米英にハシゴを外される日本主導「クアッド」の悲哀

3月31日(水)6時0分 JBpress

 バイデン大統領は3月26日のデラウェア州における記者会見で、英国のジョンソン首相と電話会談を実施し、中国の「一帯一路」政策に対抗すべく、民主主義国家で広域経済圏イニシアチブを構築することを提案したと語った。英ジョンソン政権は、これを完全に肯定してはいないものの、中国への対抗策について話し合ったことについては認めており、どうやら英米を中心とした国際戦略の構想づくりが始まるらしい。

 しかし、この報道に「えっ?」と疑問に感じた読者も少なくないのではないだろうか。中国の一帯一路政策への対応としては日本の提唱で始まった日米豪印戦略対話(通称、Quad:クアッド)があり、これに英国も参加するというのがこれまでの認識だったはずだからだ。

 当然、日本にもこの話は駐米大使館を通じて事前に連絡が来ていただろうが、この構想が米国のインド・太平洋戦略の中心になるとすると、日本は主導的役割から単なるメンバーの一国になってしまう。これをどう受け止めるべきなのだろうか。


米国が避けたい中国との軍事衝突

 バイデン政権は、トランプ政権時に米国が中国からの輸入品に課した関税を維持すると言いつつも、その中身については見直しを行っている。「アメリカ・ファースト」という経済的利益優先の外交から価値観外交に移行した以上、それはある意味で当然のことである。

 しかし、バイデン政権としては民主主義や自由主義という西側社会の価値観を維持するにしても、その行き過ぎによって中国と直接の軍事衝突が起きる事態は避けたいと考えているだろう。実際、北朝鮮によるミサイル発射に際して国連安保理の緊急招集を見送るなど、中国への配慮は随所に見て取れる。

 現時点では中国に対する戦闘行為を考えるための大義名分も、経済合理性または軍事合理性もないからだ。大義名分については、ウイグルにおけるジェノサイドを挙げる人もいるだろうが、それを理由に、グローバル戦略における覇権争いのための戦闘を始めるのはさすがに難しい。

 仮に、今の米中関係を「新冷戦」という言葉でまとめるならば、旧冷戦時のように最後の核ボタンは誰が押し、核戦争後に誰が生き残るかを考えつつ、局地戦で陣取り合戦をしてきた時代とは異なり、サイバー空間や宇宙空間を活用し、従来とは異なる場所を支配する戦争になるという点を忘れてはいけない。

 その時に米国および同盟国が受ける被害は核戦争以上に予想を立てにくい。サイバー戦や宇宙戦はいまだ検討の域を完全には出ていないからである。大義名分やメリットのことを考える前に、リスクを的確に予測できないという問題があるのだ。

 一方、日本において、好戦的、右寄り、または反中と言われる人達の中には、中国の台湾吸収の動きは既に始まっており、来年の北京冬季オリンピック後には軍事的占領を開始するとの声がある。米国が避けたくても、中国から仕掛けてくるという考え方だ。しかし、中国としても勝てる可能性が100%に近いわけでもない戦争を仕掛けることはないだろう。

 バイデン政権は、この中国の戦争回避行動を見極めながら、米国からの軍事行動を控えて、平和裏に交渉によっての解決を考えることになる。国際協調路線とはそのようなものである。


今さら聞けない「一帯一路」の中身

 バイデン大統領が反抗の狼煙を上げようとしている「一帯一路」構想とは、海と陸のシルクロードをつなげたものである。このルートは中国を出てまた中国に戻るので、一筆書きが可能だ。ここで改めて、それを大まかに見ておこう。

 まずは海のシルクロード(一路)から見ると、中国の厦門を出て、海南島の南を回り、ベトナムのハイフォン、そこからマラッカ海峡を抜けてスリランカ、インド東部のコルカタを経由し、ケニアに到着する。その後は、紅海を抜けてスエズ運河を越え、地中海に出る。地中海ではイタリア半島の西を北上してベネチアに抜ける。

 ここまででも、中国の債務の罠で話題になった国や、コロナ禍によって欧州では最初にロックダウンしたイタリアの街などが出てきて興味深い。

 そして、ベネチアから上陸して北西に向かい、フランスを抜けオランダで北海に到達する。そこから反転して東北に向かってドイツ、ポーランドなどを抜け、ロシアのモスクワまで北上した後に、再び反転南下してイスタンブールに到着する。ここからは、昔からの陸のシルクロードを東に進み、ウルムチから中国に入って最終地点は西安である。

 このルートには、ウイグル問題で中国への経済制裁を決議した欧州の国々が含まれている。

 実は、陸路(一帯)の方には6つのルートがある。一つ目は、ドイツからカスピ海の北を通って中国に入り厦門まで行くもの。ここは鉄道があり、2011年には年間17本の列車が走っていただけだったが、2018年には6300本まで増えている。これが一帯一路の大動脈だ。

 この列車の途中から、カスピ海の南を通ってイスタンブール(地中海)に抜けるものがあり、これが二つ目。また、一つ目のルートをさらに東進し、ウイグル辺りから南下して中国・パキスタン回廊を通ってインド洋に出るのが三つ目。そして、四川省を通りミャンマーを南下してシンガポール(太平洋)まで行くのが四つ目だ。

 海のシルクロードで経由したインドのコルカタから、バングラデシュの北を回ってミャンマー側に入ったところの港町ガバリビーチに出た後、四つ目のルートとミャンマーで交差してベトナムのハイフォンに抜けるのが五つ目。

 これらは、中国とインドの関係を感じさせるルートだが、中国とミャンマーとの関係が深い事もよくわかる。また、ロヒンギャがキャンプを張っているバングラデシュの周りを通る形になっていることは、現在のこの地域の地政学に沿っているとも言えるだろう。

 そして、一つ目の大動脈の北にあるもう一つの東西を結ぶルートが、バルト三国に近いベラルーシの街からロシア南部を東に進んで、モンゴル共和国を抜けハルピンに出るもので、これが六つ目である。もしかすると、ロシアと協調してシベリア鉄道そのものを第六のルートとする目的があるかもしれない。

 それぞれのルートの背景や、今どうなっているかといった詳細はここでは説明しないが、ここまでを見るだけでも、中国の一帯一路政策がたった10年でかなり進んできたことは一目瞭然だろう。同時に、ジェノサイド問題とは別に、ウイグルは中国としては欠かせない重要な地点の一つであることもわかる。

 トランプ政権が対中強硬政策を続けてきた結果もあって、中国が10年かけて築いてきた貿易ルートが今、反中の動きにより揺らいでいる。しかし、当然ながら中国も努力と汗の結晶を簡単に手放すはずはない。

 さて、冒頭のジョンソン首相との電話会談に戻ると、結局のところ、バイデン大統領の選択は、中国との間でグローバルな勝負をするパートナーとして選んだのが英国だったということである。


日本主導のインド・太平洋構想は終焉か

 日本が注目してきた3月15日〜17日の日米2+2は、東アジアの局地戦の議論であった。軍事であれ経済であれ、あくまで西太平洋の台湾より北の話である。

 一方、3月18日〜19日の米中アラスカ対話は、米中が覇権を競うためのグローバル戦略の話であり、簡単に言えば、ここには日本は関係ない。いや、バイデン政権としては、また長年にわたりワシントンなどで日中韓を研究してきたオーソドックスな地域の専門家であっても、新冷戦の新しい絵図を描く際に、日本を主たるメンバーとして加えるという発想は簡単には選択できないだろう。

 日本は、米中の間を揺れ動く国であり、また憲法9条を持つ国だからである。

 2006年に安倍首相が第一次政権で提唱したインド・太平洋構想は、2017年にフィリピンで局長級会合を開き、2019年には初の閣僚会議をニューヨークで実施し、2020年10月の東京会議で今後の定期会合を約束し合ったが、その先が明確ではない。

 同11月には自衛隊が米印の合同演習に参加する一方、オーストラリアの反中姿勢が鮮明になったものの、クアッドはNATO(北大西洋条約機構)のような軍事同盟ではない。仮に、これが軍事同盟になるならば、憲法9条を持つ日本の参加は容易ではなくなる。

 また、2020年後半から、EU離脱を意識した英国は日本とのFTA協議を開始し、TPP(環太平洋経済連携協定)とクアッドへの参加を表明した。空母クイーン・エリザベスを中心とする打撃群を太平洋に本格展開しつつある。こういった状況を見るに、クアッドは4カ国体制から5カ国体制になるような気配はある。だが、経済面の二つ(日英FTAとTPP)を除けば、具体的にはどう進むか全く見えていない。

 世界中を飛び回って地球儀を俯瞰する外交を標榜した安倍首相(第二次政権)と、その前半部分を支えた岸田外相は活発な地域間協力を進めたが、最近はコロナの影響もあって、少なくとも表向きには止まっている。むしろ、これらの国々から漏れ聞こえてくるのは、アジアの他の国を放置して米豪印に、そして英国にすり寄っているのではないかとの批判である。

 何よりも、安倍首相のインド・太平洋構想は、二国間協議を前提としたトランプ政権との関係で、日米、米豪、米印を基軸として進んだものであり、バイデン政権の国際協調路線とは趣を異にする。そもそも、選挙の好敵手であったトランプ大統領の政策をオセロゲームのようにひっくり返しているバイデン政権が、これを続ける理由も見当たらない。

 インド・太平洋構想は安倍首相が発案したものとして歴史には残るだろうが、これからの主役は米英なのである。


4月の訪米での“お土産”が何よりも重要

 菅政権誕生後、日本政府は尖閣諸島を米国が日米安保の対象とするかどうかを確認した他、イージス・アショア(陸上イージス)計画を断念する代わりに敵基地攻撃能力の獲得を求めるなど、米国から見れば、対中でのテンションを高めている。しかも、韓国との関係悪化も取り返しがつかないところに近づいており、米国にとって太平洋の西海岸は波高しとなってしまった。

 台湾との関係がいいのは救いだが、それは中国との関係悪化を前提としたものであり、台湾とて大局を見て動くだろうから、いつまでも日本贔屓を続けるかどうか未知数である。

 しかも、日本はサイバー戦も宇宙戦もできる戦力を持たず、自衛隊は世界で第5位の軍事力を持つと評価されているとは言え、単純には尖閣諸島での有事にも米軍の助けがなければ自力防衛は不可能である。軍事力が第5位ということではなく、中国に対抗できる軍事力はないということが重要なのだ。

 このように武器の購入などの経済的な支援において米国を喜ばせてきた日本だが、米国を国際協調路線に戻したバイデン政権としてはあまり過激なことを期待されても、日米だけにフォーカスした駆け引きをされても困るのである。

 少なくとも、米国には尖閣諸島問題などで日中間に戦闘行為が起こるようなリスクを冒したくないという本音がある。まずは4月に訪米する菅首相が、対面での最初の交渉相手としただけの貢献をどれだけ見せるかだろう。

 日本としては、ファイブ・アイズ(米・英・豪・カナダ・ニュージーランド)に加えてもらうかどうかよりも先に、インド・太平洋構想の中心から外されてしまうリスクを考えた手を打つべきだろう。

筆者:小川 博司

JBpress

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