北朝鮮国民が鼻で笑う、朝鮮労働党「末端細胞」での力の逆転現象
2021年4月15日(木)7時16分 デイリーNKジャパン
北朝鮮の首都・平壌で6日から9日まで開かれた朝鮮労働党労働党第6回細胞書記大会。金正恩総書記は閉会の辞で「人民に最大限の物質的・文化的福利をもたらすために、私は、党中央委員会から始めて各級党組織、全党の細胞書記がより厳しい『苦難の行軍』を行うことを決心」したと述べたと、国営の朝鮮中央通信が伝えている。
数十万とも数百万とも言われる餓死者を出した1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」という、北朝鮮国民にとってトラウマになっている用語を使うことで、党の最末端組織である「細胞」のトップにあたる「書記」に対する引き締めを狙ったと思われる。
草の根で党の政策を浸透させ、進める役割を担う細胞書記だが、その社会的評価はダダ下がりだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
細胞書記大会の様子を見て「行事そのものがみすぼらしく見える」と酷評した平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、一般住民の間で細胞書記の威信は地に落ちたと述べた。
拝金主義が蔓延る今の北朝鮮では、党組織の活動に時間を取られ、まともな収入を得られないのが細胞書記は、非常に貧しい生活を強いられているのだ。
「党の政策貫徹の最前線に立つ細胞書記は商売すらできず、日々の糧にも事欠く」
「今はどこに行ってもカネがあってこそ認められるのに、貧困に喘ぐ細胞書記が人間扱いされようか」
(情報筋)
当局は、細胞書記に対して初級政治イルクン(幹部)として、大衆の中に入って深く根を下ろし、住民の思想結集を強化せよと煽動事業(プロパガンダ)に力を入れよと言っているが、そんなことで地に落ちた威信が回復するのかと、情報筋は疑問を呈した。
細胞書記に代わって力を持ちつつあるのが、「8.3党員」と呼ばれる人々だ。
朝鮮労働党の党員には「党生活」が求められる。収入の2%を党費として納め、政治学習会、講演会に出席し、毎日の生活総和(総括)を行なうというものだ。また、商行為も禁じられている。
その一方、一定の金額を上納することと引き換えに、党生活を免除してもらっている党員もしる。それが「8.3党員」だ。
各細胞に対しては、上部組織への上納金のノルマが割り当てられており、8.3党員がいてこそノルマの達成が可能だ。そればかりか、彼らは細胞書記に生活費まで与えている。「ヒモ」のような状態に陥った細胞書記に、威信などあるわけないのだ。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、8.3党員の多くは、そこそこの規模の商売をして財産を築いた人たちで、党費を毎月支払うのは面倒だと言って、ドンと1年分を前納するほどの財力を持っている。彼らなくして細胞の維持も外貨稼ぎノルマの達成もなしえないため、彼らの思想を統制する立場にある細胞書記は、何も言えずに萎縮している。
当局は、そんな細胞書記を集めて、党組織は住民の非社会主義現象を根絶するための参謀部などと逆説しているのを見た住民は、力のない細胞書記にプレッシャーをかけて何が変わるのかと、大会そのものを鼻で笑っているという。
細胞書記の妻の中には、商売をして夫の経済的サポートをする者もいるが、党への忠誠心が強い書記ほど、妻に商売をさせない傾向にあるという。党員としてのプライドが高く、時代の流れにうまく乗れない人たちだろう。