恋する2人を引き裂く北朝鮮の身分制度に若者は絶望

2025年3月23日(日)5時27分 デイリーNKジャパン

ロミオとジュリエット、ローマの休日など、「身分の壁を乗り越えた恋愛」をテーマにした作品は昔から数多く存在する。だが、リアルな「身分不相応な結婚」は、そんなロマンチックなものではない。


例えば、カースト制度のあるインドでの結婚のうち、5.8%は「アウト・カースト・マリッジ」と呼ばれる、異なるカーストのカップルの結婚だ。


女性が身分の低い男性と結婚するのは一家の恥とされ、家族により「名誉殺人」の犠牲になることもある。インドの女性委員会の統計によると、2010年に発生した名誉殺人を含む名誉犯罪328件の多くが、異なるカーストの相手との結婚が原因だった。


皆が平等ということになっている北朝鮮だが、実際には身分制度が存在する。一般的に「成分」と呼ばれるものがそれだ。


日本の植民地下にあったころに先祖が何をしていたか、どのような家族の下にどう生まれたかなどで細かく分かれており、これが進学や兵役、就職などに際して一生ついてまわる。そればかりか、敵対階層とみなされれば、生きる権利すら奪われかねない。



だが、社会の変化に伴い、若者の間でこの「成分」についての意識が徐々に薄くなりつつある。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


いま、清津(チョンジン)市民の間で持ち切りの話題といえば、成分の違いから別れを余儀なくされたカップルの秘話だ。


「カップルの女性の親はかなりの金持ちだったが、男性の親は、相手の土台(身分)がよくないとの理由で結婚に激しく反対した。結局、成分の壁を超えられずに別れることになった」


二人の馴れ初めは清津工業技術大学だ。地元出身でこの大学に通っていた二人は、恋に落ちて未来を約束する間柄となった。


男性は卒業後に軍に入隊し、女性は、国から割り当てられた職場に就職せずに、市内でも指折りの大商人と呼ばれる母親のビジネスを手伝っていた。会うことは叶わなくとも、二人は長距離恋愛を続けていた。


数年ぶりに女性に会った男性は、女性に別れを切り出した。


「君の家柄のせいで、お父さんに反対されているんだ」


北朝鮮で社会的、政治的に出世するには、朝鮮労働党に入るのが唯一の道だ。成分のよい人は兵役を終える前に、上官から入党の推薦書を出してもらえる。見習い党員を経て、正式な党員と認められれば、幹部への道が開ける。


男性の父親は朝鮮労働党咸鏡北道委員会の幹部で、成分もかなりよい方に属する。そのため、父親は一家の社会的な地位を息子に譲り渡すために、成分のいい女性と結婚させることを考えていた。


しかし、女性の家の成分は極めて悪い。家族の中に、韓国軍に志願した「在日学徒義勇軍」の出身者がいたのだ。そのせいで、女性の兄は朝鮮労働党に入ることができなかった。金持ちではあっても、社会的地位は非常に低いのだ。


そんな経緯で二人は別れることとなった。この話を聞いた若者の中には、自分のことのように残念がる人もいれば、社会に対する絶望を口にした人もいた。


「そもそも出会わなかった方がよかったんだ」
「カネさえあればすべてが解決する世の中だが、カネでは解決できないこともある」
「恋愛が自由になったとは言うが、虚しい言葉に過ぎない」


北朝鮮では、見合い結婚が未だに一般的だが、その理由のひとつが成分にある。好いた惚れたで自由にくっつかれでもしたら、当の本人のみならず一族が不幸になってしまうのだ。


北朝鮮の身分制度の存在は、国連人種差別撤廃委員会の出した、「世系に基づく差別に関する一般的な性格を有する勧告29」に反する行為だ。しかし、北朝鮮は多くの脱北者の証言や資料があるにもかかわらず、その存在を頑なに否定し続けている。

デイリーNKジャパン

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