北朝鮮で続く物価高騰、きっかけは政府発表
2020年5月4日(月)5時17分 デイリーNKジャパン
北朝鮮の市場で流通する工業製品の9割を占めるとも言われている中国製品。とりわけ日用品においては圧倒的なシェアをもち、消費されている。金正恩党委員長が「経済の自力更生」をスローガンとして打ち出し、国産品の生産・消費を奨励していることから、一時と比べて中国製品への依存度は下がったとは言われているが、それでも中国製品なしでは北朝鮮国民の生活が回らない状況に変化はない。
当局は今年1月、新型コロナウイルスの国内での拡散を防止するために、国境を封鎖し、貿易を全面的に停止する措置を取った。北朝鮮国内にはその影響がじわじわと広がりつつある。平壌のデイリーNK内部情報筋は、市場で売られている中国製品の値段が高騰し、一部では売り惜しみが起きていると伝えた。
例を挙げると、胡椒100グラムは先月中旬までは8000北朝鮮ウォン(約96円)で売られていたが、急に1万6000北朝鮮ウォン(約192円)まで跳ね上がり、今では4万北朝鮮ウォン(約480円)まで上がった。また、450〜500グラム入りの化学調味料は、大幅に上がった4万8000北朝鮮ウォン(約576円)で売られている。一方で、砂糖は手に入らなくなった。
価格高騰のきっかけとなったのは、先月17日に発表された「朝鮮労働党中央委員会および内閣共同決定書」だ。
その内容とは「国の経済に不要不急の商品の輸入は減らすべき」というものだ。これに伴い、食品や生活必需品が以前にもましてさらに供給が滞るという不安が高まったことで、価格が2倍近くに跳ね上がった。一時は高止まりで安定したが、先月27〜28日頃から再び高騰が始まった。また、一般商店の中には商品がなく閉店したり、開店休業状態だったりするという。
時計やテレビのリモコンなどに使われるサイズの小さい乾電池は、共同決定書が発表されてからもしばらくは価格が安定していたが、先週後半から急に上昇を始め、今では3〜4倍になった。急に売れだしたことから、今買っておかなければもう買えなくなるかも知れないという不安心理が働き、高騰したようだ。
平壌市内に数多くある電化製品販売店。うち2割は国家委託の商店で品物がないが、残りの8割の個人商店は、在庫がまだ残っているにもかかわらず、早々とシャッターを閉めてしまった。
商店のオーナーたちは、共同決定書のせいで中国から部品が取り寄せられなくなり、金持ちに高く売りつけるために売り惜しみしているのだ。
当局は国境を封鎖した直後の今年2月、品物の流通量を増やすと同時に、値上げに対して締め付けを行うなど、積極的な物価抑制策を行っていたが、共同決定書はその努力を帳消しにしてしまったようだ。
このような中国製品の価格高騰は地方でも起きていると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
恵山(ヘサン)市内の主要な市場では、中国製の化学調味料が4倍に上がった4万北朝鮮ウォン、15日前に1キロ4400北朝鮮ウォン(約53円)だったコメは、5500北朝鮮ウォン(約66円)で売られている。
また、1カートンが1万2000北朝鮮ウォン(約144円)、だったタバコ「長白山」は1万7000北朝鮮ウォン(約204円)に、ライターも700北朝鮮ウォン(約8円)から2000北朝鮮ウォン(約24円)に、いずれも3〜4倍となっている。
地域の商人は、中国が新型コロナウイルスの感染の抑え込みに成功しつつあるとの情報に期待をしていたが、国境が封鎖されたままでいつ貿易が再開されるかわからない状況に、期待をしぼませ、手持ちの商品の値段を上げたり、売り惜しみしたりしている。
市場管理所は統制を強化しているが、商人たちは市場ではなく自宅で商品を売るなどして、取り締まりを逃れている。
ちなみに、平壌では買い占めが起きていると伝えられているが、恵山では起きていないというのが、情報筋の話だ。
北朝鮮の対外向けプロパガンダサイトのEcho DPRKは、平壌での買い占めや物価上昇を否定する内容の動画を公開した。ちなみに、撮影場所は北朝鮮の物価の動きがよくわかる市場ではなく、富裕層を対象とした大聖(テソン)百貨店だ。