「やってられない」金正恩の政策に従えなくなった北朝鮮国民

2023年5月31日(水)6時22分 デイリーNKジャパン

最近、北朝鮮の協同農場の入口周辺に、保衛部(秘密警察)の哨所(検問所)が設置された。その目的は、ひとことで言って「強制連行」だ。


金正恩総書記は農業第一主義を掲げ、穀物の増産を目指しているが、毎年のように起こる異常気象、それに対応できない貧弱な防災インフラ、肥料を含めた各種資材の不足などで、凶作続きとなっている。


そして、もう一つ足りないものがある。労働力だ。


平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、保衛部は今月に入って、協同農場へと続く道の入口や、周辺の道の至るところに哨所を設置した。本来、保衛部の哨所は、通行人が許可なく他地域に移動しようとしていないか、禁止された物品を運ぼうとしていないかを検問することだが、今回の場合は若干意味合いが異なる。



保衛員は通行人を呼び止め、住所、名前、勤め先を質問する。そして「今は勤務時間なのになぜほっつき歩いてるのか」といちゃもんを付け、その場で農場での強制労働という処分を言い渡す。北朝鮮では無職や無断欠勤は違法行為となっているため、それを利用した労働力確保だ。


従来、田植えや稲刈りの時期には、都市部の住民を大量動員して人海戦術で一気に済ませる手法が使われてきた。しかし、最近になって動員を嫌がる人が急増。特に、食糧難でまともな食事を取れていない人が増え、また動員に応じても農場で食事が提供されないため、「今日食べる物がない。腹が減ってやってられない」と動員を避ける人が増えているのだ。


以前は、商売が忙しいなどの理由で、担当者にワイロを掴ませて動員を免除してもらう人がいたが、今ではそんなカネもなく、多少の処罰や社会的な不利益があったとしても、動員を避けようという空気が蔓延しているのである。


また最近になり、原因は不明ながら発熱患者が急増。炎天下でも二重三重にマスクを付けたままでの田植えを強いられ、息苦しくてたまらないのだという。


だが、より根本的な問題は人口の減少だ。


世界保健機関(WHO)の資料では、北朝鮮の人口は2021年7月の時点で2566万人となっているが、脱北者で韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏は、北朝鮮中央統計局の内部資料に基づき、2015年には2060万人に過ぎないと報じている。


機械化の遅れている北朝鮮農業、働き手の不足が収穫量の減少に直結しかねない。そのため、無理矢理に人を連れてきて働かせるのだ。もちろん焼け石に水だろうが。


また、働けど働けど貧困から抜け出せない農村に見切りをつけ、様々な手段を使って都市部に移住する人も増えていると言われている。その対策として、農民を強制的に農村に連れ戻したり、都市部の若者、兵役を終えたばかりの人を農村に送り込む「嘆願事業」や「集団配置」を行っているが、すきあらば逃げ出そうとする人が後を絶たず、順調に進んでいないと言われている。


北朝鮮国営メディアは、「農村の暮らしがよくなった」と宣伝しているが、その一方で、農村を革命化(下放)や追放の行き先、つまり流刑地とするという相反するメッセージを出してしまっている。農村は、北朝鮮の失策のしわ寄せを最も受けるところであり、食糧問題の自国だけでの解決は極めて困難と言わざるを得ないだろう。

デイリーNKジャパン

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