「いい加減にしてくれ」金正恩印の贈り物に国民から散々な評価

2月23日(火)7時24分 デイリーNKジャパン

意義深い光明星節を翌日に控えた日のことだった。あたりが夕闇に包まれるころ、娘の幼稚園の担任の先生が訪ねてきた。


「チンギョンのお母さん、敬愛する金正恩元帥様が意義深い光明星節を迎えて、全国の学齢期前の子どもたちに贈り物として送ってくださったヒマワリ学用品です」


私は贈り物のリストを開き、10種類にもなる品目を何度も噛みしめながら読んだ。子どもたちの心にピッタリの様々なきれいな色の72本もの鉛筆から、消しゴム、クレヨン、各種物差しなどと鉛筆削りに至るまで、何度撫でたかわからない。


胸の奥から湧き上がる激情で、泉のように吹き出した熱い涙が、私の両頬を音もなく伝った。


これは、北朝鮮の雑誌『青年文学』2020年第9号が掲載した、文学通信員(見習い作家)リ・ヘギョン氏のエッセー「恩返しの心」の一節だ。


光明星節(2月16日の故金正日総書記の生誕記念日)の贈り物として、学用品のセットを受け取った母親が、国の経済が苦しい中でも、子どもへの愛を忘れない金正恩総書記の配慮に感動のあまりに涙を流し絶賛するという、ありきたりなプロパガンダだ。


さて、咸鏡北道(ハムギョンブクト)では、実際に光明星節に子どもたちに贈り物が配られた。人々は本当に「泉のように吹き出した熱い涙」を流しているのか、現地のデイリーNK内部情報筋からの情報を見てみよう。


会寧(フェリョン)市で、金正恩氏の名前で配られたのは鉛筆72本、消しゴム8個、クレヨン12色セット、水彩絵の具12色セット、水性ボールペン2本、油性ボールペン3本、物差し4本、鉛筆削り、筆箱、学用品箱それぞれ1個。


一見、豪華バージョンのように思えるが、実際に受け取れたのは新学期に小学校に入学する子どもたちのみ。その正確な数は不明だが、会寧市の人口15万人から考えると、多く見積もっても3桁だろう。また、質の良し悪しもわからない。


その他の幼稚園児と小学生に配られたのは、キャンディ、スナック菓子、コメで作ったおこし2袋ずつ、合計6袋だけだった。例年なら中高生や成人にも配られる特別配給だが、今年はなかった。一時は質が向上したと評判だったお菓子セットだが、それさえまともに調達できないほど、経済難が深刻ということだろう。


贈り物のリストには「光明星節を迎え、敬愛する父金正恩元帥様がお贈りくださった贈り物」とある。経済的苦境の中でも、「子どもたちのことを忘れない元帥様」というイメージづくりのためだが、市民の評判は散々だ。



あまりにも粗末なお菓子セット、中学生以上には何も配られなかったことにへの不平不満、「自力更生、自給自足を訴えていたがついに本当にそんな世の中になった」との嘆きはもちろん、「『先代の首領様の誕生日だから、なんとしてでも何かを配らなければいけない』という切迫感が伝わる」と市民から逆に心配されるなど、反応は様々だが、「さすが元帥様」などといったリアクションがあったのかは不明だ。


一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の各地の情報筋は、「贈り物」の製造が物価を高騰させている現状を伝えた。


平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、新義州市場で売られている輸入品の砂糖の値段が、1キロ5万北朝鮮ウォン(約750円)と史上最高値を記録した。


この砂糖は、緊急物資として少量だけ輸入されたものだったが、高騰を始めたのは昨年12月から。これは金正恩氏からの贈り物として元日に子どもたちに配られたお菓子セットの生産が始まった時期と一致する。つまり、食品工場がお菓子生産のために砂糖を大量購入したために、価格が高騰したというわけだ。


さらに、2月16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)に向けてのお菓子の生産が続き、残りの砂糖すら食品工場が買い占め、品薄になってしまっているとのことだ。


砂糖だけでなく、小麦粉、大豆油なども高騰しており、当局はお菓子の生産費用を、市民に税金として課した。それも普段の2倍だ。


「毎回の贈り物政治の結果、苦しむのはわれわれなのに、なぜお菓子の生産費用を市民に押し付けるのかわからない。われわれからカネを取って作った粗末なキャンディが最高尊厳からの贈り物だというのか」(新義州市民)


同様の現象は平安南道(ピョンアンナムド)でも起きていると現地の情報筋が伝えている。ただ、こちらは値段の高い輸入品の小麦粉、砂糖が使えず、安価なトウモロコシ飴や粉を材料にしているため、トウモロコシ価格が1月の1キロ2000北朝鮮ウォン(約30円)から3割ほど上昇してしまったという。

デイリーNKジャパン

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