「出国禁止」解けるや東芝行き SK会長の執念

4月25日(火)6時14分 JBpress

米ウエスチングハウス製のスロベニアのクルスコ原発〔AFPBB News〕

 韓国第3位の財閥であるSKグループの崔泰源(チェ・テウォン=1960年生)会長が2017年4月24日、日本に向けて出発した。狙いは東芝が進める半導体メモリー事業売却のための入札を成功させることだ。

 「東芝の半導体メモリー事業は結局、どこに売却されるのか?」

 「SKに売却される可能性はないのか?」


「東芝」に強い関心

 ここ1カ月ほどの間、韓国の産業界幹部と会うと決まってこの話が出る。東芝の半導体メモリー事業売却については、韓国でも大きな関心事だ。

 そんな中で、韓国メディアによると、崔泰源氏はこの日、日本に向けて出発した。2泊3日の予定で、東芝を訪問するほか、東芝と長年提携関係にあるウエスタンデジタル(WD)関係者とも接触する計画だという。

 韓国紙デスクは、「SKグループは、米投資ファンドのコールバーク・クラビス・ロバーツ(KKR)、WDなどとコンソーシアムを形成することも検討している」と言う。

 まさに待ちに待った東京行きだった。崔泰源会長は、どれほどこの日を期待していたか。

 SKグループは以前から東芝の半導体メモリー事業買収に強い関心を示していた。「グループ創業以来」の大型M&A(買収・合併)を覚悟もしていた。

 韓国の財閥がこれだけの決断を下すからには、オーナー会長が前面に名乗り出るはずだ。崔泰源氏も、すぐにでも日本に行って強い決意を示すとともに関係企業やファンドとの調整をしたかったはずだ。


行きたくても行けなかった日本

 ところが、この重要な時期に、崔泰源会長は、なんと「出国禁止」になっていたのだ。

 崔泰源会長にとって2016年秋以降は悪夢の日々だった。朴槿恵(パク・クネ=1952年生)前大統領と崔順実(チェ・スンシル=1956年生)氏の一連のスキャンダルで幾度となく検察の捜査を受けたのだ。

 韓国の検察は2016年12月16日、崔泰源会長ら財閥総帥を含む企業人たちを出国禁止措置にした。「勝負のM&A」を前に進めたくても、日本に行くことができなかったのだ。

 こういう話だった。

 SKグループは、崔順実氏が設立や運営に深くかかわった2つの財団に111億ウォン(1円=10ウォン)を拠出した。

 一連の崔順実スキャンダルだった。資金を拠出したのはSKグループだけではなく、財閥はほとんどお付き合いしている。


財団への資金提供で捜査

 ところが、乗馬選手だった崔順実氏の娘のために馬や練習場を提供したサムスンと並び、SKにも「特別な要請」があった。

 スポーツ関連施設などを作るために89億ウォンもの資金を別途拠出するように求められていたのだ。SKグループは金額が小さくなかったため、この要求にあれこれの理由をつけて返事を引き延ばしていた。韓国メディアによると、崔順実氏などはこれに不満だったが、結局、要求を取り下げた。

 だが、111億ウォンの資金を拠出したうえに89億ウォンもの要求があったことで、捜査当局は、政権に対する何らかの要求の見返りだったのではないかという線で追及した。

 崔泰源氏は、背任や横領で有罪になったが、2015年8月に朴槿恵大統領(当時)に特赦を受けていた。この「見返り」だったのではないかということだ。

 崔泰源会長とSKグループは、「対価性がある資金拠出」を一貫して否定した。すべての財閥に財団への寄付を求める話があって、「断れなかった」と主張した。

 だが、前大統領をなんとしても「賄賂」で立件したい捜査当局は、サムスングループと並んでロッテグループとSKグループを集中的に捜査した。崔泰源会長に対する「出国禁止」措置もなかなか解除にならなかったのだ。

 2017年4月17日、検察は一連のスキャンダルに対する捜査を終えた。朴槿恵前大統領に対しては500億ウォンを超える収賄の容疑などで起訴した。SKグループに対する捜査も終わった。


嫌疑なしで出国禁止解除

 崔泰源会長についても「嫌疑なし」となり、この翌日に出国禁止が解けた。これと同時にあわただしく訪日準備をしたということだ。

 崔泰源氏は、何が何でもこのM&Aを成功させたいと意気込んでいる。というのも、半導体事業に対する愛着は、サムスングループにも劣らないほど強いからだ。

 グループの3代目のオーナー会長である崔泰源会長は、自ら半導体事業への進出を決めた。

 2010年、崔泰源会長は、「次の成長分野」を探していた。SKグループは、石油、石油化学などエネルギー事業と携帯電話事業が2大収益事業だった。いずれも優良事業だったが、さらに成長を加速させるには何をすべきか。ちょうどその時、ハイニックス半導体が身売りされたのだ。

 崔泰源会長は、2011年、「これこそSKが手がけるべき事業だ」として買収を宣言した。携帯電話事業を手がけるSKテレコムが3兆5000億ウォンもの資金を出して、買収に踏み切った。

 買収当初は巨額の投資を案じる声もあったが、崔泰源会長はさらに4兆ウォンを設備投資につぎ込んだ。結果的に、この大胆な投資は、少なくともいまのところは当たっている。

 社名をSKハイニックスと変えた半導体メーカーは、2014年、2015年と2年連続して5兆ウォンを超える営業利益を上げた。2016年も3兆2767億ウォンの営業利益を上げ、韓国の上場企業で5位に入った。時価総額は、サムスン電子に次ぐ2位だ。


絶好の機会

 崔泰源会長は、超強気のオーナー会長だ。東芝の半導体メモリー事業売却は、ハイニックス以来のチャンスと見ているのだ。

 SKハイニックスは、半導体メモリーが主力だが、中でもDRAM事業への依存度が圧倒的に高い。売上高に占めるDRAM事業の比率は70%を超える。世界シェアも25%で、サムスン電子(50%弱)に次ぐ地位だ。

 ところが、NAND型フラッシュメモリーの売上高に占める比率は25%。世界シェアは10%に過ぎない。NAND型フラッシュメモリーが主力である東芝の売却には是が非でも絡みたいのだ。

 もちろん韓国でも、SKハイニックスへの売却がすんなり進むとの見方は多くない。

 先日会ったある韓国の銀行幹部は、「日韓共同事業のモデルケースになる」とその意義を語るが、日本にはそんな雰囲気などないことも分かっているはずだ。

 それどころか、「技術流出」の懸念からSKハイニックスへの売却の可能性は低いというのが一般的な見方だろう。

 だから、SKは、日米企業などとの連合形勢に期待をかける。また、投資額については、「10兆ウォン」などという報道も出ている。1兆円くらいはコンソーシアムを通して出すことを念頭に入れているというのだ。


自分が買収した半導体事業だけに・・・

 半導体事業の買収を機にSKグループは事業構造が大きく変わってきた。

 もともと繊維事業を手がける「鮮京」として出発したグループは、崔泰源会長の父親で創業者に兄を継いで2代目会長になった崔鍾賢(チェ・ジョンヒョン)氏の時代に急成長する。

 その時も、2回の大型M&Aがきっかけだった。

 最初は、エネルギー企業の油公(ユゴン)、次は韓国移動通信の買収だった。いまのSKイノベーションやSKエネルギーなど石油、石油開発、石油化学事業とSKテレコムの前身だった。

 父親は2つの「払い下げ」を経て一気に財閥にのし上がったが、崔泰源会長は、民間企業を買収して半導体事業を強化した。

 SKハイニックス買収前まで、SKグループは、エネルギーと通信がほとんどの利益を稼ぎ出してきた。ところが、2016年には、半導体がグループ最大の収益源になった。

 「父親を超えたい」は韓国のオーナー会長の悲願だ。崔泰源会長にとって、これを実現させてくれた半導体事業にかける意気込みはすさまじいほどだ。

 M&Aが成功する可能性はどれほどあるのか。

 出国禁止が解けた崔泰源会長が、「嫌疑」が晴れた勢いに乗って「予想外」の条件を提示して混戦のM&Aの波乱の目になる可能性がなくはない。

筆者:玉置 直司

JBpress

この記事が気に入ったらいいね!しよう

東芝をもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ