「北朝鮮にいる親からの仕送りで韓国留学」増加する留学型脱北

2018年3月30日(金)16時52分 デイリーNKジャパン


2016年7月、数学オリンピック参加のために訪れた香港で、韓国領事館に駆け込み亡命を求めた北朝鮮出身の天才高校生、リ・ジョンヨル君。中学校の数学教師をしている父親から「心配せずに行け」と送り出されたエピソードが紹介され、話題を集めた。


かつて、脱北と言えば餓死や迫害の危機から逃れるために、国境の川を越え、中国、第三国をさまよった末に命からがら韓国にたどり着くというものであった。そのリスクは変わらないが、動機は大きく変わった。子どもによりよい教育を受けさせる目的で、韓国に送り出す「留学型脱北」が最近のトレンドとなりつつある。


韓国の中央日報が紹介した脱北女性のAさんも、そんな流れを象徴するような人物だ。2016年に北朝鮮の両江道(リャンガンド)の自宅を出て韓国にたどり着いた彼女は現在、ソウル市内の大学に通っている。あか抜けたファッションや言葉遣いは、脱北者であることを微塵も感じさせない。


驚くべきは学費の調達方法だ。今も両江道に住む両親から、定期的に米ドルで仕送りしてもらっているというのだ。


韓国で働く脱北者は、収入の多くをブローカーを通じて北朝鮮に残してきた家族に仕送りするケースが多い。韓国の北韓人権情報センターが2014年12月に、韓国に住む脱北者400人を対象に調査した結果、59%が「北朝鮮に送金したことがある」と答えた。逆に「北朝鮮から送金を受け取ったことがある」と答えた人は1%にも満たなかったが、それから2年以上が経ち、状況が変わっている可能性がある。


Aさんは、北朝鮮にいる両親と携帯電話で連絡を取り合っているだけでなく、「昨年の夏、中国の東北地方に行って母と会ってきた」という。彼女は両親の職業について明かしていないが、かなりの有力者であることは想像に難くない。


世界北韓研究センターのアン・チャニル所長は「最近、北朝鮮からひとりで韓国にやって来る若者の中で『留学型脱北』が急増している」と述べた。北朝鮮の地方都市で労働党や権力機関の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)の親の間で、密かに「留学のために子どもを南朝鮮(韓国)に送り出す」ことが流行しているというのだ。


もちろん北朝鮮にも数多くの大学が存在する。しかし、学ぶのは体制礼賛思想が中心で、技術的なものは非常に遅れていたりする。また、大学からは薪、穀物、動物の革、人糞などの「課題」の提出を求められ、勉強そっちのけで物資集めに駆けずり回るはめになる。勉学に集中できる状況ではないのだ。さらに卒業後は、国から割り当てられた職場に通うことを強いられ、手にする月給は5000北朝鮮ウォン(約70円)が関の山だ。


一方、韓国の大学では最高指導者の言葉の一字一句を暗記する必要もなければ、人糞集めに駆り出されることもない。それ以前に、脱北者に対しては大学進学において様々な優遇措置が取られている。例えば、脱北者は特別選考で入学が可能で、一定の条件を満たせば国公立は全額、私立は半額の学費が免除される。


一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は2014年11月、対北朝鮮ビジネスを行ってる貿易商の話として、北朝鮮の最高学府の金日成総合大学に入るには少なくとも4〜5000ドル(約42万6000円〜53万3000円)のワイロが必要だと報じている。また、入学後も家庭教師や妊娠中絶手術など様々なアルバイトをしなければ、本代すら得られないのだ。


つまり、北にいたところで、大学に通うにはかなりの費用がかかるワケだ。親が「どうせ同じカネがかかるのならば、少し頑張って韓国に送り出したい」と思うのもごく当たり前の選択と言えよう。もちろん、子どもが脱北したことをもみ消すだけの権力や財力が必要なことは言うまでもない。


「未来への投資」は、子どものためだけに行われるわけではない。子どもが韓国で大学を出て成功を収めれば、自分たちも韓国に呼び寄せてもらい、日常生活のリスクが北朝鮮と比べると限りなく低いところででぬくぬくと暮らすという「バラ色の老後の生活設計」が可能になるのだ。

デイリーNKジャパン

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