「米朝首脳会談」実現させるベトナムの秘めた思惑

2月26日(火)6時8分 JBpress

1回目の米朝首脳会談が行われたシンガポール・セントーサ島のカペラホテルで、手を振るドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(2018年6月12日撮影)。(c)SAUL LOEB / AFP〔AFPBB News〕

(右田早希:ジャーナリスト)

 トランプ大統領と金正恩委員長の2回目の米朝首脳会談が、今週2月27日と28日に迫っている。今回の開催場所は、ベトナムの首都ハノイである。

 なぜ開催場所がハノイに決まったのか、また主催するベトナムにはどんな思惑があるのか。ベトナム政府関係者に、緊急インタビューを行った。


ベトナムは北朝鮮にとって東南アジア最大の友好国

——前回、昨年6月の米朝首脳会談は、シンガポールで開かれましたが、今度はハノイ。ベトナム政府としては、水面下でどのような動きをしていたのですか?

「昨年のシンガポールでの米朝首脳会談は、大成功を収めました。会談そのものもそうですが、主催したシンガポールにとっては、1965年の建国以来、最大規模のイベントとなったのです。米朝の政府関係者はもとより、世界各地から集まったジャーナリストは総勢3000人に及び、30億ドルもの経済効果をもたらしました。あの後、世界からの観光客も急増したと聞いています。あるシンガポール政府の人は、『これまで欧米の旅行サイトでは、シンガポールはあたかもマレーシアの植民地のような表記になっていたが、あの会談の後、ようやく独立国と認められた』と笑っていました。

 そうした話を、昨年ASEAN(東南アジア諸国連合)議長国だったシンガポールの関係者たちから聞き、次回の米朝首脳会談の候補先として、同じASEANの仲間であるベトナムを推してほしいとお願いしたのです。

 同時に、アメリカと北朝鮮に対しても、強い働きかけを行いました。2017年11月にベトナム中部のダナンでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を実施しており、トランプ大統領にもベトナムを気に入ってもらっています。

 一方の北朝鮮とは、1950年1月に国交を樹立しており、ベトナム、中国、北朝鮮、ラオスというアジアの社会主義国の『血盟関係』にあります。金日成主席は1958年と1964年に訪越し、ホーチミン主席も1957年に北朝鮮を訪問しています。現在でも、東南アジアにおいてベトナムは、北朝鮮にとって最大の友好国で、ハノイの中心部には、東南アジアで最大規模の北朝鮮大使館があります。

 そうしたことから、アメリカと北朝鮮に対して、強い働きかけをおこなったのです。両国からよい感触が伝わってきたのは、年明けになってからでした」


ベトナムの理想は米中等距離外交

——経済効果の他にも、トランプ大統領と金正恩委員長をハノイに招くという外交的効果は大きいのではないですか。

「その通りです。北朝鮮には、国連制裁に抵触しない範囲内で、経済援助を行う予定です。

 わが国が最も力を入れているのが、トランプ大統領の訪越です。かつて1年半という短期間に、アメリカ大統領が2度もベトナムを訪問してくれたことはありません。

 周知のように、ベトナム戦争は1975年に、われわれがサイゴン(現ホーチミン)を陥落させ、アメリカを駆逐して終結しましたが、アメリカとの国交を回復したのは、それから20年後の1995年です。わが国は1986年から、中国を見習ってドイモイ(刷新)政策を始めましたが、やはりアメリカと国交がないと、どうにも国が発展していかなかったのです。

 21世紀に入ると、同じ社会主義国で国境を接する中国が、ベトナムにとって大きな脅威になってきました。わが国は長年、中国の属国でしたが、ベトナム人は伝統的に、激しい反中感情を持っています。その大国・中国を牽制するには、どうしてもアメリカの力を借りる必要があるのです。

 一例を挙げれば、国交回復を果たしたのはクリントン大統領でしたが、中国に強烈なインパクトを与えたのはヒラリー・クリントン国務長官です。2010年7月にハノイで開かれたARF(ASEAN地域フォーラム)に出席し、アメリカとASEANが結束して、南シナ海での中国の脅威に対抗していこうという主旨の演説をしたのです。この日を境に、空気が一変しました。それまでベトナムは、アメリカに対して、ベトナム戦争から続く拒否感がありましたが、その後はアメリカ軍との交流が始まったのです」

——今回、トランプ大統領がハノイ入りし、ベトナムとどのような取り決めを行うのですか?

「グエン・フー・チョン書記長(国家主席)からトランプ大統領に、アメリカ軍にもっと頻繁かつ大規模な編成を組んで南シナ海に出てきてほしいと要請します。そのことは、トランプ大統領も望んでいると聞いています。越米間の軍事交流を、もっと盛んにしたい。

 2017年11月にダナンAPECを成功させた後、翌2018年3月に、アメリカ海軍の空母カールビンソンが、ダナンに寄港しました。ベトナム戦争の激戦地に、ベトナム戦争後、初めてアメリカの空母が寄港したのです。すべては中国に対抗するためで、おそらく誰よりも驚いたのが中国だったことでしょう。

 経済的にも、周知のようにトランプ政権は、中国と貿易戦争の真っ最中ですが、もっとベトナムを活用してほしいと、トランプ大統領に訴えます。アメリカ企業は中国を脱出し、ベトナムに工場を移転すれば、アメリカへ製品を輸出する際にも追加関税はかからないし、ベトナムの物価や人件費は中国よりも安いので、コストも安上がりです。実際、このところベトナムからアメリカ向け繊維製品の輸出が急増しています。

 もっとも、トランプ大統領としても、わざわざベトナムに足を運ぶことによって、中国を牽制するという意味合いがあると思います。わずか数年前まで、ベトナム、北朝鮮、ミャンマーは、まるで中国の属国のような状態でした。それが2011年10月に、クリントン国務長官がミャンマーを訪問し、ミャンマーを親米国に変えた。今回は、ベトナムと北朝鮮を̪親米国に変えようというわけで、それはベトナムにとっても歓迎すべきことです。そうかといって、中国と敵対するといことではなくて、ベトナムの理想は、米中両大国との等距離外交です」


米朝首脳会の実現で中国を牽制

——他にも、今回の米朝首脳会談で、ベトナム側のメリットはありますか?

「グエン・フー・チョン書記長は、チャン・ダイ・クアン国家主席が昨年9月に急逝したことを受けて、国家主席も兼任しています。今回の米朝首脳会談を成功裏に終えた後、グエン政権の求心力が強まることは間違いありません。ベトナムは、まもなく人口1億人を超える大国となるので、政権の安定は何より重要です。

 またグエン書記長は、トランプ大統領と金正恩委員長をもてなす一連の行事が終わった翌日から、ラオスを訪問します。ラオスも同じ社会主義の盟友ですが、新たなベトナムとラオスの関係を構築するのです。ラオスも、中国に侵食されて苦悩しているのです。そこで、トランプ大統領の後ろ盾を得たグエン書記長がラオスを訪問することは、ベトナムのラオスに対する立場を格段に引き上げる効果があります。

 ともあれ、今回の米朝首脳会談を主催するベトナムの最大の効果は、中国への牽制です」

 以上である。ベトナムの立場から今回の米朝首脳会談を眺めてみるのも興味深い。

筆者:右田 早希

JBpress

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