台湾海峡波高し、中国軍の台湾挑発が危険領域へ

4月11日(木)6時12分 JBpress

台湾・台北の投票所を訪れた蔡英文総統(2018年11月24日撮影)。(c)CHANG Hau-an / POOL / AFP〔AFPBB News〕

(福島 香織:ジャーナリスト)

 2019年4月10日は、米国が台湾関係法を制定してからちょうど40年目にあたる。その前日の4月9日、ワシントンでは、米国の著名シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)などが主催する討論会に台湾の蔡英文総統がインターネット中継で出席したことが話題となった。

 蔡英文は「台湾化関係法は米台が共同で太平洋地域の平和と安全安定を維持するためだけでなく、台湾の自主防衛能力を発展させ、いかなる脅威恫喝にも対抗できるようにするもの」と語り、近年強まる中国からの軍事圧力に対抗するために台湾関係法がさらに重要になっていることを強調した。

 さらに、3月11日に起きた中国戦闘機による台湾海峡中間線越えの問題について、「台湾の民主と自由に対する挑発であり、台湾は体を張って抵抗しなければならない」「台湾は自前の兵器製造の方法がなく、台湾関係法に基づき、米国からの兵器購入を継続していく」と述べ、米国に武器売却を要請した。

 蔡英文は政権発足当初、中国に対してはかなり慎重で遠慮した姿勢を維持していた。それは、中国との関係を悪化させずに現状維持を心掛ける蔡英文の「事なかれ主義」的性格からくるものとして、民進党支持者からは評判が悪かったのだが、今年になって蔡英文自身が積極的に台米関係強化をアピールし、中国の恫喝に対しても徹底抗戦する姿勢に転換してきている

 背景には、言うまでもなく2020年早々に予定されている台湾総選挙必勝の決意がある。この総選挙で民進党が政権を死守できるかどうか、それが台湾の未来を大きく左右する。そして、この台湾情勢が米中の地域覇権をめぐる対立の重要カードになるのだから、今年(2019年)の台湾海峡は否が応でも荒れ模様なのだ。


台湾との距離感を変え始めたトランプ政権

 今年、米中台の間で高まる緊張は、過去の台湾海峡危機とは本質的に違うと思われる。

 1995〜96年の第3次台湾海峡危機では、中国の江沢民が打ち出した台湾政策に対して台湾の李登輝が真向から拒否を示し、これに怒った江沢民が台湾海峡でのミサイル試演という恫喝を行った。だが最終的には米国が空母艦群を派遣し、中国を牽制し、沈静化させた。

 この危機のきっかけは、1994年初頭に、李登輝が米コーネル大学講演のためのビザ発給問題を梃に米国の対台湾姿勢を軟化させ、中国を慌てさせたことだった。ざっくり言えば、老獪な政治家、李登輝が米国をうまく利用し、台湾の国際社会における存在感と地位のステージをランクアップさせたうえ、台湾関係法の有効性を確認し、台湾アイデンティティを萌芽させた事件といえる。仕手はむしろ李登輝の台湾サイドで、勝者も台湾だった。

 だが今の台湾をめぐる危機感は、むしろ米中対立の先鋭化が先で、台湾が“巻き込まれる”状況だろう。

 胡錦濤政権と馬英九政権の時代の中台関係は、経済融和が着々と進み、米国の付け入るスキがほとんどなかった。米国識者の間でも、中台の“平和統一”に米国が反対する理由はない、という考えが主流だった。これが、中国の習近平政権の登場によって大きく変わる。つまり、習近平が台湾統一を急ごうとしたことに台湾の若者がノーを突きつけ、「ひまわり運動」が起きて民進党政権が登場した、という流れである。

 そこへ米国でも中国に強い警戒心を持つトランプ政権が登場し、米中対立の先鋭化の中で、トランプ政権自身が台湾との距離感を変え始めた。

 トランプ政権は昨年、台湾旅行法、アジア再保証イニシアチブ法、国防授権法などを通じて、台湾との関係の緊密化を急激に進めた。最新鋭武器を含めて台湾への武器売却によって台湾防衛能力強化支援を打ち出している。また新しくなった米国在台湾協会庁舎は、他国の在外公館同様に海兵隊に警備されるようになり、事実上の格上げとなった。

 特に今年に入って、台湾が米国にF16V戦闘機66機の売却を要請し、トランプ政権がそれを前向きに検討していることは、米台関係のステージが新たな段階に入りつつあるという、中国を含む国際社会に対するシグナルかもしれない。米国が戦闘機を台湾に売却したのは20年以上前のジョージ・ブッシュ(父)政権時代だ。


台湾統一への焦りを見せる習近平政権

 一方、中国の習近平政権も台湾統一への焦りを見せている。年初に「台湾同胞に告げる書」40周年記念の演説で「祖国統一は必須で必然だ」として武力行使による統一も辞さない勢いで一国二制度下による台湾併合への意欲を見せた(参考「台湾をめぐって何かが起きるかもしれない」)。また人民解放軍には「軍事闘争準備」の大号令もかけている。

 習近平政権は2期目に入ってから、「国際秩序の再編成に中国が積極的に貢献する」という表現で、中華秩序、中華ルールで支配する中華圏の拡大の野望をはっきり打ち出すようになった。この野望実現のための戦略が、新シルクロード構想「一帯一路」であり、ハイテク技術の国産化目標を盛り込んだ「中国製造2025」である。だが、この2つの戦略は、目下米国に妨害されていることもあり、うまくいっていない。さらに中国経済の急失速も重なり、党内国内から厳しい批判の声が出始めている。これを一気に挽回し、習近平が共産党指導者としての正統性と実力を示す一番理想的な方法があるとすれば、それは「両岸祖国統一の夢」実現だ。

 3月11日、人民解放軍の2機の「殲11」戦闘機が台湾海峡中間線を超えて飛来し、これに応じてスクランブル発進した台湾の経国号、F16A、F16Bと約10分にわたり対峙した。中国軍機のこの行動は、これまでの中国の対台湾挑発レベルを大きく超えてきている。まるで偶発的に何かが起こることを期待しているようでもあった。

 中国の環球時報は「台湾の基地をピンポイントで攻撃する可能性も排除できない」と爆撃の可能性に言及した。米国防省情報局の中国軍事力に関するリポートでも、中国が自国軍事力に対し相当の自信を深めているため、直面する諸問問題を軍事力で解決しようとする選択肢を取りうる、との台湾を念頭においた指摘がされている。

台湾・空軍屏東基地で軍事演習中に公開された無人偵察機「鋭鳶」。台湾海峡での監視任務に投入されている(2019年1月24日撮影)。(c)SAM YEH / AFP〔AFPBB News〕


国民党が政権をとったら何が起きるのか

 こうした緊張感の中で、「官僚的事なかれ主義」といった批判もあった蔡英文が、明確に米国接近に舵をとり、中国との対峙姿勢を打ち出した。それは総統選出馬を決意した段階から明確になった。

 2020年1月に予定されている総統選挙の民進党候補は、現職の蔡英文、前行政院長の頼清徳が名乗りを上げている。いずれが選ばれるかは、国民党の候補を眺めながら民意調査を反映させて決められていく模様だが、1つだけ言えるのは、民進党としては絶対勝てる候補を選ばなければならない、ということだ。

 というのも、次の総統選で国民党が政権をとれば、おそらくは「中台平和統一」のシナリオが一気に進むことになるからだ。

 国民党の呉敦義主席はすでに「国民党が勝てば中国との和平協議に調印する可能性がある」と述べている。これは、ある程度、世論も反映した考え方だ。台湾の民間シンクタンク・台湾競争力フォーラム学会と新時代知庫の民意調査(3月22日発表)によれば「両岸(中台)和平協議署名を支持する」という意見は44.8%で、不支持33.4%を大きく超えている。また、「和平協議署名が台湾経済にプラスとなる」と答えたのは59.8%で、反対意見の28.5%を大きく超えた。また61%が「和平協議署名は両岸緊張関係を緩和する」としており、73.2%が「国際組織の監督下で和平停戦協議の署名を行えばいい」と答えている。

 民意調査とういのは誰がどのように集計するかによってかなりの誤差があるので鵜呑みにできないとしても、今の台湾世論が、度重なる中国の軍事的恫喝と経済的甘言に流れて、戦争を恐れ、平和を望むあまり、「“和平協議”に応じても」という考え広がっている現実はある。また、「中国の台湾メディアコントロールや民進党に対するフェイクニュース攻撃などによって、台湾民意が中国に都合のよいように誘導されている」という民進党側の指摘はまんざら出鱈目ではないだろう。だからこそ、台湾人ではない外野からみれば、この民意の傾向はかなり危なかしく感じる。だが、選挙はそうした、危なかしい民意も反映するものなのだ。

 国民党の候補は絞り切れていないが、こうした民意を受けて親中路線を掲げて選挙戦を戦うとなると、民進党としてはこれに絶対負けるわけにはいかないし、また中国の台頭を国家安全上の脅威と捉えている米国や日本も他国の選挙だとぼんやり眺めているわけにはいかなくなってくる。民進党が選挙に勝つために「米国や日本など西側民主主義陣営と共通の価値観をしっかり持っている」というアピールが必要ならば、協力することはやぶさかではないはずだ。

 おそらく米国もそのように考えているからこそ、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズら共和党議員団が2月に、ペロシ下院議長に蔡英文を議会演説に招請するよう求めたのだろう。蔡英文の米国議会演説が実現するかどうかはまだ不明だが、仮に実現すれば、台湾に今蔓延している諦めムード的な中台統一世論の流れが変わるかもしれない。


エスカレートする米中の駆け引き

 このように台湾が中国と統一するかしないか、その命運を占うぐらいの意味を持つ来年の台湾総選挙を前に、米中の台湾を挟んで駆け引きはエスカレートするだろう。

 ひょっとするとトランプが台湾旅行法を根拠に、台北に降り立つことがあるかもしれないし、習近平の指示で解放軍海軍が南シナ海の台湾が領有を主張する大平島の実効支配権を力ずくで奪うかもしれない。あるいは台湾海峡上で米中軍用機や艦船がニアミスをしたり、偶発的事故が起きたりしても不思議ではない。

 台湾の民意とはかけ離れたところで起きる米中大国の思惑、行動に翻弄される台湾の運命には同情するが、どうか台湾はこの大国の攻防の狭間をうまくかいくぐり、この危機を、自由と民主を確立した国家としての道を切り開いていくチャンスに変えてほしい。

筆者:福島 香織

JBpress

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