「誰も使おうとしない」金正恩の通貨が“紙くず”になる日

2024年5月25日(土)4時2分 デイリーNKジャパン

「豆腐1丁を買いに行ったが、ポケットの中をいくら探っても100元(約2200円)札しか出てこなかった。結局、それで支払い、お釣りで17万8200北朝鮮ウォンを受け取った」


これは、両江道(リャンガンド)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に答えたものだ。


先月27日の時点で、恵山(ヘサン)では1元(約22円)が1800北朝鮮ウォン、1ドル(約156円)が8800北朝鮮ウォンで取引されていた。豆腐1丁は1800北朝鮮ウォンで、中国人民元なら1元、米ドルなら0.2ドルだ。なお、デイリーNKジャパンは、対米ドルレートに基づき、1000北朝鮮ウォンを18円で計算している。


5000北朝鮮ウォン札35枚、1000北朝鮮ウォン札3枚、100北朝鮮ウォン札2枚を受け取った情報筋は、困惑した様子だった。


「100元を出してお釣りで17万8200北朝鮮ウォンも受け取ったが、頑張って使い切らなければならない」


北朝鮮当局は、国内における外貨使用禁止令を度々出している。近々では一昨年10月、昨年4月で、「所持していたら全額没収する、それが嫌なら銀行に預けろ」というものだが、おとなしく従う人はほとんどいない。資産を北朝鮮ウォンで持っていると目減りするからだ。


デイリーNKが北朝鮮で定期的に行っている調査を見ると、北朝鮮ウォンの価値がどんどん下がりつつある。コロナ鎖国直前の2020年1月、1ドル8400北朝鮮ウォンで、一部期間を除けば8000北朝鮮ウォンから8500北朝鮮ウォンを維持してきた。ところが、今年1月末に、最高人民会議で「地方発展20×10政策」が発表されてからウォン安が進み、現在は8850北朝鮮ウォンを記録している。


市場では100元札、100ドル札が多く流通しているが、1元、5元、1ドル、5ドルなどの小額紙幣は流通量が少ない。


その理由について別の情報筋は、北朝鮮国内で流通している米ドルや中国人民元の紙幣は、韓国に住む脱北者、海外に派遣された北朝鮮労働者、外貨稼ぎ機関の幹部が持ち込んだものだからだとしている。


外貨を申告せずに持ち込むことは違法であるため、税関でバレないように高額紙幣を使い、少しでもコンパクトにしようつする。またはそもそもが密輸だったりする。そのせいで、小額紙幣が北朝鮮に入ってこないのだ。


ちなみにコロナ前には、外貨の小額紙幣が流通していた。ところが、コロナで国境が閉鎖されたことで外貨が持ち込まれなくなり、国内で流通していたものはボロボロになって使えなくなった。このような紙幣は、外貨稼ぎ機関が半額で買い取り、銀行で交換するという。


北朝鮮の人々が、意地でも外貨を使い続けるのには理由がある。


「かつてもあったが、北朝鮮ウォンはいつ新紙幣に交換となって紙くずになるかわからないので、人々は使おうとしない」


北朝鮮は2009年11月、突如として貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーションの実施と同時に、新紙幣と旧紙幣の切り替えを行う貨幣改革の実施を宣言した。旧紙幣はすべて銀行に預けさせ、1世帯当たり10万北朝鮮ウォンを限度に引き出しできて、それ以上は無効にするというものだ。


なし崩し的に進む市場経済化を嫌った故金正日総書記は、民間に蓄積された富を一気にチャラにしようと企んだのだ。しかし、それに対する反発は非常に大きく、各地で暴動が起きるなど北朝鮮は大混乱に陥った。その後、新紙幣の引き出し額を引き上げるなどの措置を取ったものの、市場からはモノが消え、ハイパーインフレが起きるなど、もはや手遅れだった。


北朝鮮では当時、抗議行動やこれに乗じた犯罪が続発し、当局はこれを公開処刑などで抑え込まねばならなかった。



この時の記憶から、北朝鮮の人々は銀行や北朝鮮ウォンを全く信用しなくなってしまい、外貨の使用が当たり前のように行われるようになった。金正恩総書記は、市場に対する抑制策を強めており、北朝鮮国民の間に、また同じようなことが起きるのではないかという不安が広がっていてもおかしくない。かくして、北朝鮮ウォンはお釣り以上の価値がなくなってしまったのだ。


いや、それならまだマシかも知れない。


「お釣りで使えるよう額面の低い米ドルや中国人民元がじゅうぶんに入ってきたら、北朝鮮ウォンは一瞬のうちに紙くずになるだろう」(情報筋)

デイリーNKジャパン

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