処刑台に送られた北朝鮮女性10人…命をかけた暴動事件の顛末
2025年5月19日(月)5時8分 デイリーNKジャパン
中国・遼寧省に派遣されていた北朝鮮労働者の相当数が、最近になって帰国したのは本欄でも既報のとおりだ。
デイリーNKの現地情報筋によれば、昨年下半期から先月末にかけて、遼寧省で働いていた北朝鮮の女性労働者たちが段階的に帰国しており、それに伴って彼女らを雇用していた中国企業では操業を停止したり、他地域へ移転したりする事例が相次いでいるという。
派遣労働者の賃金から徴収する上納金は、北朝鮮にとって貴重な外貨収入源だ。それを放棄してまで労働者を引き揚げさせる理由は何か。
情報源によれば、派遣先の工場が中国の住宅地の近くにあり、労働者の生活実態が外部から比較的詳しく観察されやすかったことが、北朝鮮当局にとって負担となっていた可能性が指摘されているという。
これを聞いて思い出されるのが、2024年1月に中国で起きたとされる北朝鮮労働者2000人の暴動事件だ。当時の報道によれば、暴動の現場となったのは縫製工場で、賃金の未払いに怒りを爆発させた労働者たちが工場を占拠した。派遣されていたのは当局側管理者を除き全員が女性だ。読売新聞によると、20歳代の元女性兵士が多数含まれた労働者らは人質に取った管理職代表を暴行し、死亡させたという。
また、韓国紙・東亜日報の同年2月26日付の報道によると、北朝鮮当局は暴動を主導した10人前後を強制的に帰国された。北朝鮮が、こうした反体制的な動きを見逃すことは考えられない。彼女らが極刑に処されたのは、間違いないと見られる。
ただ、暴動の舞台になったのは吉林省の工場だ。遼寧省と異なり、吉林省では現在も北朝鮮労働者が働いているという。吉林省の工場は住宅地と距離があり、一般人の接近が困難であるため、遼寧省の工場よりも管理がしやすいというのが情報筋の説明だ。
いずれにせよ、北朝鮮当局は件の暴動事件以降、労働者の管理方針を大幅に強化したはずだ。吉林省でも、相対的に管理統制が容易な環境の中で、徹底的な監視が行われているに違いない。これに対して遼寧省では、どうやっても管理の強化に難があったということだろう。
果たして、命をかけて暴動に走った女性たちの願いは、一部でも聞き入れられたのか。不祥事を未然に防ごうと思えば、北朝鮮当局としても、労働環境や賃金支払いの改善に動く必要があったはずだ。わずかでもそれが実現し、労働者たちの利益になっていることを祈るばかりだ。