北朝鮮の「姉と弟」が畑で吊し上げられた”危険映像”

2025年4月24日(木)5時2分 デイリーNKジャパン

毎年4月15日は故金日成主席の生誕記念日である。この日を含む国家的な祝祭日や政治的に重要な行事のある前後は、一切の事件、事故の発生は許されず、波風が立つようなことも避けられる。


中国との国境に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城郡(オンソングン)の安全部(警察署)が、反体制的な映像を隠し持っていたとして、公開批判舞台(吊し上げ、人民裁判)の場に立たせた。


それならよくあることだが、問題はタイミングだ。生誕記念日の10日前という時期に行われ、住民の間には緊張感が広がっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


公開非難舞台は今月6日午前、穏城の邑内(郡の中心部)の畑で行われた。数百人の住民が見守る中、22歳の男性Aさんと26歳の女性Bさんが、舞台に立たされた。


二人は血の繋がりはないものの、お互いに「ヌナ」(お姉さん)、「トンセン」(弟)と呼び合うほど親しい間柄だった。


事件は1日夜、B氏宅で発生。A氏が訪問中に、人民班長(町内会長)の通報を受けた安全部(警察)が踏み込み、USBメモリを押収。内部からは、ロシアに派遣された北朝鮮軍に関する映像や、米国在住の脱北者を取り上げたドキュメンタリーが発見された。


北朝鮮当局はロシアへの派兵をひた隠しにしている。また、自由を謳歌する脱北者の映像は外国文化への憧憬を誘うもので、北朝鮮の体制にとって何より危険なものだ。


糾弾の場で2人は「USBは道で拾った」と釈明したが、安全部は「拾得時には即時通報すべきで、保管自体が重大な犯罪だ」と断じ、行為を「深刻な反動」と位置づけた。


また、この場では住民向けに「外部文化を排除せよ」と題した宣伝資料が配布され、当局は反動映像の流入源として中国を名指し。発見次第の通報を強く求めた。



通常、祝賀ムードに包まれるこの時期の異例の公開糾弾に、地域は動揺を隠せない。


この一件で、穏城の住民の間には緊張が走った。金日成氏の生誕記念日を控え、このような公開批判舞台が行われるのは極めて異例だからだ。祝賀ムードは吹き飛び緊張ムードが漂った。


情報筋は「毎年この時期には歌と踊りで祝賀ムードが高まるが、今年は何かがおかしい」「内部の腐敗がここまで進んでいるのでは、という声も聞かれた」と伝える。


住民は「目立てば災いが降りかかる」として、慎重な行動を心がけるよう互いに呼びかけ合っている。中朝国境に面し、中国との非公式な往来が頻繁なこの地域では、多くの住民が中国との何らかのつながりを持っているためだ。


糾弾を受けた2人はその後、手錠をかけられたまま現場から連行された。住民の間では「最低でも5年以上の教化刑(懲役刑)が下るだろう」という見方が支配的だ。


「もし4月15日がもっと離れていたら、処刑されていたかもしれない」と語る住民もいた。国家的祝日に流血沙汰が発生することは、中央からも忌避される。2人が「命拾い」したとするなら、それは皮肉にも金日成主席の“ご加護”によるものなのかもしれない。

デイリーNKジャパン

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