金正恩氏の「放談ジョーク」で毒を盛られた文在寅氏

2018年5月1日(火)6時44分 デイリーNKジャパン


北朝鮮の金正恩党委員長は、先月27日に行われた韓国の文在寅大統領との首脳会談を通じて「意外と柔軟な人物」というイメージを韓国のみならず全世界にアピールした。


会談での金正恩氏の振る舞いは、3月末に行われた中朝首脳会談の時とは大きく違った。電撃的に中国を訪問し、習近平国家主席と初会談した金正恩氏の様子は中国中央電視台(CCTV)によって報じられた。


映像からは、これまで見られなかった金正恩氏の仕草や表情を見ることができる。


女子大生を拷問


訪中時に比べる、今回の金正恩氏にはかなりの余裕が感じられた。アウェイの中国ではなく「準ホーム」で会談が行われたことや、言葉が通じることなどから余裕を持てたのかもしれない。


公開された文在寅氏とのやり取りでは、一貫して友好ムードを演出。さらに、「大統領を未明に起こさないようにする」というジョークでミサイル発射実験停止の意思を強調した。


北朝鮮は、既に核実験と大陸間弾道ミサイル発射実験の停止を表明していることもあり、金正恩氏からすれば気の利いたジョークのつもりだっただろう。しかし、はっきり言って極めて趣味の悪いジョークだ。


北朝鮮は弾道ミサイル開発を「自衛のため」と正当化してきたが、発射実験によって周辺国に脅威を振りまいてきた。とりわけ日韓が大いに迷惑を被ったことは言うまでもない。


過去に自身が振りまいた迷惑を「未明に起こさない」というジョークでチャラにしようとするのは、あまりに虫のいい話だろう。


金正恩氏の笑えないジョークに対して、何も返さなかった文在寅氏もいささか情けない。


北朝鮮は「祖国防衛」という大義名分の下で核・ミサイル開発に突き進んできた。その裏では、自国の民衆たちの人権を今も侵害している。たかだが、韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生を拷問し、悲劇的な結末に追いやる人権侵害に、国際社会は厳しい目を向けているのだ。


韓国側は南北首脳会談に先立ち、早いうちから会談で北朝鮮の人権問題を取り上げる可能性は低いと述べていた。文在寅氏は、今回の会談で北朝鮮の人権問題を正面から諫めることは最初から放棄していた。


百歩譲って、北朝鮮の人権侵害を取り上げなかったことは理解するとしても、「未明に起こさない」というジョークが許されるなら、例えば「ミサイル実験の停止は、北朝鮮の民衆の人権のためにも良いことです」ぐらいの皮肉で返してもよかったのではないか。それぐらい言わなければ、南北首脳会談では人権問題に言及しない、ということが不文律になりかねない。


北朝鮮では、一般民衆が体制を批判することは許されない。しかし、人々の心の自由は、確実に大きくなっている。ときには、金正恩氏のこともキツいジョークで揶揄する。


北朝鮮の庶民たちは、公開処刑、拷問、政治犯収容所に象徴される恐怖政治の下で怯えながら生活し、一寸先は闇の人生を送っている。体制への怒りと不満を抱えた庶民たちからすれば、金正恩氏をキツい言葉で罵倒するぐらいでは飽き足らないだろう。


民主化運動に身を投じ、人権派弁護士として活躍したことで知られている文在寅氏より、北朝鮮の庶民の方がよほど骨があるようだ。

デイリーNKジャパン

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