トランプ勝利会見に寄り添うクリスティー知事の深謀とは

3月3日(木)20時0分 ニューズウィーク日本版

 全米11州の予備選・党員集会が集中した「スーパーチューズデー」の結果は、7州を制した共和党ドナルド・トランプ候補の「大勝利」と言って良いでしょう。トランプは、これまでの予備選のように大人数の支持者を集めて行う「勝利集会」ではなく、「記者会見」を開きました。

 場所は、フロリダ州パームビーチにある高級会員制リゾート「マール・ア・ラーゴ」で、1985年以来トランプ一族が所有している豪華な建物です。

 会見場には、クラシックな内装に豪華なシャンデリアが目立つ金ピカの部屋が使われ、正面には演壇がセットされ、背後には星条旗がズラリと並べられていました。そこにトランプの「番記者」など報道関係者100人程度と、各局の中継カメラが招かれているという趣向です。

 ご本人は、静かな環境で大統領のような「風格」を見せたかったのでしょう。ですが、決して趣味が良いとは言えない部屋の時代がかった雰囲気からして、大統領風の記者会見と洒落込んだところで、19世紀の「裏取引と裏切り」にまみれた時代を彷彿とさせる——そんな印象は否定できませんでした。

【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」

 この「勝利会見」の冒頭に登場したのが、ニュージャージー州のクリス・クリスティー知事です。「それでは『次期合衆国大統領』のドナルド・トランプ氏です」と紹介役を務めた後は、会見中のトランプの背後にずっと寄り添っていました。その顔は全国中継のテレビにずっと映り続けていたのですが、終始「緊張した硬い表情」をしていたのが印象的でした。

 クリスティー知事は、スーパーチューズデー直前の先月26日になって突然「トランプ支持」を打ち出しています。そのすぐ前までは、自分も大統領候補レースに参戦していました。ですが、ルビオ候補に対して「同じことを4回も言うロボット」という「いじめトーク」を仕掛けて足を引っ張るのに成功したついでに、自分のイメージも「いじめキャラ」というレッテルを貼られてニューハンプシャー州の予備選で沈没したばかりです。その変わり身の早さがヒンシュクを買っています。

 あげくにトランプの「勝利会見」にずっと寄り添ったことで、クリスティー知事は全国的な「悪役」にされています。特に地元ニュージャージー州周辺では、有力な地方紙6紙が一斉に知事に対して「辞任要求」を突き付ける事態になっています。

 ではなぜクリスティーは、「プロ政治家の先陣をきって」トランプ支持にまわったのでしょうか?

 その前に、この「クリスティーという人物が、大統領候補を支持する」ことにどんな意味があるのか、前例を検証する必要があると思います。

 前回、2012年の大統領選の経緯が良い例です。クリスティーは共和党政治家として、かなり早いうちからミット・ロムニー候補の支持を打ち出していました。選挙戦の早期には、二人三脚の遊説をやってロムニー陣営に協力していたのです。

 しかし「妙な事件」が2つ起こりました。1つは、その年の8月末にフロリダ州タンパで開催された共和党大会で「基調演説」をまかされた時のことです。それまでの選挙戦への貢献から見て、この大役を振られたのは、そんなに不自然ではありませんでした。ですが、演説の内容のほとんどは「極貧の中から弁護士、そして政治家に成り上がってきた自分の自慢話」で、「ロムニーの応援」は少しだけ。その結果、共和党の中では「何だアイツは?」という批判が渦巻いたのです。

 2つ目はもっと重大な「事件」です。この2012年の大統領選投票日の直前に、大型ハリケーン「サンディ」の直撃で地元のニュージャージーが大きな被害を被った際、支援のためにオバマ大統領が駆けつけたのでした。知事は、そのオバマを賞賛して2人でガッチリと握手をして「超党派で復興に努力する」というイメージを演出したのです。この行動は地元では大絶賛されましたが、ロムニー陣営では「あのクリスティーの裏切りが大きなダメージになった」という「恨み節」が続くことになりました。

 要するに、この人に取って「大統領候補として誰かを支持する」のは、そういうことなのです。あくまで「自分の戦略」で動いているだけなのです。

 それでは今回、クリスティーは「何を考えている」のでしょうか?

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 一説には「トランプの副大統領候補狙い」と言われています。ですが、一緒に戦って負ければ知事としての権威は失墜しますし、4年後の大統領選への可能性も少なくなってしまいます。ですから、これはかなり危険を伴います。

 副大統領として勝った後、トランプにスキャンダル等が出て罷免された場合には、自動的に自分が大統領に昇格できるという可能性に賭けているという見方もできますが、仮に大統領罷免という事態になれば、副大統領としての政治的ダメージも免れません。

 ニクソンの先例も考えておく必要があります。あの時のアグニュー副大統領更迭劇はスキャンダルへの関与という事情があったという要素もありますが、つまり大統領をクビにする場合は、その大統領が選んだのでは「ない」第三者的な人物を次期大統領含みの副大統領に変えておくという「先例」があるわけです。ですから、トランプがクビになった時の自動昇格に期待するのは甘いと言わざるを得ません。

 クリスティーの考えていることは、もっと違うところにあるのでしょう。それは、「トランプ現象」を引き起こしている「現状への不満」を抱えた中高年保守層の票を、しっかり取り込んでおこうという深謀遠慮です。右派ポピュリストとしての人心掌握術としては、ツボにはまれば良くも悪くも才能を発揮する人物ですし、そうして4年後を狙う作戦と見ておいた方が筋が通ります。

 もしかすると、ここでトランプを支持して、トランプ支持者に好印象を与えておけば、実際の選挙でヒラリー政権の誕生を許しても、4年後には「チャンス」がある——そんな計算をしているのかもしれません。この政治家にとっては、「4年後にヒラリー政権を倒して本格保守政権を作り、8年を走り切る」というのが、最大の野望シナリオではないかと思えます。

 全国中継で延々と映し出された「硬い表情」のウラには深い計算がありそうです。

ニューズウィーク日本版

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