トランプ訪日の最大成果は「韓国外し」だった

5月29日(水)6時10分 JBpress

千葉県の茂原カントリー倶楽部で、ドナルド・トランプ米大統領(左)を出迎えた安倍晋三首相(右、2019年5月26日撮影)。(c)Kimimasa MAYAMA / POOL / AFP 〔AFPBB News〕


訪日はただの「息抜き」と皮肉る米メディア

 猛暑をもたらしたトランプ旋風が吹き荒れた4日間。この型破りの米大統領は行く先々で歓迎された。

 「自分が初めて」が大好きなドナルド・トランプ氏は土俵に上がる最初の外国元首になりたかったし、即位後の新天皇に会見する初の外国元首になりたかった。

 だから盟友の安倍晋三首相の招きに応じた。

 北朝鮮の金正恩委員長と会談したのも、会談の中身より金正恩委員長と会談する初の米大統領になりたかったからだ。今回も同じ理屈だろう。

 国賓として日本に上陸したトランプ大統領に同行したCNNテレビ記者の第1報。

 「Sumo, golf, and barbecue」(相撲とゴルフと炉端焼き)

 日米間の懸案はそっちのけで訪日したトランプ大統領を皮肉った。

 ロサンゼルス・タイムズは「Trump lands in Japan, controversy in tow」(トランプ、内憂外患を引きずりながら日本上陸)」と報道した。

 ワシントンから逃げ出すように日本へ「息抜き」に出かけた、と嫌味たっぷりな書きっぷりだ。大統領や首相が一番自分は偉いと感ずるのは外遊して持てはやされる時らしい。

 筆者は鈴木善幸氏に首相当時一番嬉しかった瞬間はどんな時か聞いたことがある。

 「そりゃ外国訪問して日の丸をなびかせて車列を組んで道を走り抜ける時だよ」

 鈴木氏がそう答えてくれたのを今も思い出す。権力の座についた者だけが味わう至福の瞬間なのだろう。

 これだけ異例の厚遇受けたトランプ大統領も東京の町を走り抜けるとき、同じ心境だろうと想像する。


「トランプ・安倍の揺るぎない絆にひび割れ」

 だがそれはそれ。

 安倍首相との実質的な会談では、貿易問題でも北朝鮮のミサイル発射実験をめぐっても、持論をストレートにぶつけた。

 しかし、トランプ氏の「すべては結果」というディール哲学とは裏腹に懸案は先送りとなった。

 2日目以降の天皇との会見、日米首脳会談の後、米メディアはこう報じた。

 「Trump and Abe's 'unshakable bond' shows some cracks in Tokyo」(トランプ・安倍の揺るぎない絆にもひび割れ〜ニューヨーク・タイムズ)

 米各紙は、実質的な成果がない限り大騒ぎはしない。

 自国の大統領がいかに厚遇されようとも、首脳会談で具体的な成果がなければ1面トップで報じることはない。絵にはなっても活字にはならない。

 もっともCNNなどはトランプ大統領の東京到着から大相撲観戦、新天皇との会見、日米首脳会談後の記者会見、護衛艦「かが」での演説など克明に報じている。

 ロシア疑惑を何とか切り抜けたにもかかわらず、弾劾の対象にもなりかねない「司法妨害」容疑をめぐって野党民主党との攻防は進行中だ。

 トランプ大統領は訪日中、金正恩委員長が民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領は知能指数が低いなどと述べたとツィッターを発信。

 日米首脳会談後の記者会見では同行記者団からツィッターの真意をただす質問が相次いだ(ワシントンではこの発言が大問題になっている)。

 米主要紙のベテラン記者は、こう指摘する。

 「すでに日米は強固な同盟関係にある。トランプ大統領が日米同盟関係の強固さを示すためだけに4日もワシントンを留守にする理由はどこにあるのか」

 「貿易不均衡問題も解決できないではないか」

 「6月には大統領はEU離脱(ブレグジット)を巡って混迷の度合いを深める英国を公式訪問する」

 「国賓としてエリザベス女王とともに馬車に乗る。絵にはなるだろうが、訪英でも米国にとって国益となる実質的な成果はないだろう。国内政治には何の役にも立たない」

 「2020年の大統領選の前哨戦がすでに始まっている。どこに外遊しようとも、帰国すれば、厳しい現実がトランプ大統領を待ち受けている」


「民主党は大統領への尊敬の念を大相撲から学べ」

 トランプ支持層と反トランプ層にくっきりと分かれる米国の一般市民はどう受け止めたのか。

 トランプ支持の保守系ブライトバード・ニュースの訪日報道にこんなコメントが投稿されている。

 「大相撲での優勝力士は最高の尊敬を受ける。トロフィーを授ける者、受ける者がお互いに尊敬の念を表す最高のショーだ。大統領を愚弄する民主党過激派は相撲から少しは学んだらどうだ」

 「日本人は地球をぶち壊している。奴らは車をはじめとする米国製品を買わずに米経済を脅かしている。奴らはバーバリアン(粗野で野蛮な連中)だ」

 「そんなことはない。日本人は中国人とは違う。私はメードインUSAのトヨタを愛用している。日本車の多くは米国内で米労働者が製造しているのを忘れるな」

 投稿者はトランプ支持だからトランプ大統領がやることなすことについて批判はしない。だが自分たちの生活を脅かすものは容赦しない。

 中にはトランプ支持者でも日本に対する通商拡大法232条項適用決定を引き延ばしたことに不満を露わにする者も少なくない。

 筆者が直接電話して聞いた中西部アイオワ州の食肉生産者、エリック・オークスさん(63=大学で学位を取った白人知識人)はこうコメントする。

 「トランプ氏の選挙公約で言った対日貿易不均衡は首脳会談前から取り上げないことを決めてしまった。いったい何のために東京までのこのこ出かけて行ったのか」

 「それほどまでして『即位直後の新天皇に会見する初の外国元首』になりたかったのか。自分のエゴじゃないか」

 「日本人は形式とか儀式を重んずるとは聞いているが、なぜこんなカブキプレー(大げさに儀式ばって演ずることを指す)をしてまで、日米同盟が最強であることを世界に示す必要があるのか」

 「そんなことをしなくても、かって敵国だった日本は今や英国やカナダに次いで米国人が最も好きな同盟国じゃないか」

(https://news.gallup.com/poll/1624/perceptions-foreign-countries.aspx)


安倍首相の「面従腹背」は百も承知

 それではなぜ日本(安倍首相)がそこまでトランプ大統領に気を遣ったか、だ。

 米国内では「論争の的になっている大統領」であることを知りつつ、安倍首相はトランプ大統領になぜこれほど接近し、個人的関係を大事にしているのか——。

 米国民(特に反トランプの知識人たち)は、首を傾げている。つまり安倍首相率いる日本の本心は奈辺にありや、だ。

 日米関係専門家としてはいま最も高い評価を受けているマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副理事長は、トランプ訪日に同行する記者たちを対象に行った専門家数人との電話ブリーフィングでこう指摘している。

 「安倍首相はトランプ支持では他の外国首脳に比べて群を抜いていた。それでいて、安倍首相が国内政治的に大きな代償を支払ってきたか、というとそうではない」

 「安倍氏の支持率は今なお50%前後。政権就任後7年目で、安倍疲れはあるが政権は安定している」

 「日本としては、朝鮮情勢、中国の軍事的脅威など周辺の環境を見るにつけ、今、日米関係を堅持することが唯一最善の外交だと考えている」

 「そこで安倍首相が、日米関係堅持のために、気まぐれで予想困難なトランプ氏をうまく操縦することを支持している」

(https://csis-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/event/190521_Press_Call_Trumps_to_Japan.pdf)

 その一方で、安倍首相は「面従腹背」を貫いてきた。

 トランプ大統領が離脱を決めた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にしろ、地球温暖化防止のための「パリ協定」にしろ、安倍氏は離脱などせず、指導的立場を貫いている。

 また「米中貿易戦争」の最中でも対中関係改善に動いている。もっとも中国は米中対決が激化しているからこそ、日本に秋波を送っているわけで、安倍首相にとって対中接近できる環境になったと言った方がいいだろう。

 「トランプ大統領は、そのことを百も承知で安倍とのワルツを踊っている。だが、トランプ氏は移り気で衝動的な人物。いつ豹変するかは分からない。そのへんは安倍首相も知っているはずだ」(国務省関係筋)。


今ワシントンは「中国脅威論」一辺倒

 東アジア外交を長年手がけてきた国務省の元高官の一人は、トランプ・安倍コンビが構築しようとしている日米関係の背景をこう分析している。

 「現在ワシントンの政界、シンクタンク、メディアに共通しているのは中国に対する警戒感だ。中国が米国の安全保障を脅かし、その脅威が増大しているという共通認識だ」

 「それを煽っているのはジョン・ボルトン大統領補佐官やマイク・ポンペイオ国務長官だ。彼らはトランプ大統領の『俺は強い指導者だ、勝利者だ、米国を再び強大な国にする』というエゴを煽り立て、対中強硬策を立案している」

 「米軍は中国の南シナ海、東シナ海での軍事威嚇行動を取り上げ、軍事産業はビジネスチャンスと考え、政治家たちは地元の雇用を創造する軍事力増強に異議を唱えるはずもない」

 「トランプ政権が対日重視政策を続ける背景にはこうした中国脅威論がある」

 「北朝鮮に対抗するために日本の軍事力増強を要求するのは、何も北朝鮮だけが主対象ではない。中長期的にはその背後に控えている中国に対抗するためだ」

 在日米軍基地で戦略・作戦を担当してきた米国防総省の制服組OBは、筆者にこうコメントする。

 「日米同盟はトランプ・安倍時代に新たな段階に進化している。『日米安保体制』から着実に『日米新軍事同盟』に衣替えし始めた」

 「日米同盟強化を念頭に安倍首相が推進してきた集団的自衛権の法制化はその主軸となった。米国(軍隊)が第三国の攻撃を受けた場合、自衛隊が日本に対する攻撃とみなして(つまり「存立危機事態」)共同対応が可能になった」

 「米軍は2014年に就役した最新型強襲揚陸艦「アメリカ」(LHA6)とステルス方揚陸艦「ニューオリンズ」(LPT18)を佐世保基地に前進配備、中国などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)攻撃を想定した米本土防衛レーダー(HDR)の日本配備も検討し始めている」

 「航空自衛隊は、現有のF2戦闘機に代わる多用途ステルス戦闘機F35機を米国から大量購入することを決めている。これも中国が第5世代双発ステルス戦闘機J-20を導入したことに対する対抗措置と見ていい」

 「今回の訪日で、トランプ大統領は安倍首相とともに護衛艦『かが』に乗艦し、その後、横須賀基地で演説した。『かが』は事実上空母化が決まっている。日米軍事同盟を表すシンボリックなショーだ」


「韓国抜き」で進む「日米新軍事同盟」

 こうした動きに一番警戒心を強めているのが韓国だ。

 朝鮮日報の東京特派員、李河遠記者はこう指摘している。

 「トランプ政権発足以後、米日同盟が強化される中で現れた現象は、世界の軍事関連歴史を書き改めねばならないほどだ」

 「最新鋭艦の配備、F35ステルス戦闘機の機密提供、MD関連の協調、サイバー・宇宙空間での協力強化・・・」

 同記者は、日米と韓国の関係がぎくしゃくしている中で、「韓国抜き」が進行していることに対する苛立ちと警戒感を露わにしている。

 今回のトランプ訪日が決定した後、文在寅大統領はトランプ大統領との電話(5月7日)で韓国への立ち寄りを要請したという。

 しかしトランプ大統領の回答はけんもほろろだった。その「事実」を漏洩したのは野党議員だったということで大騒ぎになっている。韓国は実に次元の低いことでごたごたしている。

米議会調査局報告:
「文在寅政権で米韓に重大な政策相違」

 米国が「韓国抜き」で日米軍事同盟深化に踏み切った背景には、対韓国不信感がある。

 北朝鮮の非核化を巡って、トランプ大統領と文在寅大統領との間に重大な相違が生じてしまった。

 5月20日に公表された米議会調査局(CRS)の『韓国:背景および米国との関係』は次のように指摘している。

 「北朝鮮問題について米韓両国政府は、ここ数年間緊密に協力してきた。しかしトランプ政権と文政権の下で政策の不一致が大きくなった」

 「ハノイにおける2回目の米朝首脳会談の決裂は、北朝鮮に接近しようとする文大統領の政策にダメージを与えた。既存の対北朝鮮政策に対する立場を変えようとするトランプ政権の試みは不確定的変数を増大させている」

 「両国の大統領の間で、非核化交渉で北朝鮮に譲歩するべきか、するならどのような条件で折れるかなど政策面で重大な相違が生じている」

(https://fas.org/sgp/crs/row/IF10165.pdf)

 さらに徴用工問題、慰安婦問題など歴史認識の問題を巡って日韓の確執は戦後最悪の状況ともいえる。

 対北朝鮮の非核化はもちろんのこと、日韓がここまでいがみ合っている状況では「中国の脅威」に対する中長期的対策で日韓の足並みが揃うはずもない。

 今回のトランプ訪日を後から振り返ってみると、安倍晋三企画・演出の非の打ちどころのない「カブキプレー」の裏で、日米両国は「韓国抜き」の東アジア戦略構築に向けて一歩踏み出したエポックメーキングな出来事であったことに気づくかもしれない。

筆者:高濱 賛

JBpress

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