石油依存から抜け出せないどころか高めるロシア

5月16日(木)6時8分 JBpress

ロシア北極圏ヤマル半島のサベッタに建設された液化天然ガス(LNG)プラント(2017年12月7日撮影)。(c)AFP/Maxim ZMEYEV〔AFPBB News〕


プロローグ/ロシアのアキレス腱

 ロシアのアキレス腱、それは経済です。ロシア経済は天然資源依存型経済構造であり、そのような経済構造を筆者は「油上の楼閣経済」と呼んでおります。

 もちろん、旧ソ連邦の資源国や中東産油国もこの範疇に入ります。

 筆者は「油価がバレル1ドル変動すると、あるいはロシア産天然ガス輸出価格が1ドル変動すると、それはロシア経済にどのような影響を与えるのか?」という質問をよく受けます。

 この質問に対する回答は、(ある意味)実は簡単なのです。

 さる情報誌は、油価1ドルの変動はロシアの税収に約20億ドルの影響があると報じています。

 ではこの数字は正しいのか、また油価・天然ガス価格の変動はロシア経済にどのような影響を与えるのか、検証してみたいと思います。


油価とロシアGDP成長率の関係

 ロシア経済は油価に大きく依存しています。過去30年間の油価推移は下記の通りですが、ロシアでは油価が下落すると、必ず何か大きな事件が発生しています。

 旧ソ連邦は1991年12月25日に消滅、ソ連邦を構成する15の共和国が独立しました。

 当時のM.ゴルバチョフ・ソ連邦初代(そして最後の)大統領とB.エリツィン・ロシア共和国初代(そして最後の)大統領間の個人的確執の中で、ソ連邦は解体されました。

 上記は政治的要因ですが、当時油価が1バレル10〜20ドルの低水準で推移しており、国庫財政逼迫化がソ連邦崩壊の底流にあることは間違いありません。

 旧ソ連邦の盟主ロシア共和国は新生ロシア連邦として誕生。新生ロシア連邦のB.エリツィン初代大統領は1999年12月31日、テレビ実況中継で唐突に辞任を発表し、V.プーチン首相を大統領代行に任命しました。

 当時も油価は低水準で推移しており、国庫が払底しました。

 当時のプーチン首相は突然大統領代行に指名され、翌2000年3月の大統領選挙で当選。同年5月、新生ロシア連邦2人目の新大統領に就任した次第です。

 ではここで、油価とロシアGDP(国内総生産)の関係を概観したいと思います。

 プーチン新大統領が就任すると、2003年より油価は上昇開始。プーチン大統領は油価上昇を享受しました。

 大統領就任当初は油価とロシアGDPに正の相関関係はみられませんでしたが、2003年より油価が上昇すると正の相関関係が現れ始めました。特に直近の10年間は下記のグラフの通り、100%正の相関関係にあります。


油価とロシア国家財政の関係

 次に、油価とロシア国家財政の関係を俯瞰したいと思います。

 ロシアの国家予算歳入に占める石油・ガス税収(地下資源採取税と輸出税)は、ロシア財務省の統計資料に公表されています。

 ご関心ある方はロシア財務省の中の国家予算統計数字(https://www.minfin.ru/en/statistics/fedbud/#)をご参照ください。ここに2018年までのロシア国家歳入・歳出実績の内訳が明記されています。

 この数字と油価、および2019〜2021年までの現行のロシア国家予算歳入案に占める石油・ガス税収案の割合をグラフにすると、下記のグラフのようになります。

 このグラフより、ロシア国家予算歳入が石油・ガス税収に大きく依存していることが一目瞭然になりましょう。

 なお、ここで言う石油・ガス税収とは石油・ガスの輸出税と地下資源採取税のことです。

 ただし、ロシアでは今年から石油(原油と石油製品)輸出税を軽減する代わりに、地下資源採取税を増税とする石油分野の税制改革が進行中なることを付記しておきます。


油価とロシア国家予算案の関係

 2019年の国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル63.4ドル、2020年59.7ドル、2021年57.9ドルです。

 今年1〜4月度のウラル原油の平均輸出油価はバレル65.2ドルなので、現在の油価水準はロシア国庫歳入とロシア経済に好影響を与えることになり、ロシアにとり心地良い水準になっています。

 ご参考までに、2018年のロシア期首予算案と実績、および2019〜2021年のロシア国家予算案概要は以下の通りです。

 2018年の期首予算案がバレル40ドルの水準に対し実績は68ドルになり、結果として赤字予算案が黒字になりました。


ロシア原油の対日輸出

 ここでご参考までに、日本はロシア産原油をどの程度輸入しているのか概観したいと思います。

 日本の原油輸入先では、従来から中東依存度が約9割になっています。日本のエネルギー安全保障を考えれば、やはり中東以外からの原油輸入を増やす必要がありましょう。

 中東以外では、ロシアや米国が原油供給源と考えられます。日本はロシアからサハリン1のソーコル原油、サハリン2のサハリン・ブレンド、そしてESPOブレンドという3油種を輸入しています。

 このうち最も多いのはESPO原油ですが、最近は減少傾向にあります。

 日本の原油輸入量は1973年(昭和48年)に最高を記録しました。ロシア産原油輸入量は2015年のシェア8.5%が過去最高となりましたが、以後減少しており、昨年2018年のシェアは4.4%にまで下落しました。

 ESPOブレンドの原油供給源はシベリアと極東です。西シベリアからは総延長5000キロ以上の原油パイプラインでロシア極東コズミノ出荷基地まで輸送され、同基地から環アジア・太平洋諸国に輸出されています。

 西シベリア産原油は軽質油で、従来はすべて欧州方面に輸出されていたのですが、ESPOパイプライン稼働後は東側にも輸出されるようになり、近年は中国向け輸出が急増しています。

 中国にとり2016年以降、最大の原油供給国はロシアになりました。

 ロシアから中国向け原油輸出はESPOパイプライン、コズミノ基地からタンカー輸送、およびカザフスタン経由の3系統になります。

 中国では原油と天然ガスの消費量は伸びていますが生産量は停滞しており、輸入量が増えています。中国では今後もこの傾向が続くでしょう。


油価とロシア経済の関係

 ではここで、「油価バレル1ドルの変動はロシア経済にいかなる影響を与えるのか?」という冒頭の質問を検証したいと思います。

 イメージとして、ロシアの原油生産量は約1000万bd(バレル/日量)です。

 このうち半分の5mbd(日量500万バレル)が原油として輸出され、残り半分が国内の製油所に供給され、石油製品になります。

 石油製品の半分弱は国内で消費され、残り半分強が輸出されているので、結果としてロシアの石油(原油と石油製品)生産量の約8割が輸出されていることになります。

 この場合、油価がバレル1ドル上昇すると、ロシア産原油の輸出金額は1日当たり500万ドルの割合で増えることになり、年換算では約18億ドルになります。

 実際のロシア原油輸出量は5.5mbd(日量550万バレル)なので、1年間で約20億ドルの輸出金額増になります。

 なお、この金額はあくまで原油輸出額の増減であって、国庫税収の増減ではありません(もちろん、正の相関関係はありますが)。

 また税収という意味では油価上昇分は国民福祉基金にも回されるので、国庫税収がその分100%増えるわけではありません。

 上記より、油価がバレル1ドル上がると露原油輸出金額は約20億ドル増え、1ドル下がると原油油輸出金額は20億ドル減少することになります。

 天然ガスも検証したいと思います。天然ガスの輸出税は30%です。ただし課税されるのはパイプライン輸送による生ガス輸出のみで、液化天然ガス(LNG)の輸出関税はありません。

 昨年、ガスプロムは約2000億立米の天然ガスをパイプラインで欧州に輸出しました。

 パイプライン天然ガスの輸出単価は千立米当たりXXドルと表示します。年間輸出量2000億立米の場合、ガス輸出価格が1ドル上がるとガスプロムの年間輸出金額は2億ドル増加します。

 輸出量が1000億立米の場合は1億ドル増加になり、逆もまた真なりです。

 昨年の天然ガス輸出価格は約220ドル/千立米でした。現在は欧州市場におけるガス価格はスポットLNGの流入により下落しており、天然ガス価格水準は200ドル以下になっています。

 ですからこのまま推移すると、欧州大手需要家は5〜6年前と同様、ガスプロムに対し油価連動型契約価格の値引きを要求してくることが予見されます。

 油価変動による輸出金額の増減がロシアの外国貿易/財政/GDPにどのような影響を与えるのかは、その年の貿易額/財政数字/GDP数字と比較すれば、(結果として)具体的な数字(%)として検証可能になります。

 付言すれば、油価が上がると石油製品価格や油価連動型の天然ガス輸出価格も(タイムラグはありますが)上がるので、実態経済への影響力はより大きくなります(逆もまた真なり)。


エピローグ/残された時間はあと僅か

 プーチン首相は2000年5月、新生ロシア連邦における2人目の大統領に就任しましたので、本人にとり今年は20年目の節目の年になります。

 大統領就任後、2003年から油価は上昇に転じ、第1期・第2期プーチン政権(2000年5月〜2008年5月)は油価上昇を享受しました。

 現在、プーチン大統領は第4期目の2年目を迎えています。彼の大統領任期は2024年5月までです。

 あと5年ある勘定ですが、実際には第4期目後半は後継候補者の選定・育成に注力するでしょう。

 とすれば、大統領としての実務を担う期間はあと僅かということになります。

 残された僅かな時間の中で、油価に依存するロシアの経済構造を改革・変革することは恐らく不可能でしょう。

 資源国ロシアが生き残り、さらに発展する途。それは海外との政治経済関係を改善して、市場経済を促進することだと考えます。

 ロシアの石油・天然ガス産業にとり最重要市場が欧州市場であることは今後も不変ですが、東方シフトをさらに推進し、中国や日本を含む環太平洋諸国との関係強化を推進することが必要不可欠です。

 来月6月28日には大阪でG20サミットが開幕します。プーチン大統領も参加予定なので、西側諸国首脳との関係改善を精力的に模索してほしいものです。

 第4期目を迎えたプーチン政権のエネルギー政策が今後どのように展開していくのか、引続き注目していきたいと思います。

筆者:杉浦 敏広

JBpress

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