北朝鮮幹部、禁断の発言で一家全員「緩慢な処刑」に
2025年4月21日(月)5時1分 デイリーNKジャパン
金正恩総書記が「敵対的二国家論」を明確に打ち出したのは、2023年12月末に開催された朝鮮労働党第8期第9回全員会議の場でのことだ。韓国をもはや同族と見なさず、敵対的な別の国家と見なし、建国当初からの国是である「南北統一」を完全に否定した。
北朝鮮にも、あまりに急でかつ無理のある理屈についていけず、戸惑いを覚える人は少なくないと伝えられている。しかし、それを口にすることは許されない。だが、よほど受け入れられないのだろう。本音を漏らしてしまう者もおり、家族ともども最悪の結末が待っていた——と平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党安州(アンジュ)市委員会(市党)の幹部たちもやはり、金正恩氏の掲げた敵対的二国家論、統一路線の放棄に戸惑い、懸念を口にしていた。40代幹部のキム氏も、その一人だ。
北朝鮮は南北を結ぶ鉄道と道路を爆破。南北融和の象徴が吹き飛ばされたと知ったキム氏は、大きなショックを受けた。そして、親しい友人との場でこう漏らしたという。
「鉄道が途切れた日に、統一(の夢)も途絶えた」
「しかし同じ民族なのに、道路を壊したからとつながりが途切れるものなのか」
「わたしたちの願いは統一」——そんな歌がある。子どもの頃から教え込まれてきた統一、苦しい現状を打破する希望のような統一。その夢をもはや目指さないという方針に、彼だけでなく、多くの北朝鮮国民が受けた衝撃は計り知れない。
だが、その場には情報員(スパイ)がいたのだろう。発言は当局に報告され、キム氏は逮捕された。罪状は「党政策非難罪」。
「北と南は一つの民族ではない」「統一という言葉をなくす」という政府の方針を最も強く批判した人物として報告されたキム氏は、かねてより保衛部(秘密警察)から監視を受けていた。市党のイルクン(幹部)としてだけでなく、人民班(町内会)でも批判的な発言をしていたことが災いし、2024年11月、ついに安州市保衛部に逮捕された。
その後5カ月にわたり厳しい取り調べを受けた。激しい拷問を受けたのは疑いない。
そして今月初め、党の政策を批判した罪により、「現代版宗派分子(分派主義者)」の烙印を押され、管理所(政治犯収容所)送りが決定。政治犯には連座制が適用されるため、家族もろとも連行された。釈放は前提とされておらず、「緩慢な処刑」を宣告されたに等しい。
市保衛部は今回の事件を受けて、「党の方針に従わない思想的落伍分子を、第9回党大会までにすべて処理せよとの党中央の指示を受けている」との方針を明らかにした。
市党内部はもちろんのこと、市内でも緊張感が走っている。情報筋はこう語る。
「安州市党の党員たちは、以前とは異なり、党員同士の会話にも慎重になった。互いを信じられないようだ」
また、保衛部のイルクンも、「昨年から今年にかけて、家族もろとも管理所送りになるケースが増えている。発言には十分気をつけるべきだ」と警告している。
到底受け入れがたい政策を強引に押し通すために、目立った人物をスケープゴートに仕立てる——それは北朝鮮の常套手段だ。しかし、白いものを黒だと言えと脅されたとしても、すべての人がそう言えるわけではない。