ミッキーマウスから反撃されたフロリダ州知事、泣きっ面に蜂の出来事

2023年4月29日(土)6時0分 JBpress


共和党と民主党の代理戦争

 米娯楽・メディア大手、ウォルト・ディズニーのロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)が4月27日、「ミニ・トランプ」ことロン・デサンティス・フロリダ州知事を相手どって、連邦南フロリダ地区地裁に訴訟を起こした。

(Disney sues Ron DeSantis, citing 'campaign of government retaliation' - Los Angeles Times)

 デサンティス氏は、ドナルド・トランプ前大統領の共和党指名を阻む最有力候補と目されてきた。

 フロリダ州議会閉幕を待って5月に正式立候補宣言するものと見られている。

 大統領候補としての箔つけのために今月中旬には日本、韓国、イスラエル、英国を歴訪、日本では岸田文雄首相と会談した。

 デサンティス氏に挑戦状を突きつけたアイガー氏は、15年間ディズニー経営者として君臨、2020年にいったん退いたが、「御家の大事」とあって2022年11月、CEOに復帰している。

 アイガー氏には「経営者としての顔」のほかに「もう一つの顔」がある。「政治家としての顔」だ。

 現在は無党派だが、2016年まではれっきとした民主党員。

 同年の大統領選の際にはヒラリー・クリントン氏の共同選対委員長を務め、ドナルド・トランプ氏と対峙したこともあった。

 2020年の大統領選の時には自分自身、立候補することすら真剣に考えていたのだ。

 政治理念は穏健派リベラル。地球温暖化やLGBTQ問題には関心が強く、その点ではジョー・バイデン大統領と同じスタンスだ。

 今回訴訟を起こした理由はこうだ。

 ディズニーはこれまで56年間、フロリダ州中央部の土地を州から税制上の優遇措置を含む特別自治区(Dependent Special District)として「譲渡」され、そこにディズニー・ワールドを建設し、膨大な収益と雇用を同州にもたらしてきた。

 それを共和党が支配するフロリダ州議会が廃止する法律を成立させ、デサンティス氏が署名制定してしまったのだ。

 ことの起こりは、2021年、フロリダ州がLGBTQ(性的少数派)について児童(幼稚園児から小学校3年生まで)に教えることを州法で禁じたことにディズニーが反発したことから

 ディズニー傘下のテレビ局はLGBTQを扱った子供向けアニメを放映しており、同社社員や関係者の中にはLGBTQが少なくない

 ディズニーにとってはフロリダ州のこの法案は、ビジネス的にも労使関係からも到底受け入れられるものではなかった。

 当時の経営最高幹部が同法案に反対したことからデサンティス氏はディズニー・ワールドに譲与していた「特別自治区」の特権剥奪を決めてしまった。発効は2023年6月。

 一方、拳を挙げたデサンティス氏にとって、ディズニー・ワールドはかけがえのない「金の卵を産む鶏」だ。

 ディズニー・ワールドには、世界中から年間2100万人の観光客が訪れ、関連企業も含めると7万人の雇用を創出している。

 年間の収益は170億ドル、7億8000万ドルの税金を州に納めている。

 元々、この見返りとして、同州はディズニー・ワールドに特別社債発行特権を与え、警察、消防、ガス・電気・水道サービスも隣接するオレンジ郡やオスセオラ郡からは独立させた「自治体」にしてきた。

 ディズニー・ワールドから特権を剥奪すれば、年間7億8000ドルの税収が減り、これまでディズニーが賄ってきた行政サービスは郡が請け負うことになる。

 周辺住民には巨額の納税義務が生じる。住民とっては割に合わぬデサンティス行政ということになる。

 州議会がディズニーの特権を剥奪する法案を成立させたときから反対する声があった。

 それだけにデサンティス氏にとってはギャンブルだった。


ディズニーはフロリダから撤退するぞと警告

 訴状には以下の点が明記されている。

●我々が反LGBTQ法に異議を申し立てること自体、米憲法修正第一条に明記されている「宗教の自由、表現の自由、報道の自由、集会の自由」条項で保障されている。

●これを無視して、フロリダ州がディズニーとの間で取り交わされてきた法的取り決めを一方的に破棄、特権を剥奪することは憲法違反である。

 今回の訴訟について民主党だけでなく、共和党からも「デサンティス氏に勝ち目はないのではないか」といった声が出ている。

 トランプ氏は早速SNSに投稿した。

「ディズニーの次なる手は、もうフロリダ州には投資はしないという決定だろう」

「ディズニーはフロリダ州にある所有財産を段階的に売却し、撤退するに違いない」

「これはキラー(Killer=決定的な打撃)だ。すべては知事の不必要な政治的スタント(人目を引くための行動)にすぎない」

 すでに立候補しているニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事(元国連大使)は「ディズニー・ワールドをサウスカロライナ州に招致したい」と提案した。

 立候補に意欲を見せているクリス・クリスティ元ニュージャージー州知事は、ライブストリームのインタビューでこう言ってのけた。

「こうしたことを言い出す人物(デサンティス氏のこと)が、世界の舞台で中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナ戦争の停戦について話し合うのを見たくはない」

「(凄腕の)アイガー氏を相手にどうするのか。土台、(こんなことを言い出す人間は)コンサーバティブ(保守主義者)ではないね」

(Disney Strikes Back - by Charlie Sykes - Morning Shots)

 LBGTQの合法化に反対してきたのは共和党だ。

 保守派にとってはリベラル派と対決する「カルチャー・ウォー」*1の対立軸の一つであるはずだ。

 少なくともデサンティス氏はそう思って、ディズニーに挑戦したのだろう。それにしてはトランプ氏以下の反応は期待外れだったに違いない。

*1=保守主義者と進歩主義者の間における価値観、歴史観をめぐる衝突。

 ディズニー・デサンティスの法廷論争はどうなるのか。

 ノースイースタン大学のクラウディア・ハウプ准教授はこう指摘している。

「フロリダ州がディズニー・ワールドに与えてきた特権を剥奪する理由が反LGBTQ法に直接的関係しているかどうか、立証できるかどうか。見えない部分が多すぎる」

(why-disney-has-special-status-in-florida-and-why-the-state-wants-to-take-it-away)


デサンティス訪日の旅費、誰が支払ったのか

 ディズニーによる訴えは、立候補宣言を控えたデサンティス氏にとっては出鼻をくじかれた格好だが、さらに「泣きっ面に蜂」のような事態が起こっている。

 外交経験ゼロを解消すべく、デサンティス氏は夫人同伴で4月24日の訪日を皮切りに韓国、イスラエル、英国と4か国の同盟国を歴訪した。

 日本では岸田首相、韓国では韓悳洙首相、イスラエルではベンヤミン・ネタニヤフ首相、英国ではジェームス・クレバリー外相とそれぞれ会談した。

 一介の州知事が主要国の首相と会談するのは異例である。

 NHKによると、日本の場合は、共和党の有力大統領候補と見て富田浩司駐米大使がデサンティス氏に接触、訪日を働きかけてきたとされる。

 呼びかけの背景には、2016年に当時の安倍晋三首相が大統領就任前のトランプ氏といち早く会談し、個人的な信頼関係の構築につなげた経緯があったという。

(デサンティス氏はなぜ日本に?フロリダ州知事訪日の理由を解説| NHK |アメリカ大統領選)

 デサンティス氏の訪日誘致が、今後いかなる成果を上げるか判断するには、まだ米大統領選挙まで2年あり、尚早すぎる。

 ところが、今回のデサンティス氏の4か国歴訪を機に、この費用がどこから出ているのか、疑問の声が上がっている。

 というのも、同氏が2019年に100人の同行者を引き連れてイスラエルに訪問した時の旅費、宿泊費、同行の州職員や護衛の経費、締めて44万2504ドルの大半が州内の12企業から支払われたという事実が明らかになったからだ。

 残りの額は税収入、つまり州の予算で賄われていた。

 その仲介役は、リック・スコット前州知事とねんごろな関係にあった「エンタープライズ・フロリダ」という代理業者だった。

 これは州経済開発庁の報告書に記載されており、地元メディアが特報した。

($442,504 spent to sent Florida Cabinet, dozens of others to Israel)

 デサンティス氏を「聖人ぶったデサンティス」「きわめて不誠実で平凡な知事」と呼んでいるトランプ氏は早速、この問題を取り上げ、こう皮肉った。

選挙戦略がぱっとしないため外遊でゲームチェンジしたのだろう。外遊には納税者のカネを使ったのだろう。カネを使って乗った飛行機の中でいろいろ思いめぐらしているんだろう」

 フロリダ州議会の野党民主党のリーダー、フェントライス・ドリスケル下院議員は、「どうも公明正大ではない。同行させた州職員たちの旅費や宿泊費は納税者の負担になっている可能性は大」と疑っている。

(Ron DeSantis’ trip abroad funded by group despised by Florida GOP)

 デサンティス氏は、こうした疑惑には一切のコメントを避けている。

「出る杭は打たれる」の喩え。

 共和党内の人気・支持はいまもなお抜群のトランプ氏にデサンティス氏が追いつき、追い越すにはまだいくつものハードルがある。

筆者:高濱 賛

JBpress

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