ソウル・釜山市長選の野党圧勝に見る文政権の断末魔

4月8日(木)7時35分 JBpress

(田中 美蘭:韓国ライター)

 4月7日、文在寅政権と与党の先行きを占う存在として注目を浴びたソウルと釜山の市長選挙が決戦の日を迎えた。結果はソウル、釜山共に野党の圧勝劇。文政権への不信感が高まる中、選挙に対する国民の関心も高い選挙戦となった。文政権の今後の政権運営、そして来年の大統領選挙をも左右すると言われた今回の選挙を振り返る。

 ソウル市長選には、計12人が立候補したが、与党「共に民主党」所属で元MBCの女性アナウンサーだった朴映宣(パク・ヨンソン)氏と、野党「国民の力」所属の呉世勲(オ・セフン)氏の事実上の一騎打ちとなった。4月1日の世論調査では、呉氏の支持率が57.5%だったのに対し、朴氏は36.0%と呉氏が大きくリード。一方の釜山市長選挙においても野党候補が優位に立ち、与党側の焦りはさらに色濃くなっていた。

 ソウル市長選挙は、2020年の朴元淳(パク・ウォンジュン)ソウル前市長のセクハラスキャンダルが引き金である。セクハラスキャンダルによって朴前市長が自殺、国民に衝撃を与えたのは記憶に新しい。

 ソウルは文在寅政権の影響を強く受けた地域である。文政権に次々と湧き上がる疑惑により国民の不信感は募る一方、特にソウルとその周辺地域では文政権下で過去に例を見ない不動産価格の高騰が続き、子育てやシングルの若年層には住宅の確保は死活問題となった。加えて、最近になって韓国土地住宅公社(LH)の職員による不正不動産投機疑惑が浮上、ソウルでは職員から逮捕者や自殺者を出している。この疑惑では、文大統領側近や文大統領自身にも疑惑の目が向けられた。

 2021年の大統領選挙の前哨戦とも目される2大都市の市長選挙公示前に疑惑が表面化したことは、スキャンダル続きだった文政権に追い打ちをかける形となった。文政権の支持率は3月22日に35%と政権発足後最低を記録。4月1日の調査ではさらに下落し32%にまで落ち込んでいた。文政権にとっては、まさに瀬戸際の崖っぷちに追い込まれた状態で迎えた市長選挙だったのだ。


ネットに飛び交った「ヤスクニパク」と揶揄する声

 選挙戦では終始優勢が伝えられていた呉氏は、2006年から11年までソウル市長を務めていた。今回、当選すれば2度目のソウル市長歴任で返り咲きとなる。弁護士から政治家に転身した呉氏は政界から距離をおき、弁護士に復帰をするなどしていた時期もあったが、2006年のソウル市長選挙で当選を果たした。

 2011年に「学校給食完全無償化」をめぐり、「完全ではなく低所得世帯など限定にすべきだ」と異議を唱えた呉氏は住民投票を実施し、投票が成立しなかった場合は市長の職を辞すると宣言した。最終的に住民投票の投票率が30%を下回り投票自体が不成立に。そして、公言通り市長を辞職する運びとなった。今回のソウル市長選挙の再出馬は呉氏にとっては任期を全うできなかったことへのリベンジでもあり、強い決意を持って臨むこととなった。

 本来であれば、与党候補で元アナウンサーという抜群の知名度などを考えれば、朴氏に有利な条件は揃っていた。しかし、文政権の求心力低迷に加えて、朴氏自身にもスキャンダルが発覚した。それは、夫が東京の一等地に高級マンションを所有していたというスキャンダルだ。届出の際の財産に関する申請も、実際の資産価値よりも低い価格を申告していたと指摘されている。

 さらに、その高級マンションの場所に世論が騒然となる。何と、あの靖国神社に隣接する物件であったのだ。文政権下で声高々に「No Japan」を呼びかけてきた人物が日本で不動産資産を平然と所有していたのであるから、国民が驚くのも無理はない。たちまちネットでは朴氏を「トウキョウパク(東京朴)」だの「ヤスクニパク(靖国朴)」と揶揄する呼び名が飛び交い始めた。

 2019年の「No Japan」の真っ只中、20代のある韓国人女性が「本当は日本が好きで旅行に行きたい。でも、今のこの雰囲気では正直、周りの目もあって行きにくい。こんなことをやっている国が恨めしい」とこっそり本音を漏らしていたことを思い出す。

 国民には「日本のものは買うな、行くな」と散々煽りながら、自身は東京の一等地にしれっと資産を持つとは、国民のことも日本のことも馬鹿にした呆れた行為である。

 4月4日に行われた選挙前最後の選挙討論には、表向きはにこやかに登場した朴氏であったが、討論は終始、呉氏に対する攻撃的な姿勢を崩さず、呉氏もこれに応戦する形となった。有権者からは「目くそ、鼻くそだ」「まるで食堂で酔っぱらい同士が喧嘩をしているような感じだ」など失笑が漏れていたが、それでも、呉氏に対する期待感や好感度が最後まで朴氏よりも高かったという印象だった。


人口減少が続く第2の都市釜山の苦境

 ソウルの陰に隠れてしまいがちな釜山ではあるが、こちらでも選挙戦は野党候補の朴亨ジュン(パク・ヒョンジュン)氏が与党候補の金栄春(キム・ヨンチュン)氏を序盤からリードし優位に選挙戦を進めてきた。

 釜山市は韓国第2の都市でありながら、ソウルの一極集中化が加速したことで人口の減少が止まらず、高齢化のスピードが韓国国内でも急速に進んでいるとされる。進学や就職による若者のソウルへの流出が止まらず、3月の新年度を前に地方大学の中でも釜山の大学の定員割れが深刻化していることも報じられた。

 今回の市長選挙では、与野党を含めた各候補共に釜山の再生や福祉、教育といった点を公約に掲げていたのが特徴的であった。

 そして、4月7日の投票日当日、2020年4月の総選挙時と比べて投票率の出だしがやや緩やかであることが伝えられた。韓国の選挙は通常平日の水曜日に実施され、大統領選挙や国会議員選挙の場合は公休日となる。しかし、今回は限られた都市のみでの選挙ということから通常と同じ扱いで行われたこと、事前投票の得票率が高かったことなどが緩やかな出だしにつながっていたものと見られる。

 だが、ソウル、釜山共に正午を回った頃から投票率が急速に伸び始め、夕方6時の投票率は50.6%(ソウル51.9%、釜山46.9%)、投票が締め切られ午後8時の最終的な投票率は55.8%(ソウル57.0%、釜山52.3%)まで上がった。特に、夕方は仕事帰りの有権者が駆け込みで訪れる姿が見られ、投票所には待機の列ができていた。事前投票の高投票率と合わせても、ソウル、釜山の両市民がいかに今回の選挙戦に関心を持っていたかがうかがえる。

 投票終了後の午後8時15分に発表された出口調査の結果ではソウルでは野党・呉氏が59%、与党・朴氏が38%、釜山は野党の朴氏が64%、与党の金氏が33%といずれも与党候補を大きく引き離し「圧勝」と呼ぶにふさわしい状況であった。そして、午後11時の時点で釜山市長は野党の朴亨ジュン氏が当確、ソウル市長も呉氏が順調に得票を伸ばし、当確を確実にした。


勝因の一つは野党候補の一本化

 韓国の政治情勢を見ると、現在の与党「共に民主党」は左派、野党の「国民の力」は右派という位置づけであり、これに中道野党の「国民の党」が加わっている形だ。ただ、ソウル市長選では、当初は「国民の党」の党首・安哲秀(アン・チョルス)氏が立候補の検討していた。安氏も文政権に対する批判を常々展開してきており、今回の市長選で勝利し来年の大統領選挙への起爆剤としたい考えだった。

 しかし、市長選告示直前に、「野党が勝つことが重要」として自身は立候補せず、「国民の力」の呉氏を支持することを表明し、野党候補は一本化された。このことがさらに呉氏への追い風になったことも挙げられる。また、韓国における中道支持、無党派層は20〜30代の若年層が中心とされているが、ソウルでは投票権がある18歳以上の10代を含め、20代、30代の55%以上が野党の呉氏に投票したという結果も出た。

 釜山市に住む40代の女性は投票を前に、中学生の娘から「左派には絶対投票しないで。自分の家族を不正で大学に入れさせるなんて、真面目に頑張っている人もたくさんいるのに許せない」と言われたという。あくまでこれは親子間での他愛もない話の一部ではあるが、10代までもが今や与党、つまり左派に対する不信や嫌悪感を持っているということが感じられる。

 特に就職難や不動産高騰問題など若年層にとって生活を脅かすような問題が相次いでいることに加え、文政権での不正に対するフラストレーションの高まりが、文大統領への強い反感となって今回の市長選挙にもはっきりと現れたといえる。

 また、これまで文政権の支持基盤を支えてきたと言われていた40代以上についても今回の市長選では与党と野党支持がほぼ二分される形となった。40代以上から聞かれた声も「給料は満足に上がらずに税金はどんどん上げられる」と生活が苦しくなっていくことへの不満であった。

 国民の厳しい判定をつきつけられた文政権。残りの任期をどのように切り抜け、さらに来年の大統領選挙をどう戦っていくのか。文大統領の苦難はさらに続くことになるであろう。

筆者:田中 美蘭

JBpress

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