トランプとの「お下劣舌戦」で撃沈したルビオ

3月9日(水)20時15分 ニューズウィーク日本版

 この今週8日に行われた予備選・党員集会は、民主党が2州、共和党でも4州だけしかない。今月1日の「スーパーチューズデー」そして、「クルーシャルチューズデー(正念場の火曜日)」と言われる来週15日と比べると、地味な位置付けだ。だが、前週の「スーパーチューズデー」後に情勢が変化しつつある中、日を追うごとにこの「3月8日」の意味合いも重要になっていた。

 まず民主党だが、ミシシッピ州ではヒラリー・クリントンが大差を付けて、一方のミシガン州では僅差でバーニー・サンダースが勝利した。だが、今回までの予備選は「代議員数配分方式」であり、2位でも代議員数の獲得は可能。そして南部の黒人票に強いヒラリー、格差に敏感な州でのサンダースという「得意分野」を反映した結果に「サプライズ」はなかった。結果として、依然としてヒラリーの優位は動いていない。メール問題でFBIがさらに強い姿勢に出るようなことさえなければ、代議員数で過半数を取る可能性は高い。

 ちなみに、この間には、中道派のマイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が「無所属での出馬を断念」したと伝えられている。自分が出て中道票が割れると、「トランプやクルーズを勝たせる可能性をむしろ高める」からという説明だが、要するに「民主党はヒラリーで決まりそう」だから「本選もヒラリーでいい」という判断と見るのが妥当だろう。

 問題は共和党だ。

【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」

 共和党の場合、来週15日の「クルーシャルチューズデー」、とりわけフロリダ州(代議員数99)とオハイオ州(同66)が「天王山」と言われている。何よりも、この両州以降、多くの州で予備選のルールが「勝者総取り」に変わることがあり、またこの両州の代議員数合計165という数字が、過半数ライン、アメリカのメディアの言う「マジックナンバー」の1237に到達する上で、非常に重要な意味を持つからだ。

 同時に、フロリダ州はマルコ・ルビオ候補(上院議員)の地盤であり、オハイオ州はジョン・ケーシック候補(同州の現役知事)の地盤である。この2つの州で、それぞれの「地元のヒーロー」を押しのけて、トランプが勝利し、合計で165の代議員を獲得すると、「マジックナンバー」への到達が「見えてくる」というのだ。

 反対に、この両州を落とすと、トランプは「1位だが過半数は取れない」状態のままで、7月18日にスタートする共和党大会(オハイオ州クリーブランで開催)に「なだれ込む」ことになる。過半数の勝者が出なければ、そこで噂されている代議員による「談合(フロア・ファイト)」が可能となるのだ。

 今週8日に行われた4州の共和党予備選・党員集会のうち、ミシシッピ、ミシガンは、この「3月15日」へ向けての勢いを測定する意味で、重要だった。

 結果としてトランプは、この2州を大差で制している。では、「3月15日」へ向けての体制は盤石かというと、必ずしもそうではない。

 問題は2位以下の動向にある。まず、一時期は「保守本流の希望」だと思われていたマルコ・ルビオ候補の支持が急落している。今月3日のテレビ討論でトランプから、何度も「リトル・マルコ」と蔑称で呼ばれたが、これに対する処理を誤ったのが決定的だ。トランプはルビオの童顔を揶揄したのだから、それに対する反撃は「重厚な威厳」を発言で示して圧倒する以外にはなかったはずだ。

 だがその反対に、ルビオは「トランプの手が小さい」という意味不明の「仕返し」を試みた。これに対してトランプは「いや、あっちは小さくないよ、ノープロブレムだ」という何とも卑猥な切り返しで笑いを取り、ルビオを「一緒に品格のない世界へ引きずり下ろし」た。

 この一連のやり取りは、チャレンジャーであるルビオには致命的だろう。大規模州であるミシガン、ミシシッピで、ともに一桁の4位(最下位)というのは、壊滅的と言って良い。ルビオにとっては「起死回生の決戦場」である次週のフロリダでの世論調査も低調な現在、共和党内からは「若く前途のある政治家ゆえに」撤退を促す動きが出ている。

 不調に陥ったルビオとは反対に、クルーズは着実に代議員数を稼いでいる。だが、クルーズにも問題が見えてきた。強硬な保守派として、福音派には絶対に強いクルーズだが、「福音派以外での支持」は今回の出口調査で11%と低い(Fox News)。これでは、今後のニューヨークやカリフォルニアなどの大票田ではまったく戦いにならないわけで、クルーズの前途にも暗雲が立ち込めてきた。

【参考記事】トランプの巧妙な選挙戦略、炎上ツイートと群がるメディア

 一方で浮上しているのが、ジョン・ケーシック候補だ。当初から、共和党の大統領候補の中では唯一の中道派として、そして良識ある「大人のトーク」を売りにして、完全な泡沫候補状態から一歩一歩支持を伸ばしてきたのだが、今回のミシガンでの2位という結果は大きい。次週の地元オハイオへ向けて勢いが付いたとも言えるし、仮に全国レベルの支持を伸ばしていけば、「トランプを上回る」のは不可能にしても「トランプを止める」存在として存在感を増す可能性も出てきている。

 そうは言っても、現時点ではトランプ旋風の勢いは止まらない。一方で、トランプが「品格を気にする」とか、「専門家のブレーンを集める」とか、「共和党の本流の言うことを聞く」という気配はまったくない。依然として共和党の本流としては、トランプを「統一候補にはしたくない」し、共和党の議員団の多くは「トランプを担いで同時選挙はやりたくない」と考えている状態も変わっていない。

 来週15日に控えた「クルーシャルチューズデー」、共和党予備選はオハイオとフロリダの戦いで大きなヤマ場を迎える。

<ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート>

≪筆者・冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」≫

冷泉彰彦(在米ジャーナリスト)

ニューズウィーク日本版

「トランプ」をもっと詳しく

「トランプ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ