アフリカ歴訪の岸田首相も痛感、日本とはケタ違い、中国のアフリカ大陸浸透度

2023年5月9日(火)6時0分 JBpress

「当時、厳しい環境で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに、心が痛む思いです」

「未来に向けて韓国と協力していくことが、日本の総理大臣としての自らの責務です」

 5月7日から8日、ソウルで尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との「シャトル外交」を行った岸田文雄首相は、日韓および日米韓の連携をアピール。19日からの広島G7(主要先進国)サミットを前に、自らの外交成果を印象付けた格好だ。

 このパフォーマンスによって、すっかり忘れ去られてしまったかのようだが、岸田首相のGW外交には、「前半」があった。すなわち、4月29日から5月5日までのアフリカ4カ国(エジプト・ガーナ・ケニア・モザンビーク)歴訪である。


アフリカ歴訪の狙いは「中国対策」

 大事なサミット前に、遠くアフリカまで足を延ばした最大の理由は、「中国対策」である。アフリカに大きな影響力を持つ中国を、「アジア唯一のG7参加国」として牽制しようという狙いだ。

 だが、その思惑は成功したのだろうか? 以下、4カ国について検証してみたい。


エジプトの新首都建設を請け負う中国

<エジプト>
 古代文明の地で、まもなく人口1億人に達する、アフリカの玄関口である。岸田首相は、アラブ連盟事務局訪問、1000億円を限度とする円借款に関する書簡の交換式典、アブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領との会談、大エジプト博物館視察、ムスタファ・マドブーリー首相との懇談、「日・エジプト・ビジネスフォーラム」への出席、日本・エジプト友好レセプションへの出席など、慌ただしい日程をこなした。

 ビジネスフォーラムでのスピーチでは、自信に満ちた口調で、こう述べた。

「現在、エジプトで活動する日本企業は約50社、貿易額としては約13億ドルに上り、両国の往来も盛んになっています」

 だが、中国の昨年のエジプトとの貿易額は、181.9億ドルであり、日本の14倍だ。中国は、2013年から9年連続で、エジプト最大の貿易相手国となってきた。

 エジプトは国土の95%が砂漠地帯で、数少ないオアシス地帯の首都カイロには、2000万人がひしめき合って暮らしている。交通渋滞から大気汚染まで、深刻な問題を巻き起こしていた。

 そこに名乗りを上げたのが、中国だった。エジプト政府は、カイロの東側約50kmの砂漠地帯に、700万人が住むニューカイロを建設する壮大な新首都計画に、ゴーサインを出した。

 この広さ700km2、総予算450億ドルの新首都建設を、丸ごと請け負っているのが中国である。現在、約9000人の作業員が、日夜建設にあたっている。その中心部に建つ78階建てのアフリカ最高層のビルは、すでに2年前に最高層部分に到達した。

 岸田首相が目にしたのは、おそらくそうした「とてつもない光景」だったはずだ。「中国への牽制」というより、「中国の浸透」に恐れ入ったのではないだろうか?


数億円規模の無償資金提供も霞んでしまう中国の圧倒的資金力

<ガーナ>
 チョコレートでおなじみの西アフリカの人口3200万人の国である。岸田首相は、在ガーナ日系企業関係者との昼食会、JICA海外協力隊および若手起業家との懇談、野口記念医学研究所への視察、ナナ・アド・ダンクワ・アクフォ=アド大統領との首脳会談、総額7.66億円となる2件の無償資金協力に関する書簡の交換式典などに臨んだ。

 だが、日本とガーナの2021年の貿易額は、7.73億ドルに過ぎないのに対し、中国とガーナの同年の貿易額は、95.8億ドルと、12.4倍である。同年には、中国からガーナへ1.3億ドルも投資しているのだ。

 中国はガーナを、西アフリカ3億人の中心国家と見ており、アフリカ大陸の中で4位の貿易額を誇っている。そのためコロナ禍の前には、5000人以上のガーナ人留学生を受け入れていた。

 ガーナで客死した野口英世博士は尊敬されているかもしれないが、現在の影響力ということで言えば、中国が圧倒している。


アフリカ連合に本部ビルを「プレゼント」

<ケニア>
 東アフリカの中心国で、人口は5400万人。岸田首相は、在ケニア日系企業関係者との夕食会、ウィリアム・サモエイ・ルト大統領との首脳会談及びランチ、JICA海外協力隊及び若手起業家等による表敬などをこなした。

 日本とケニアのコロナ前の2019年の貿易額は10.01億ドルで、同年の中国とケニアとの貿易額51.73億ドルの5分の1規模だ。他のアフリカ諸国よりも、日中の差が少ないと言える。共同通信の支局も、アフリカではカイロと並び、首都ナイロビに設置されている。

 だが、中国の新華社通信は、中国が国交のあるアフリカ54カ国すべてに支局を持ち、ナイロビにはアフリカ総局を置いている。共同通信の記者は日本語でしか記事を書かないが、新華社通信の記者は英語とフランス語で記事を書いて、ナイロビのアフリカ総局を通して時々刻々と、アフリカ全土に配信している。

<モザンビーク>
 アフリカ南部の人口3100万人の国。岸田首相は、日モザンビーク経済界交流会への参加、フィリッペ・ニュシ大統領との首脳会談及びランチ、三井物産とJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が出資しているLNG(液化天然ガス)開発事業視察、若手青年海外協力隊員や国際機関の邦人職員との懇談などを行った。

 日本とモザンビークとの2019年の貿易額は3.40億ドルで、中国とモザンビークは24.95億ドル(2018年)。やはり7.3倍の開きがある上、中国は昨年9月、モザンビークからの輸入産品の98%を無関税にした。同国の木材や砂利が欲しいのだ。

 このように、重ねて言うが、今回の4カ国歴訪は、「中国への牽制」というより、「中国の浸透」に恐れ入った外遊だったのではないか。実際、岸田首相は行く先々で「アフリカは共に成長するパートナー」と強調したが、日本は国交のあるアフリカ53カ国中、35カ国にしか大使館を置いていない。国交のある54カ国すべてに大使館を置いている中国と対照的だ。

 ちなみに、日本と国交のあるアフリカ諸国も、すべての国が日本に大使館を設置しているわけではない。10カ国は北京にある大使館の駐中国大使が、駐日本大使も兼任しているのだ。

 中国は2009年以降、14年連続でアフリカ大陸最大の貿易相手国であり、現在はアフリカに約100万人の中国人が住んでいる。中国の外相は1991年以降、33年連続で、アフリカ諸国を歴訪することから、その年の外交を始めている。2012年にエチオピアのアジスアベバに、20階建てのAU(アフリカ連合)本部ビルをプレゼントしたのも中国である。

 岸田首相がGWに、思い立ったようにアフリカ4カ国を訪問したくらいでは、「チャイナフリカ」(チャイナ+アフリカ)は揺るがないのである。残念なことではあるが、それが現実だ。

筆者:近藤 大介

JBpress

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