領の言うことを信用していた」(本書136ページ)

 2017年11月29日、北朝鮮がICBMの発射事件を行い、ロフテッド軌道で4500キロを飛行し、日本の排他的経済水域(EED)に着水した。通常の軌道だと1万3000キロと米東海岸を含む米国全土を射程に収めるミサイルだった。

 プーチン大統領の予測はものの見事に外れた。あるいはプーチン大統領は北朝鮮の実際のミサイル発射能力を知っていながらトランプ大統領を騙していたのか。

 日本としては、安倍首相の囁きを米情報機関の極秘情報より信用している(信用しているふりをしている?)とすれば、戦後70余年で日米首脳がここまで深い信頼関係になったことは喜ばしい限りだ。

 だが心配なのは、その安倍首相が得ているのは、内閣調査室をはじめとする日本の情報機関からのものだということ。

 日本国内には安倍首相が日本の情報機関から得ている「情報の不正確さ」を指摘する向き*1もある。

*1=参考:「『ほら吹き』内閣情報調査室の凋落」、『選択』2018年12月号

筆者:高濱 賛

JBpress

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