北朝鮮が「戦勝国」になるという、日本にとって厄介な現実
2025年4月27日(日)12時41分 デイリーNKジャパン
ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長は26日、西部クルスク州全域からウクライナ軍を追い出し、奪還作戦を完了したとプーチン大統領に報告した。その中で、北朝鮮軍からの派兵も初めて公式に認め、その貢献を称賛した。
ウクライナ軍はこれを否定し、なおクルスク州の占領地域で防衛作戦を続けていると表明した。しかしいずれにしても、形勢が逆転してウクライナ軍がクルスク州を再占領するのはきわめて困難だろう。
仮に今後、米トランプ政権の仲介によりロシア優位で停戦が実現すれば、北朝鮮は実質的に「戦勝国」の地位に立つと見ることもできる。
ゲラシモフ氏は北朝鮮からの派兵について、ロ朝両国が締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づくものだと指摘した上で、北朝鮮兵を「高い専門性や忍耐力、勇気、英雄的な行動を示した」と称賛した。北朝鮮兵がロシア軍にとって大きな助けになり、敵に脅威を与えたことは、ウクライナ軍内部からの証言でも裏付けられている。
それに伴う犠牲は多大だ。1万4000〜5000人規模とされる派遣兵力のうち、4000〜5000人が死傷したとされる。北朝鮮当局は派兵の事実を国民に隠し続けているが、死傷者が発生したことも含め、国内では口コミ情報が拡散し始めている。
今後の対応を誤れば、国民から強い反発を招き、体制不安につながっていくリスクもある。
しかしそれを差し引いても、金正恩体制が今回の経験から得られる利益は多大なものになる可能性がある。
派兵の対価としてロシアから得られる物質的利益、実戦経験を積んだことによる軍の戦闘力強化もさることながら、外交的利益も無視できない。日本や韓国など北朝鮮と悪縁のある国はさておき、そうではない一部の国々の中には、北朝鮮はリスクを冒してでも友好国との約束を守る国だと見て、関係強化を図る向きも出てくるかもしれない。
米ニュースサイト・アクシオスの報道によると、米国が双方に提示した和平案は、ウクライナ東・南部4州のほぼ全域についてロシアの占領を事実上認め、2014年から米欧各国が課してきた対ロ制裁を解除することが柱だ。
ウクライナの反発が激しくまとまるかどうかは未知数だが、仮にこんな案が実現すれば、次に北朝鮮情勢ではどういう動きが出るのか。北朝鮮は国連安全保障理事会の決議に違反して核実験と弾道ミサイル発射を重ね、何重もの制裁を受けている。しかし少なくとも、他国に武力侵攻しているわけではない。ウクライナ戦争の和平案から類推すれば、トランプ政権が北朝鮮に対し、たとえば米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核戦力の放棄などを条件に制裁解除を提案するかもしれない。
そうなって本当の意味で困るのは、北朝鮮と敵対ないしは非友好的関係にあり、同国の戦術核戦力の射程内にいる韓国と日本くらいだ。また、制裁解除により中ロなどと大っぴらに貿易を再開した北朝鮮の国力が増せば、いっそう厄介な存在になっていく可能性がある。
そんな流れが見え始めたとき、日本政府はトランプ政権の動きを押しとどめることが出来るのか。日本政府は、今から悩んで置いたほうが良いのではないだろうか。