国家が総出で「中古車密輸」を行う北朝鮮の企み

2025年3月2日(日)5時36分 デイリーNKジャパン

北朝鮮には、世にも不思議な「国家密輸」というものが存在する。文字通り、国が主導して行い密輸で、安全部(警察)、保衛部(秘密警察)、税関や貿易局の職員、警備に当たる軍人が立ち会いのもとで行われる。


相手国である中国が輸出入を許可しないものであっても、この方式なら問題なく行える。密輸と言うと核兵器やミサイルに関連するものを想起しがちだが、実際に北朝鮮が輸入するものは肥料や農薬、建築資材などと言った一般的なものだ。


コロナ鎖国を経て昨年8月末から再開された国家密輸だが、最近非常に多く密輸されているのは乗用車だ。その内情を両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


密輸を直接行うのは、国営の貿易会社だ。情報筋は具体的な台数には触れていないが、その9割が中古車だ。新車は値が張るので、お手頃価格の中古車が人気というわけだ。


両江道の道庁所在地の恵山(ヘサン)では、車種は不明ながら1台8万3000元(約170万円)で取り引きされている。昨年とほとんど価格に変わりないが、1台あたりの儲けは5000元(約10万2800円)〜7000元(約14万4000円)だったのが、1万元(約20万6000円)〜1万2000元(約24万6800円)に増えている。


これは、「ワック」と呼ばれる国が発行する貿易許可証の代金が下がったことによる。昨年は3万元(約61万6900円)だったが、今年は2万5000元(約51万4000円)まで下げられたのだ。その理由について、情報筋は次のように説明した。


「国がワックの費用を下げたのは、単に負担を軽減するための措置ではなく、車の密輸をより積極的に行い、外貨を確保して儲けようとする意図があるからだ」


コロナ前まで、密輸と言えば、北朝鮮と中国の貿易業者の間で行われていた。これに伴うワイロを除いては、国庫には一銭も入らなかったわけだが、国が主導する国家密輸にすると、国が儲かることになる。同時に、何でもかんでも中国からの輸入品に頼ってしまう「輸入病」を抑制し、必要なものだけを輸入できるようにコントロールできるようになった。


金正恩政権は、コロナ禍をきっかけに、すべての貿易を国が司る「国家唯一貿易体制」の再確立を図った。ここに密輸も含まれていたのだ。


密輸をしようにも資金が必要だが、投資しているのはトンジュと呼ばれるニューリッチだ。国が堂々と行う密輸に投資して儲けた方が、個人間の密輸というリスキーなビジネスよりは楽なわけで、投資家が次々に集まってくる。その中には、中国や韓国からの送金を仲介する送金ブローカー業を営んでいた者も少なくない。


「中国キャリアの携帯電話への取り締まりが非常に強化され、送金ブローカーの中には車の密輸に商売替えをする者が現れている。個人密輸とは異なり、国家密輸は貿易会社と利益を分けなければならず、儲けは少ないが、取り締まられるリスクがなく、比較的安全だ」(情報筋)



儲け話の少ない北朝鮮で、安全に儲けられる車の密輸に飛びつかない理由がないのだ。


デイリーNKジャパン

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