韓国、波乱と不安の「EV元年」

3月4日(木)6時0分 JBpress

 2021年2月23日、韓国の現代自動車は、新型電気自動車(EV)「アイオニック5」をユーチューブなどを通して公開した。

 同社が初めて開発したEV専用プラットフォーム(共通車台)を使った世界戦略車だ。

 韓国の自動車、バッテリー業界は、2021年を「EV元年」と期待しているが、相次ぐ火災やバッテリー業界内での深刻な対立など波乱と不安が渦巻いている。

「アイオニック5」は現代自動車が1970年代〜80年代にガソリン車で世界市場にデビューした際の小型車「ポニー」をモチーフにしたデザインだ。

 今後、現代自動車とグループ会社の起亜のために開発したEV専用プラットフォーム「E-GMP」(エレクトリック・グローバル・モジュール・プラットフォーム)を採用した。


初日で2万台以上受注

 競合車種に比べて多少大きなサイズで、超高速充電バッテリーを搭載した。

 フル充電の際の走行距離を410〜430キロと公表している。同社は「5分間の急速充電で最大100キロメートルの走行が可能だという。

 出荷時期は4月だが、現代自動車によると、韓国内で予約注文を開始した2月25日だけで2万3760台の申し込みがあった。

 現代自動車の新車予約としては「初日の申し込みが過去最高台数だった」という。

 2021年の韓国内での販売目標が2万6500台だったことから見れば、1日でほぼこの台数を達成したことになる。

「EV元年」

 韓国の自動車、バッテリー業界では、2021年に対する期待が強い。その牽引役が、韓国で最大のシェアを握る現代自動車が発売するこの「アイオニック5」だ。

 韓国では、2000年代に入ってディーゼル車が人気になった。欧州メーカーが低価格攻勢をかけ、これに韓国メーカーが対抗して大きな伸びが続いた。

 ところが、深刻な大気汚染などで環境問題への関心が高まり、「親環境車」へのニーズが急速に高まってきた。

 2020年の韓国の自動車市場では2つの変化が起きた。

 一つは、ハイブリッド車の人気だ。国産車、輸入車ともに販売を大きく伸ばした。ハイブリッド車の販売台数は16万1450台で前年比63.4%増だった。プラグインハイブリッド車も1万3235台で同2.5倍となった。

 もう一つの変化が、ハイブリッド車ほどではないが、EVの販売も大きく伸びたことだ。2020年の販売は4万6677台で前年比33.5%だった。


韓国市場でテスラが好調

 この中で大きく販売を伸ばしたのが米テスラだった。韓国内での販売が2020年には1万1826台で前年比4.9倍となった。

 現代自動車グループは必死だった。

 2000年代以降、世界市場で急速に販売を伸ばしたが、「親環境車」への対応は遅れていた。

 特にハイブリッド車へのシフトが遅れたとの評価が多い。EVでも韓国市場でテスラに先を越された。

「EVでは出遅れない」——2020年10月に父親から会長職を継承した鄭義宣(チョン・ウィソン=1970年生)氏にとって「アイオニック5」は大きな意味を持つのだ。

 欧州での受注も順調で、現代自動車は、前向きな話題提供に必死だ。毎日のように韓国メディアに「アイオニック5」の記事が躍っている。

 そんな現代自動車の意欲的な新車発表だが、出鼻をくじくような動きも続出している。

「アイオニック5」は急遽価格引き下げに追い込まれた——韓国メディアはこう報じている。

 まだ最終的な価格は決まっていないが、ソウルに居住する消費者が「アイオニック5」のスタンダードモデルを購入する場合、価格は3000万ウォン(1円=11ウォン)台になるとみられる。

 業界内では1か月ほど前の見通しよりかなり安くなったとの見方が多い。

 というのも、現代自動車の公開直前に、まさに同社が追撃しようとしていたテスラがの6000万〜7000万ウォンとみられていた「モデルY」の価格帯を5999万ウォンと発表したのだ。


3000万ウォン台、利益はいくら出るの?

 韓国政府は、EVの普及のための補助金について6000万〜9000万ウォンの車種については半額に引き下げると発表した。

 韓国紙デスクは「政府はEV普及を後押しするために意欲的な補助金政策を導入したが、2020年は最大の受益企業がテスラだった。テスラのための補助金という批判が出て制度を変えたようだ」と説明する。

 このあおりでテスラは「6000万ウォン未満」という思い切った価格設定にした。

 テスラの価格を意識しないわけにはいかない。現代自動車の「アイオニック5」もこの影響を受けたという見方が多い。

「アイオニック5」のスタンダード型は、5000万ウォン台前半になるという。国と自治体の補助金を合わせれば、1500万ウォン前後の補助金が付き、実売価格は3000万ウォン台になる見通しだ。

 かなり大胆な価格設定で、消費者は歓迎しているが、業界では「これで利益がいくら出るのか?」という声がすでに上がっている。


頭が痛い「火災問題」

 もっと頭が痛いのが、「火災問題」だ。

 現代自動車がこれまでに販売したクロスオーバーSUV「コナ」などのEVで、2018年以降火災が発生していた。国内で届け出があっただけで15件以上に達しているのだ。

 現代自動車は2月24日、「コナ」など2万6000台以上をリコールすると発表した。その費用は1兆ウォン以上に達するとみられる。

 急速充電中に火災が起きた。フル充電したら火災が起きた…様々な懸念が寄せられているが、問題なのが、火災原因がまだ不透明なことだ。

 現代自動車は2020年に一度リコールを実施していた。しかし、リコールを受けた車両で再び火災が発生していた。

 韓国の国土交通部は、バッテリーセルに問題があったとの「暫定調査結果」を出した。

 これを受けての今回のリコールだが、では問題はバッテリーの品質にあったのか、バッテリーを搭載する際の問題だったのか、他の要因なのかはまだ分かっていない。

 バッテリーを供給したのは、LG化学だった。その後、LG化学は、バッテリー事業を分社し、今はLGエネルギーソリューションになったが、同社は「原因究明はまだ終わっていない」との立場だ。

 世界のバッテリー市場でトップシェアを争っているLGと韓国を代表する自動車メーカーの現代自動車。本来ならばがっちり手を組んで「EV元年」を切り拓きたいが、今後の動向によっては火災の責任を巡って争いになる恐れもある。


LGとSKがバッテリー特許を巡って激突

「EV元年」——韓国での期待が強いのは、現代車の販売高でなく、基幹部品であるバッテリー分野の世界市場で主導権を握り、「ポスト半導体」に育てたいという政府と産業界の野望があるからだ。

 火災問題は、巨額のリコール費用負担問題だけでなく、EV、さらに言えば、バッテリーの信頼性問題にかかわる問題できわめて深刻な問題だ。

 バッテリー事業は韓国の次の戦略成長分野だ。有望分野となると競争は不可避だが、韓国のバッテリー企業間で、泥沼ともいえる紛争も続いている。

 自動車用バッテリー市場で世界トップシェアを争うLGエネルギーソリューションと、SKイノベーションの特許紛争だ。

 後発のSKがLG出身者を次々と採用し、知的財産権の侵害もあった。LGはこう主張する。

 70人以上がLGからSKに転じたといわれる。SKは特許侵害を全面的に否定したが、米ITC(米国際貿易委員会)が2021年2月初めにLGの主張を大筋で認め、SK製品の米国への輸入禁止措置を出した。

 両社は和解に向けて動き始めるが、韓国メディアはLGが2兆〜3兆ウォンを要求すると報じており、韓国の財閥同士の大型紛争になっている。

 SKは米国で大規模工場の建設を計画しているが、部品などの輸入ができないと大きな影響を受けかねない。

 両社の交渉の成り行き次第では、SKのバッテリー事業は大打撃を受けかねない。

 現代自動車グループのEVを世界市場で浸透させ、さらにバッテリーなど関連業界も育成する——こんな構想を担って登場する「アイオニック5」だが、充電設備などインフラ整備、さらに世界的な車載用半導体不足など、他の課題も多い。

 年明け早々「アップルカー」の協力先候補として一時注目を集めた現代自動車は、今度は、独自開発車で波乱を突破してEVメジャー浮上を狙っている。

筆者:玉置 直司

JBpress

「韓国」をもっと詳しく

「韓国」のニュース

「韓国」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ