米国に乗り込む文在寅大統領、再び韓国得意の「告げ口外交」か

5月19日(水)6時0分 JBpress

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 韓国の文在寅大統領が5月21日、米国のジョセフ・バイデン大統領とワシントンで会談する。この米韓首脳会談では、米韓同盟の強化や北朝鮮の核問題、中国への対応などが主要な議題になると同時に、日韓関係の改善も論じられるとみられる。

 その際、文大統領は日本側の「非」をバイデン大統領に訴え、日本に対して有利な立場に立とうとする「告げ口外交」を再現するだろう、という予測が米国の専門家の間で語られている。


「米国カード」で巻き返しを図りたい文大統領

 バイデン大統領は、5月21日に韓国の文在寅首相をホワイトハウスに迎えて会談を行う。対面で会談を行う外国首脳は、日本の菅義偉首相に続いて2人目である。

 会談の実施を公式発表したホワイトハウスのサキ報道官は、「バイデン大統領は米韓同盟を強化し、両国間の協力をさらに拡大するために文大統領と協議することを待望している」と述べた。同時に両国政府筋から、今回の米韓首脳会談では、気候変動への対応や新型コロナウイルスの拡大防止などについて協議がなされる見通しが表明されている。

 文大統領も4月末にニューヨーク・タイムズのインタビューに応え、バイデン大統領との会談では、「米国政府が朝鮮半島の非核化のために北朝鮮との交渉を再開し、その非核化のために中国との協力を進めることを望む」という意向を表明した。

 しかし米韓関係はトランプ前政権の後半から冷却化の一途をたどり、近年では最悪の状態にある。とくにトランプ前大統領と文大統領は、米韓同盟や北朝鮮の非核化という主要課題をめぐって見解が一致せず、距離を広げていた。この距離はバイデン政権が登場してもなお埋まってはいない。バイデン政権は早い時期にブリンケン国務長官、オースティン国防長官らを韓国に送り、文政権との関係修正を図ってきたが、その過程で文政権の中国に対する融和的な姿勢や北朝鮮への制裁緩和を求める傾向に不満を表明してきた。

 一方、文大統領は米国の新政権との協調と対米同盟の強化に最大の期待をかけるようになってきている。というのも、文大統領は残りの任期が1年ほどとなり、支持率が政権誕生以来最低という厳しい状況に直面している。自己の政治的存続のためにも「米国カード」「バイデン・カード」を武器にして、巻き返しを図りたいところだ。そのため文政権は、バイデン政権に対してできるだけ早い時期のワシントンでの会談を求めてきた。それだけに、日本の菅首相が先んじてワシントンを訪れ、バイデン大統領と首脳会談を行うと、韓国内では批判や羨望を強くにじませる反応が出ていたのである。


「日本側の原因」を会談で提起?

 しかし、バイデン政権は韓国に対して、米韓同盟の強化、北朝鮮の非核化への協力、中国への対応の是正などとともに、日本との関係の改善や米日韓3国の安保協力態勢の強化を求めてきた。バイデン政権の日本と韓国へのこれらの期待は、ブリンケン国務長官やサリバン大統領安全保障担当補佐官の公式の言明でも再三繰り返された。だから5月21日のバイデン・文会談でも、日本にからむこの議題は当然提起されるとみられる。

 こうした状況に関連して米国の安全保障シンクタンク「ランド研究所」の東アジア安保問題専門家スコット・ハロルド氏は、米韓首脳会談における日本関連の課題について次のような骨子の見解を発表した。ワシントンの外交政策雑誌「ディプロマット」最新号に寄稿した論文である。

・バイデン政権にとって、北朝鮮や中国への対応のために日韓両国と同盟関係を強化することはきわめて重要となった。バイデン大統領は、そのために必要な日韓両国の関係改善を今回の米韓首脳会談で文大統領に求めるだろう。だが日韓両国間には未解決の懸案が多々あり関係の改善は難しい。

・とくに韓国側は、対日関係の悪化は日本側に原因があると認識している。たとえば日本が米国の期待に応じる形で敵基地攻撃能力を保持するという政策も、韓国の安全保障に悪影響を及ぼすという反発がある。そのうえに歴史がらみで日本が不当な言動をみせていると非難している。文大統領はこの種の「日本側の原因」をバイデン大統領との会談で提起するだろう。

・文大統領の政治的状況はレームダックに近い。その状況ではなおさら日本との関係改善策を積極的にとることは難しい。そもそも文大統領は、韓国内で日本に対して強いネガティブな感情や意見を持つ層の支持を得て政権を握ったという背景がある。ここにきてその基本的なスタンスを変えることは困難だろう。となれば、「日韓関係が改善されない原因はあくまで日本側にある」という主張を米国に対しても繰り返すこととなる。

 ハロルド氏は、バイデン政権の現在の政策を踏まえ、韓国側の実態をみたうえで、今回の米韓首脳会談の展開について以上のように予測している。

 韓国のアメリカに対する「日本との関係が悪化し、改善しない原因は日本側にある」という趣旨の説明は、朴槿恵前政権でも顕著だった。日本に直接非難をぶつけずに、第三国の米国に日本への非難を伝えるこの手法は、日本では「告げ口外交」と評されたものだった。その外交パターンがどうやら再び繰り返されそうな気配である。


「告げ口外交」の効用は

 ワシントンの有力シンクタンク「ケイトー研究所」の上級研究員でアジア安保問題の権威であるダグ・バンドウ氏は、ワシントンの政治雑誌「ナショナル・インテレスト」最新号に掲載された論文で、文大統領のバイデン大統領に対する説得や要請の効用について以下のような見解を述べた。

・米韓関係の長年の歴史のなかで、バイデン大統領と文大統領ほど安全保障政策に相違がある首脳同士は珍しい。1990年代の金大中大統領以来の大きな相違といえようか。中国の動きに対する認識、北朝鮮に対する認識は、トランプ政権時代ほどの差異はないにしてもやはり根幹から異なる。だからバイデン政権がこの首脳会談で文大統領から得られることへの期待は低い。

・この点、日本は菅首相が4月に訪米して、バイデン大統領との首脳会談で中国への批判や警戒を明示することで米国の政策に同意した。だが、文大統領はその点で菅首相とはまったく異なるといえる。その結果、現在の米国政府は韓国よりも日本をずっと高く信頼している。この現状に対して韓国側には(日本への)顕著な劣等感がある。そうした感覚は、今回の会談にも反映されるだろう。

 以上のようにハロルド氏とバンドウ氏は韓国の文政権が置かれている状況を客観的に分析している。2人の分析を基にすると、バイデン大統領が文大統領の「告げ口」を聞き入れること、そして、文大統領が米国側の求めに応じて日本との友好や和解の政策を採用することの見通しは、まずなさそうである。

筆者:古森 義久

JBpress

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