アサンジがスノーデンより嫌われるこれだけの理由

4月19日(金)6時14分 JBpress

ポルトガルの首都リスボン郊外で開催されたイベントで、映像を介してスピーチするエドワード・スノーデン容疑者(2017年5月30日撮影)。(c)AFP/PATRICIA DE MELO MOREIRA〔AFPBB News〕

(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 内部告発サイト・ウィキリークスの創設者であるジュリアン・アサンジ容疑者が英国で逮捕されたのは4月11日のこと。籠城していたエクアドル大使館から抱えられながら連行されるアサンジの姿は、まるでどこかの宗教の教祖かと思ってしまうような様だった。

 こうした一連の情報を見ていて違和感を覚えたのは、そんな彼の姿だけではない。特に気になったのは、報道における彼の「肩書き」だ。


アサンジは「ジャーナリスト」なのか?

 ニュースでは、アサンジは「ウィキリークスを立ち上げた人物」と表現されているが、ウィキペディアによれば、アサンジの肩書きは「ジャーナリスト」となっている。またアサンジ自身も、世界中から極秘情報を集め、自身のサイトで公開しているので、自らを「編集長」としていたこともあったようだし、今もどちらかといえば自分をジャーナリストだと見ているようだ。

英ロンドンのウェストミンスター治安判事裁判所に警察車両で移送されるジュリアン・アサンジ容疑者(2019年4月11日撮影)。(c)AFP PHOTO / ISABEL INFANTES〔AFPBB News〕

 ところが米政府や米軍関係者の間では、ジャーナリスト面をしているアサンジに対するアレルギーは凄まじい。機密情報を暴露した事実以上に、アサンジが「ロシアのスパイだ」と公然と非難する議員もいるくらいだ。

 政府の機密情報の内部告発というとすぐに思い出すのは、元CIA(米中央情報局)職員で、現在、ロシアに滞在しているエドワード・スノーデン。米政府や米軍関係者と話をすると、スノーデンを絶対に許せない存在だと見ていることは言葉の端々からすぐに感じられる。だが、アサンジへの嫌悪感は、スノーデンへのそれをはるかに上回るものがある。

 なぜアサンジはそれほど嫌われるのか? それを知るには、スノーデンとの違いを探ると分かりやすい。

 まずアサンジとスノーデンには共通点がある。どちらも機密情報を暴露したということだ。ただ両者は相容れない。なぜなら、お互いのスタイルが根本的に違うからだ。

 どういうことか? スノーデンの内部告発ケースを振り返るとその意味が見えてくる。


「知る権利」を追い求めたスノーデン

 スノーデンはNSA(米国家安全保障局)の機密文書を盗み、自ら発表するのではなく、英ガーディアン紙の記者だったグレン・グリーンウォルドなどを介して新聞や映像など既存メディアを通して、機密情報を暴露した。

 ここで重要なのは、情報が公開される前に、メディアのフィルターが入ることだ。それによって、機密文書内に出てくる個人情報や固有名詞など、下手をしたら人命に関わるような情報を隠すことができる。というのも、スノーデンの目的は、米政府が秘密裏に大規模監視活動を行なっていることなどを暴露することで、あくまで米国民や世界の人たちの「知る権利」に目的を置いている。

 確かに、スノーデンはメディアに提供した20万件におよぶ文書のすべてを事前に読んだわけではないだろうが(盗んだのは150万件と言われている)、それでも、それらの機密文書の暴露が世の中の「透明性」をさらに高めるという理想を掲げていた。当初から「ただの目立ちたがり屋」という批判もあり、ひょっとするとそれも事実かもしれないが、それでも彼の主張は「知る権利」「透明性」などに主軸が置かれている。

 では、一方のアサンジの場合はどうか。まずアサンジは、彼自身がジャーナリストの位置付けで動いており、そのために、自分の元に集まった政府の機密情報や民間企業の内部情報は、ほとんどそのままウィキリークス上で大量に公開する。政府関係者の固有名詞も、民間企業のビジネスメールに出てくる個人名も、米政府の外交公電に記載されている政府関係者などの個人名も容赦なく暴露している。

 アサンジが公開した情報の中には、例えば、日本の公安調査庁も登場する。2015年にイタリアの監視ソフト販売業者から、スパイウェアの商品デモンストレーションを受けていたことが、ウィキリークスの暴露で明らかにされているのである。そこには、販売業者と公安庁側の担当者の名前も登場し、彼らの電子メールによるやりとりも公開されている。ウィキリークスはそうした情報を躊躇なく公開してしまうのである。

 これは時に危険だと言える。諜報関係者や政府関係者の水面下の動きが実名入りで暴露されたり、機密作戦に従事している人たちの命を危険にさらしたりする可能性があるからだ。過去には、反米勢力のテロが続いていたアフガニスタンで、米政府に協力したアフガニスタン人の名前などを公表したこともあり、命に関わる情報だとして非難されたこともあった。

 さらに言うと、そうした情報はアサンジのさじ加減で、恣意的に公開・非公開を決めることができる。そうなれば、彼の政治信条や主義主張に沿って、公開する情報を決めることもできるし、もっとうがった見方をすれば、多くの機密情報の中に、自分に都合のいいような情報を紛れこますことだってできてしまう。メディアという第三者によるフィルターがないからだ。

 事実、2016年にロシア内務省から盗まれた少なくとも68ギガバイトの機密情報がウィキリークスにもたらされたが、アサンジは公開しない決定をしたと報じられている。

2年前、ロンドンのエクアドル大使館のバルコニーに姿を現したジュリアン・アサンジ容疑者(2017年5月19日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / Justin TALLIS 〔AFPBB News〕

 そもそもアサンジの場合、ジャーナリストとは名ばかりで、既存メディアで記者・編集などとして取材や執筆のキャリアを積んだ経験もない。こうしたことから米国内では彼を「自称ジャーナリスト」と指摘する者は多い。


アサンジ自らハッキングに関与?

 もう一つ付け加えると、今回、米国側が公開したアサンジに対する起訴状は、2010年からウィキリークスが次々と公開したイランやアフガニスタンでの米軍の事機密文書などの暴露に関するものだった。それによれば、アサンジが情報源だった元陸軍情報分析官のチェルシー・マニングにさらなる情報を盗ませるために、自らハッキングで積極的に関与していたと指摘されている(協力によってさらなる情報を盗めたのかは不明)。

 これが事実だとすると、こうした行為はもはやジャーナリストの職務を逸脱し、犯罪行為で情報を盗んでいたことになる。内部情報を提供してもらうことはあっても、それを共謀するということはありえない。そうなると、もはやハッキング犯罪グループの一味であるとも言え、ジャーナリズムとは言えない。

 スノーデンはこうしたウィキリークス側のスタンスに違和感を持っていたのではないだろうか。だからこそ、彼は自分が命がけで盗み出した機密情報を、ウィキリークスに流すことはしなかった。ウィキリークスを、まともなプラットフォームと見てなかったのだろう。

 実はツイッター上で、スノーデンはウィキリークスとやりあったことがある。ウィキリークスが2016年に米民主党の内部メールを大量に暴露した際、スノーデンはあまり関係のない人の情報まで暴露するのは間違いであるという趣旨のツィートを公開した。するとウィキリークスは「そんなご都合主義をやっても、クリントンから罪を容赦してもらえないよ」と、スノーデンを非難した。ちなみに、ウィキリークスのツイッターアカウントはアサンジが使っていると言われている。

 またウィキリークスは、スノーデンの盟友である元ガーディアンのグレン・グリーンウォルドが公開したスノーデン文書の一部が「無実の人を傷つける」との理由で消されていたことに、「あなたにその情報を消す権利はない」とツイッターで噛み付いたことがある。そして「かつて弱気な米紙や英紙と機密情報の公開を一緒にやった際に、いくつかの情報を削除させられた。そのことを今も後悔している」ともツイートし、グリーンウォルドを批判し、揉め事を起こしたことがある。

 そんなグリーンウォルドも、元人権派弁護士のジャーナリストらしく、基本的には表立ってアサンジを批判することはないし、今回のアサンジ逮捕にも「声を上げるべきだ」と発言している。とはいえ、根底では、そのやりかたに賛同していないのは明らかである。

 それでも、スノーデンやグリーンウォルドは、ウィキリークスやアサンジの活動や言動に、「大人の姿勢」で対応している。その背景には、共通した「反米」という価値観があるからだろう。それこそが、アサンジと、スノーデンやグリーンウォルドをかろうじてつなげているものだ。

 2017年に当時CIAの長官だったマイク・ポンペオ(現国務長官)は、ウィキリークスについて「ロシアのような国家主体からそそのかされて働く敵対的な非国家主体の情報機関である」と述べている。

 今後もアサンジに対しては、スノーデン以上に、米政府や軍関係者からの風当たりが強くなることは確かだろう。

筆者:山田 敏弘

JBpress

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