オバマケア廃止・代替案のあからさまな低所得層差別

3月8日(水)19時13分 ニューズウィーク日本版

<延期に延期を重ねてようやく公表されたオバマケアの廃止・代替案。トランプの選挙公約の柱だった。これによってアメリカ人の暮らしやアメリカ社会はどう変わるのか。その驚くべき中身を専門家にわかりやすく解説してもらった>

米下院共和党は火曜、トランプ政権が廃止を公約していたオバマケア(医療保険制度改革=ACA)の廃止・代替案をやっと公表した。所得に応じた補助金の支払いを縮小するなど、多くのアメリカ人に悪影響をもたらす恐れがある。

代替案で導入或いは廃止される具体的な中身について、米ジョンズ・ホプキンズ大学の公衆衛生学大学院のジェラルド・アンダーソン教授に聞いた。

──いま雇用主を通じて医療保険に加入している正社員は、トランプ政権の代替案でどんな影響を受けるのか。

ほとんど影響はない。オバマケアを導入したときも、正社員を対象にした医療保険の仕組みは大して変わらなかった。「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト(AHCA)」と呼ばれる今回の代替案も、その点では大差ない。オバマケアでは健康な加入者にいくらか特典があった。それが代替案で継続されるかは不透明だが、全体的に見ると影響はないと言える。

──オバマケアの医療保険取引所を通じ、個人で医療保険に加入していた人には、どんな影響があるのか。

重大な影響があるだろう。既存の保険加入者に対する補助金は縮小される。とくに低所得者向けの縮小幅が大きい。私の推計では、代替案で最もひどい打撃を被るのは低所得者だ。現行制度は、所得を基準に補助金を支給している。収入が多ければ多いほど、受け取る補助金が減る仕組みだ。だが代替案は所得ではなく、年齢を基準に補助金の額が決まる。高齢になるほど補助金は増えるが、所得は高くても低くても変わらない。

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所得の「逆」再分配

医療保険料は非常に高額だ。多くのアメリカ人は保険料を支払うために多くの補助金を必要とする。貧困層には保険料を支払うお金がないから、無保険のまま置き去りにされる。逆に中高所得層であれば保険料も払える上に、高齢になるほど受け取る補助金も多くなる。

──低所得層に厳しそうだ。

おそらく。法案を読む限りはそうだ。代替案の本質は、一番貧しい層からお金を取り上げて、金持ちに還元するということだ。

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──このような方針転換を正当化するどんな理屈があるのだろう。

個人の支払能力の違いに関わらず、皆が等しく同じだけの給付を享受すべきという思想がベースだろう。

──オバマケアが支給した補助金と代替案が提案する税額控除とでは、どう違うのか。

オバマケアの補助金の代わりになるのが、代替案が示す税額控除だ。ただしそれぞれの性質は異なる。オバマケアの補助金は保険購入と同時に支給されたため、そのまま保険料に充当することができた。税額控除の場合は確定申告をして還付金を受け取らなければならず、それは保険購入から最長1年以上も先になる。保険加入時には自力で支払うしかない。たとえ1年後に還付金を受け取れるとしても、ほとんどのアメリカ人は、年間5000ドル〜1万ドルになる保険料の持ち合わせがない。

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──税額控除によって、保険加入者の所得税率は今より低くなるのか。所得の違いによって影響は異なるか。

高い税率が適用されている高所得層の場合は、税額控除のおかげで低税率が適用されるようになる可能性が高い。だがもともと税率が低い低所得層には今より下がる余地がない。

低所得層にとっては2重の打撃だ。オバマケアの補助金は低所得層になるほど手厚かったが、代替案では違う。しかも保険料は、1年後に還付金が支払われるまで自己負担しなければならない。

──オバマケアには医療保険への加入を義務付ける規定があり、加入しなければ個人に罰金が科された。代替案は保険加入を希望しない人々に、どう対処するのか。

保険への加入義務は代替案にはない。本人が望まなければ保険に加入しなくていいようだ。

──医療保険に加入しないとどうなるのか。

健康な人は、無保険のリスクを取る可能性が高い。だが、もし無保険者が心臓発作になれば、誰も払えないような高額な医療費を全額請求される。同じ医療サービスでも、無保険者は保険加入者より莫大な医療費を抱える羽目になる。

保険会社にも悪影響

──保険加入の義務がなくなると、医療保険制度全体の運営にどう影響するのか。

保険制度は低リスクと高リスクの集団が両方加入して初めて成立する。健康な人だけ、或いは病気の人だけが加入すれば、保険が成り立たなくなる。

たいていは持病のある人ほど保険に加入するが、もしそんな加入者ばかりが増えて、健康な人が加入しなくなれば、保険会社は保険料を上げざるを得ない。健康な人の保険加入義務を取り除いてしまうと、保険会社は事業が立ち行かなくなる。

──さまざまな健康リスクの人が混在していることが、保険料上昇に対する「免疫」となるのだろうか。

その通りだ。

──個人加入義務の廃止は、保険会社には悪い知らせに思える。

保険会社はこの法案に不安を覚えるのではないだろうか。代替案は引き続き病人への保険適用を義務付けているが、健康な人への加入義務は撤廃している。保険会社から見れば、医療保険の加入者で病人ばかりが増えることになりかねない。そうなれば保険料を上げなければならないが、上げられなければ保険会社に損失が出る。

──代替案の保険継続規定はどうなっているのか。また、代替案ではこの問題はどう扱っているか。

オバマケアが画期的だったのは、既往症のある患者の保険加入を拒否できないことにした点だった。代替案も保険会社に同じ義務を課しているが、注意点が1つある。被保険者は継続的に保険に加入していなくてはならないということだ。



怪我や病気などで一時的に休職すると、雇用主を通じた給付を受け続けられないことがある。中断すると再加入時に前より保険料が上がることになる。この規定は人々に、保険を継続しようという気持ちにさせるだろう。

──今回の法案は、退職間近、あるいは最近退職したばかりの人にどのような影響を及ぼすのか。

64歳でまだ企業に勤めている人には影響はないだろう。しかし、既に退職したがメディケア(高齢者向け公的医療保険)の加入年齢(65歳)に達していない人は医療保険に加入しなくてはならない。

──代替案にはメディケアに関する変更点があるか。

今のところ書いていない。ドナルド・トランプ大統領は、メディケアには何の修正も加えないと公約している。しかし、ポール・ライアン米下院議長は、大幅な改革を行うと語った。現時点では、代替案はメディケアに触れていないが、将来もそのままかどうかはわからない。

──代替案で、高額所得者はどんな影響を受けるか?

オバマケアでは、高額所得者はメディケア(低所得者向け医療保険制度)税を多く払わなくてはいけなかった。それがメディケアの大きな収入源となっており、所得再分配に使われていた。しかし代替案にはメディケア税のようなものは含まれていない。

オバマケアの欠点は

──この代替案で得をする人、損をする人は誰か。

裕福で健康な人が最も得をする。さほど裕福ではなく持病があるという人は損だ。貧困層はおおむね、新たな制度の下で今より悪くなるだろう。

──オバマケアの問題は何だったのか。

保険取引所の制度設計が悪かったために、保険会社が徹底してしまった。そのため競争が期待したほど行われなかった。この点は変えなければいけない。

──保険取引所に参加している保険会社が今年から保険料を25%も上げたのはそのためか。

保険料の高騰には2つの理由があった。1つは競争の欠如。もう1つは、予想したほど健康な人が加入しなかったために、費用ばかりが増大してしまったことだ。

だが、代替案だとこの問題がさらに悪化する。健康な人はオバマケアのときより加入しなくなるからだ。


ジェシカ・ワプナー

ニューズウィーク日本版

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