中国はやり過ぎた? 米国が仕掛ける怒りの貿易戦争

4月17日(火)6時14分 JBpress

中国北京市内にあるマクドナルドの店舗。米中貿易摩擦をめぐる懸念が高まる中、中国のソーシャルメディアではマクドナルドなど米国企業の製品の不買を促すメッセージが現れ始めた(2018年4月11日撮影、資料写真)。(c)AFP/WANG ZHAO〔AFPBB News〕

「ツキジデスの罠」、トランプ氏が大統領に選ばれた頃、これまであまり知られていなかったこの言葉が広く世界に知られるようになった。

 ツキジデスはギリシャの歴史家であり、アテネとスパルタの間で行われたペロポネソス戦争を描いた「戦史」で知られる。「ツキジデスの罠」とは、急に国力を増大させた国がそれまで世界に覇を唱えてきた国と対立し戦争に発展することを言う。これは、アメリカの歴史学者であるグレアム・アジソン氏の造語とされる。

 トランプ氏が大統領選挙キャンペーン中に中国を敵視する発言を繰り返したことから、この言葉がにわかに注目されるようになった。これまで覇権国であった米国と、新興国である中国との間に戦争が始まるとする観測である。

 それから1年半ほどが経過したが、米中の間に戦争が起きることはなかった。その結果、最近は「ツキジデスの罠」と言う言葉を聞くことはなくなったが、「ツキジデスの罠」がなくなったわけではない。米中激突は経済の分野で始まった。貿易戦争の勃発である。


一般的米国市民の反応は?

 トランプ大統領は貿易赤字の解消を目的として、鉄鋼やアルミなどにかかる関税をアップすると言い出した。中国はトランプ大統領の決定に対して、報復関税という手段に出た。水面下では貿易戦争の回避に向けた動きがあるとされ、今後、報復合戦が一方的にエスカレーションするとは思えないが、両国の動向から目を離すことはできなくなった。

 日本の多くのマスコミはトランプ大統領の決定を、秋に行われる中間選挙対策という観点から論じている。支持基盤である製造業のブルーカラー受けを狙ったものであり、選挙で勝ちたいとする近視眼的なエゴの産物であると言うのだ。

 だが、筆者はそれだけではないと考える。かなり違った背景が存在する。それは、米国の世論が今回のトランプ大統領の決定を選挙のための“めちゃくちゃ”なものとは見ていないように思えるからである。

 トランプ大統領の支持率は上昇している。トランプ大統領の決定は選挙対策として功を奏したことになる。そして、もう1つ注目しなければならないことは、過激な反対運動が巻き起こったとの報道を聞かないことだ。彼が移民を侮辱するような発言をした際には、多くの市民がデモを行うなど強い抗議の声を上げている。しかし、今回、輸入制限措置に対して強烈な反対運動が起こったとのニュースを聞いたことはない。

 ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ氏など一部のインテリは、世界経済を“めちゃくちゃ“にするとして今回の決定に怒りの声を上げている。だが、支持率が上昇したことからも分かるように、平均的な米国市民はトランプ大統領の決定を好意的に受け止めている。そして、輸入制限措置によって不利益を受ける業界からも、報道を聞く限り、強硬な反対論は噴出していない。多くの平均的な米国人はトランプ大統領の決定を暗黙の裡に支持し、ことの成り成り行きを見守っている。


世論の変化を見逃さなかったトランプ

 これはまさに中国が「ツキジデスの罠」にはまったことを意味する。トランプ大統領が“Make America Grate Again”をキャッチフレーズとして当選したことからも分かるように、平均的な米国人はアメリカが覇権国家であることを望んでいる。だから、第2次世界大戦後に覇権国としての米国に挑戦したソ連、そして日本を許すことはなかった。そして、現在、その矛先は中国に向かっている。

 日本は1980年代、エズラ・ヴォーゲル氏の著書“Japan as Number One”に喜び、「ノーと言える日本」などと題した本を出版して無邪気にはしゃいでいた。だが、それは米国の怒りを買い、バブル経済の崩壊につながった。

 バブル崩壊の直接の原因を米国の陰謀と捉えることは間違いだと思うが、米国が対日貿易赤字の削減に動き出したことによって日本は富の源泉を失い、それが不動産バブルの崩壊につながったことは事実であろう。

 中国は日本のバブル崩壊に学ぶとことによって、不動産バブルを崩壊させない金融テクニックを身に付けたと豪語している。実際、これまでバブルは崩壊していないから、一定の効果を上げたことは確かだろう。

 だが、金融のテクニックだけで本当にバブル崩壊を防ぐことはできるのであろうか。バブルは貿易黒字が急増する国に出現する。儲けたお金の使い道がないことが、不動産価格を高騰させる。つまり、貿易黒字という燃料がなくなればバブルは崩壊する。

 習近平は独裁体制を築き上げることに成功した。そして自身の任期にも関連すると思われるが、2035年と言う起源を区切って、それまでに中国を偉大な国にすると言い始めた。

 それを受けて、米国の世論は急に戦闘モードに入った。ポピュリストであるトランプ大統領がその世論の変化を見逃すことはなかった。それが、今回の貿易戦争の背景にあると見て間違いない。


戦いはどちらかが倒れるまで続く

 21世紀において、「ツキジデスの罠」が熱い戦争に発展することはない。しかし、覇権国の世論は、新たに現れた競争相手が覇権国を挑発し始めると急速に戦闘モードに入る。

 米国が中国を見る目は厳しさを増していた。習近平はその視線の変化を敏感に感じ取るべきであった。しかし、彼は自己の独裁を強化する手段として、昨年の紫禁城におけるパホーマンスのように、米国との対等を演出した。そして、2035年にまでに世界の覇権国になると宣言した。それは米国の世論を一気に硬化させた。

 米中は「ツキジデスの罠」にはまり、どちらかが倒れるまで戦い続ける。熱い戦争にはならないが、貿易だけではない。金融、先端技術、知的財産権、ソフトパワー、シャープパワーなど、あらゆる分野で死闘が繰り返されることになろう。

筆者:川島 博之

JBpress

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