金正恩「恐怖政治」も限界か…犯罪多発、渦巻く国民の不満
2022年4月12日(火)6時43分 デイリーNKジャパン
北朝鮮で10日、金正恩総書記の朝鮮労働党と国家の最高首位推戴10周年を記念する大会が平壌の4・25文化会館で行われた。
金正恩氏は2012年4月11日に開催された第4回党代表者会で「第1書記」に推戴され党の最高指導者となった。同大会では、その前年に逝去した金正日氏を「永遠の総書記」に推戴したが、2021年に開催された朝鮮労働党第8回大会で、総書記のポストを復活させ、金正恩氏は総書記となって現在に到る。
大会では崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長が報告を行い、「わが国家を完璧な軍事強国の前列に堂々と押し上げた敬愛する金正恩総書記は、不世出の愛国者」だと褒めちぎった。
だが、北朝鮮の現状はどうか。長期にわたる経済制裁と、新型コロナウイルスの流入を防ぐとして取られた極端な鎖国政策のせいで、経済難がいっそう深刻化。治安が悪化し、様々な犯罪が横行している。
特に、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」に際して多発した公共財産の窃盗や横領が目に余るようだ。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、咸鏡北道農村経営委員会は先月末、道内の協同農場の管理イルクン(幹部)を全員集めて、会議を開いた。
午前中に行われた通報講演では、黄海南道(ファンヘナムド)の協同農場管理イルクンが、昨年に収穫した国に納めるべき穀物を不正蓄財した実例が紹介された。その概要は次のようなものだ。
協同農場の作業班長の家の台所の床下からは麻袋で数十袋のコメが、倉庫からはディーゼル油が発見された。翌年の農業に必要な穀物を隠しておいたのではなく、完全に私腹を肥やすためだったようだ。これが農場員の怒りと反発を買った。皆が非常に苦しい生活を送っているだけに、怒りはもっともだろう。
それらを抑えるために、作業班長には無期労働教化刑(無期懲役)が宣告された。また、不正行為を黙認、助長し、ワイロを受け取っていた農場の管理委員長、朝鮮労働党の里(末端の行政単位)の委員長、技師長は、一般の農場員に格下げされた上で、他の農場に追放された。
会議は午後に入り、道内で起きた不正行為が暴露され、問題の人物を舞台に上げて思想闘争会議、つまり吊し上げが行われた。
この人物は富寧(プリョン)郡の協同農場の作業班長で、翌年の農作業に使うものとして備蓄しておいたコメを勝手に流用したことで今年1月摘発され、今は予審(起訴前の証拠固めの段階)を受けている。
だが、いくら個人の犯罪を取り締まっても、問題の根は慢性的な経済難にある。金正恩氏はこれまで繰り返し民生重視を打ち出してきたが、何一つ成果は上がっていない。
これまでは民衆の不満を恐怖政治で抑え込んできたが、それにも限界がないとは言い切れない。バレれば極刑を免れない上記のような犯罪の多発が、それを物語ってもいる。金正恩政権の次の10年は、果たしてどのような時間になるのだろうか。