農民を貧困に、市民を飢えに追い込む北朝鮮の「国営米屋」

2023年2月24日(金)6時1分 デイリーNKジャパン

北朝鮮は、各地に国営米屋「糧穀販売所」の設置を行っている。表向きは米価の安定を図るということになっているが、食料品を配給システムを通じて極めて安価に供給することで、不平不満を抑えていたかつての制度に戻そうとしているようだ。つまり、「飯が食いたいなら文句は言うな」ということだ。


糧穀販売所で販売される穀物は、各地の協同農場で買い上げられるが、このシステムのせいで農民の収入が減り、ただでさえ貧しい彼らを苦しめている。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


協同農場では、国家への上納分を除き、収穫の一部が農民への分配が行われる。農民はそれを穀物商に売ったり、直接市場に出向いて自らが販売したりして現金収入を得る。時期や売り方によって異なるが、コメ1キロで5000北朝鮮ウォン(約80円)ほどになっていた。


ところが、糧穀販売所が設置された2021年以降、販売所が農場に出向いてコメを買い上げるようになった。その価格は1キロ3800北朝鮮ウォン(約61円)から4000北朝鮮ウォン(約64円)で、市場に売るより2〜3割安い。


それを嫌った農民は、なんとかして市場に売りに出そうとするが、糧穀販売所は「愛国農民」「忠誠分子」「愛国米」などと称して、農民から半強制的にコメを買い上げようとする。


それに追い打ちをかけるように、凶作が続いている。韓国の農村振興庁と農村経済研究院が発表した資料によると、北朝鮮のコメ、大豆、小麦、トウモロコシなどの穀物生産量は2020年が440万トン、2021年は469万トン、2022年は451万トン。


地域により作況に差があるものの、平安南道の農民によると、昨年の収穫は一昨年の6〜7割にとどまったという。それに合わせて農民に分配される量も減ってしまった。


「糧穀販売所にコメを売ると、100キロなら15万北朝鮮ウォン(約2400円)、1トンなら150万ウォン(約2万4000円)も損をする。15万北朝鮮ウォンは、農民家庭の1カ月の生活費だ。丸1年農作業をしても、1年生きていけるほど手元に残らない」(農民)


農民も手をこまねいているだけではない。糧穀販売所は、買い取るコメの質にこだわらないため、農民は乾燥させていないコメや、石の混じったコメを差し出す。糧穀販売所は市場より安くコメを売っているが、このように質が悪いため、消費者の間では「糧穀販売所のコメは安いが、その分質が悪い。食べられないものを取り除けば、結局は市場でコメを買うのと変わらない」との不満の声が上がっている。


また、市場と違って糧穀販売所ではツケがきかないため、貧しい人々は従来どおり、市場でツケでコメを買っている。



糧穀販売所の問題はそれだけではない。在庫が足りず、いつでもコメが買えるわけではないのだ。そのため、米価全体の安定には寄与していないとも指摘されている。


北朝鮮農業が専門の韓国・グッドファーマーズのチョ・チュンヒ所長は、「農業生産量の不足と買い入れの問題で、現在、糧穀販売所の穀物販売は非定期的で量も極めて少ない」とし、運営に改善が見られなければ米価に影響を及ぼすことはないと見ている。


国も、そのような実態を把握はしているようだ。


金徳訓(キム・ドックン)内閣総理が、黄海北道(ファンヘブクト)、黄海南道(ファンヘナムド)、南浦(ナムポ)、平安北道(ピョンアンブクト)の農業関連の機関を矢継ぎ早に訪れ、その一環として糧穀販売所の運営実態について視察も行い、必要な対策を講じたと、朝鮮労働党機関紙・労働新聞が報じている。


国から必要な肥料や営農資材が支給されないため、借金をして農作業を行っている農民たち。その返済は、秋の収穫後の分配で行われるが、国にコメを売れば損をするのが明らかなのに、積極的に売ろうとする「愛国農民」などさほどいないだろう。

デイリーNKジャパン

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