「教科書に墨を塗れ」金正恩の”思想”に逆らった教師を追放

2024年4月9日(火)4時1分 デイリーNKジャパン

日本の敗戦から間もない1945年12月、連合国総司令部(GHQ)は、学校で使われている教科書に、軍国主義を煽るなどの不適切な部分があるとして、当該箇所を教えないように通達を発した。それに伴い、年明けから子どもたちは教科書の一部に墨を塗った。いわゆる「墨塗り教科書」だ。


そんな墨塗りが2024年の北朝鮮で行われている。ターゲットとなったのは、金正恩総書記自らが「完全に除去しなければならない」と語った内容だ。デイリーNKの内部情報筋が伝えた。


当局は教育部門に対して、金正恩氏の第14期第10回最高人民会議の施政演説の内容をベースにして、学校で使用する教科書を全面再検討せよとの指示を下した。先月1カ月かけて議論を行い、今後、内容を編集し直すとの方針を定めた。


北朝鮮の新学期は4月だ。新しい教科書は間に合わない。そこで内閣教育省は、各道の教育局を通じて、学校の教務部にこんな指示を下した。


「とりあえず今年は教科書にボールペンやシャープペンシルで、国が使うなと言った単語に線を引く形で対応せよ」(情報筋)


施政演説で金正恩氏は、もはや韓国は統一の相手でも同族でもない主敵だとして、次のように述べた。


わが共和国の民族史で「統一」「和解」「同族」という概念自体を完全に除去しなければならない。


そんな中、「教科書に墨を塗って『統一』や『民族』を消せ」という指示に従わなかったとして、教師が解任される事件が起きた。


平安北道(ピョンアンブクト)義州(ウィジュ)の小学校教師は先月末、指示に従うのが面倒だとして、児童に教科書を机の引き出しにしまうように指示した。


学校側は「授業に入る前の5分間、つまり朝礼の時間に、朝鮮労働党が指摘した箇所を墨塗りして、児童たちに党の政策を教えよ」と命じたが、教師はこれを「やかましい」と一蹴し、教科書なしで授業を進めた。


これが問題視され、解任に至ったという。



教師たちは新学期が始まる前の2月、3月に合わせて2回、道・市・郡教育部門が主催する緊急講習を受けた。その場では教え方を修正し、授業の際に必要のない言葉——つまり「統一」という単語を使うな、教員は祖国の将来を背負って立つ次世代を育成する革命家だ、革命家らしく思想的に武装せよ、などといった指導が行われた。


件の教員はこれを無視したため、処罰の対象になったということだ。金正恩氏の権威を傷つける行為を働いた場合、単なる解任では済まされないはずだが、教師がどうなったかについて情報筋は触れていない。


教師らは、統一を願った歌「われらの願い」を歌うことを禁止するに留まらず、教科書の墨塗り、統一という言葉の使用禁止などについて呆れ返っているが、一歩間違うと上述の教師のように解任されかねないため、口をつぐんで黙っていると、情報筋は伝えた。

デイリーNKジャパン

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