「沖ノ鳥島」周辺に出没する中国船、本当の狙いとは

3月28日(木)6時10分 JBpress

中国・厦門大学の海洋科学総合調査船「嘉庚号」(写真:海上保安庁)

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 3月23日、沖ノ鳥島沖165キロメートル付近海域、すなわち日本の排他的経済水域(EEZ)内で海洋調査活動を実施している中国の海洋科学調査船を、海上保安庁航空機が発見した。国連海洋法条約(日本も中国も共に加盟国である)によると、EEZ内での海洋調査活動には、管轄国へ事前に通告して同意を得ることが必要とされている。


海洋調査を繰り返す中国

 昨年(2018年)12月18日にも中国国家海洋局調査船が沖ノ鳥島周辺の日本EEZ内で日本側に無断で海洋調査を実施したため、日本政府は外交ルートを通じて中国側に抗議した。それに対して中国外交部は「沖ノ鳥島は国際海洋法条約による『島』としての要件を全く備えておらず、『沖ノ鳥島は日本領土である』という日本の主張は国際法上認められない」と反論した。

 要するに中国側の解釈によると、国際法上は「岩」にしかすぎない沖ノ鳥島の周辺200海里は日本のEEZにはあたらず、日本が科学的調査に対する許認可権など保持していない、よっていかなる国の船舶も自由に海洋調査活動ができる海域である、というわけだ。

 昨年12月に海洋調査を行ったのは国家海洋局の調査船、すなわち公船であったが、今回は厦門大学が船主である海洋科学総合調査船「嘉庚号」であった。2016年に進水した嘉庚号は、排水量およそ3500トン、航続距離1万海里で中国の深海・遠洋海洋科学調査のために設計された最先端レベルの海洋調査船である。流氷のない海域ならば世界中どこの海域でも航行していき海洋調査を実施できるという。


中国はなぜ沖ノ鳥島にこだわるのか?

 中国当局によれば、東シナ海の尖閣諸島および南シナ海の西沙諸島や南沙諸島などは中国の領土であり、他国による領有権の主張に対して真っ向から反駁している。しかし、それらの諸島と違って、沖ノ鳥島に関しては領有権を主張しているわけではない。

 現在までのところ、中国にとって沖ノ鳥島周辺海域が必要不可欠な漁場であったり、沖ノ鳥島周辺海域海底に石油や希少資源が豊富に埋蔵されているといったことは確認されていない。したがって中国当局としては、中国の領土や主権的海域を守るために沖ノ鳥島に対する日本の領有権を否定する必要性に迫られているわけではない。

 ところが、中国はこれまでもしばしば海洋調査船をこの海域に派遣している。そして今回は世界でも最先端レベルの海洋科学調査船を派遣した。

 このような中国の動きには2つの目的があるものと思われる。


米国に対抗するFONOPか

 第1の目的は、アメリカが断続的に実施している「公海航行自由原則維持のための作戦(FONOP)」を逆手に取った中国版FONOPの実施である。

 アメリカはFONOPとして、南沙諸島や西沙諸島の「中国が領土と主張する人工島」周辺に海軍駆逐艦や空軍爆撃機などを送り込んでいる。アメリカがFONOPを実施する根拠は次のようなものである。

 中国が建設を進める人工島は、国際法に照らすと、「低潮の時にのみ海面上に姿を表す暗礁」(ミスチーフ礁、スービ礁、ヒューズ礁)であったり、「高潮時にも海面上に姿を表しているものの単なる岩」(ファイアリークロス礁、クアテロン礁、ガベン礁、ジョンソン・サウス礁)にしか過ぎない。「領海の起点となる自然島」としての要件を満たさないにもかかわらず、それらの「暗礁」や「岩」の周辺海域を「中国の領海」と主張することは、国際海洋法秩序を踏みにじっている。そのような国際海洋法秩序を踏みにじる主張に対して国際法を遵守するように警告するのが、アメリカが世界中の海で実施しているFONOPであるというわけだ。

 そこで中国は沖ノ鳥島を俎上に挙げて対抗しようとしている。中国側からすると、次のような主張が成り立つ。

 沖ノ鳥島は、国際海洋法条約によれば「高潮時にも海面上に姿を表しているものの、単なる岩」にすぎない。そんな「岩」を「領海の起点としての島」と主張し周辺海域を領海そして排他的経済水域としている日本政府は、国際海洋法秩序を乱している。そこで国際法を遵守するように注意を喚起するために海洋調査船を派遣してFONOPを実施している、というわけである。

 そして、現に「沖ノ鳥島は『岩』と認定せざるを得ない」と主張しているアメリカの海洋法専門家も存在する。中国はそうした主張も念頭に入れながら、「南沙諸島において中国の領土である島々を『岩』と決めつけ、FONOPと称する軍事的威嚇を実施するのならば、同じく『岩』を『島』と主張している日本に対しても軍事的威嚇を実施してはどうか」とアメリカ政府に迫っているのだ。


潜水艦作戦のための情報収集

 第2の目的は、中国海軍、とりわけ潜水艦による西太平洋での作戦行動に資する海洋情報の収集である。実際に、沖ノ鳥島周辺海域で海洋調査活動をしていた嘉庚号は、海上保安庁側の呼びかけに応じて「海水温の調査を実施中」と回答してきたという。驚くべき正直な回答だ。

 海中を作戦行動する潜水艦にとって、作戦海域の海水温や海水塩分濃度などの海洋科学調査で得られたデータは、作戦の死命を制するほど貴重である。

 特に、中国海軍潜水艦(攻撃原潜ならびに攻撃AIP潜水艦)にとって沖ノ鳥島周辺海域は戦略的に極めて重要な海域である。というのは、中国海軍の主たる仮想敵であるアメリカ海軍の前進潜水艦基地が位置しているグアム島と、中国海軍潜水艦が東シナ海から西太平洋に進出する門のような宮古海峡とを結ぶ直線ルートのど真ん中に沖ノ鳥島が位置しているからである。

 沖ノ鳥島周辺は急激に深度を増す海底地形になっており、中国海軍潜水艦にとってもアメリカ海軍潜水艦にとっても格好の作戦海域である。ただし、日本から海洋科学調査データを手に入れることができるアメリカ海軍と違い、中国海軍は自らデータを手に入れなければならない。

 したがって、中国海軍潜水艦の作戦行動にとって十二分な海洋データが得られるまでは、今後も沖ノ鳥島周辺海域で中国海洋調査船が繰り返し海洋科学調査を続けることになるであろう。


常設仲裁裁判所の判断は避けたい日本

 中国海洋調査船が沖ノ鳥島周辺海域で海洋科学調査を実施することにより、潜水艦をはじめとする中国海軍による西太平洋での作戦能力が強化されることは、当然のことながら日本にとっても軍事的脅威が高まることを意味する。

 しかしながら、何らかの実力を行使して中国海洋調査船を“追い払う”ことは容易ではない。

 というのは、日本の公権力によって中国船に実力を行使した場合、中国側が「沖ノ鳥島は日本の領海の起点となる『島』とは認められない『岩』にすぎないにもかかわらず、公海上の中国船に対して妨害行為を働いた」とハーグ常設仲裁裁判所にねじ込む恐れがあるからだ。

 上記のように、国際海洋法専門家の間には「沖ノ鳥島は『岩』にすぎない」との見解が存在する。そのため、万が一にも常設仲裁裁判所で「岩」との判断が下されてしまった場合には、日本は公式に広大な排他的経済水域を失陥してしまうことになる。その場合、日本は中国当局と同様に常設仲裁裁判所の判断を正面切って無視し続けるのか。日本は厳しい選択を突きつけられることになるのだ。

筆者:北村 淳

JBpress

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